音乃木坂図書室 司書
「それにしてもさ、亜里沙ちゃんってすごい可愛いよね。
あと数年したら絵里ちゃんより可愛くなってそうだもん。
いいな、私も姉妹が欲しかったなあ」
とつぶやくことりは一人っ子である。
海未と穂乃果とは幼少の頃から姉妹のように仲良く育ってきたが、海未には姉(少し歳が離れている)が、穂乃果には妹の雪穂がいる。
小さい頃から姉妹への憧れが強かったのだ。
「本当だよ。絢瀬姉妹は反則。かわいすぎるもんあの二人は...
それに比べ高坂姉妹はと言うと...はあ...残念...」
確かに比較対象が絢瀬姉妹というのは少し酷な気もするが、高坂姉妹も決して見劣りするわけではない。
だが自虐的に穂乃果は呟いた。
「雪穂も大人っぽくなってきたじゃないですか。
きっと将来は綺麗になりますよ。穂乃果は...ふふっ...」
「ちょっと海未ちゃん、フフッて何!?私は?」
「穂乃果ちゃんは今も可愛いですよー。おーよしよし、いい子ですね」
「うぅー、ことりちゃんありがとう」
穂乃果の顔を撫で回すことりに甘えて抱きつく穂乃果。
そんな二人を優しい笑顔で見守る海未。
本当に仲の良い3人である。
時には喧嘩したこともあった。
穂乃果が海未に怒られるのはいつものことだ。
それでも小学校に入る前、物心ついたときからずっと一緒だった。
μ'sをスタートさせたのもこの3人であり、常に苦楽を共にしてきた3人である。
これから先もずっとこの3人の関係が変わることはないだろう。
たとえ大人になって離れてしまう時が来たとしても...
「ところで絵里ちゃんはどこだろう... あっ、見つけた、あそこに座ってるよ!
スーツ姿で大人っぽくて、絵里ちゃんは本当に可愛いな...」
絵里を見つけ嬉しそうにはしゃぐ穂乃果であった。
それから20分後...入学式は終了し、新入生は各クラスでホームルームとなり出席者含めそれぞれが体育館を後にする。
そしてここからが生徒会の仕事で、後片付けをしないといけないのだ。
これがなかなかの重労働で大変なのだが、 穂乃果は絵里のことが気になるらしく落ち着きがない。
そんな穂乃果を見かねて海未が言う。
「しょうがないですね...穂乃果、絵里のところに入っていいですよ。
残りは私たちでやっておきますので」
「え、本当?海未ちゃんありがとう大好き」
嬉しそうに海未に抱きつくと、穂乃果は急いで絵里の元へ向かうべく、体育館を飛び出す。
出席者が退席して約10分... まだ絵里はいるかな、という思いで、ダッシュで校門の方へと向かう。
続く
すると目の前にスタイルの良い金髪のスーツ姿の女性を発見し、さらに加速し、その勢いのままに後ろから抱きついた。
「絵里ちゃんみーつけた!!」
突然背後から抱きつかれ思わず、裏返りそうな声で驚きの声を上げてしまった絵里であったが、すぐに声で穂乃果と気づく。
「ちょっと穂乃果ってはびっくりさせないでよ!」
背後からクルリと正面に回り、再び抱きつく穂乃果。
笑顔で絵里の顔を見つめ無邪気な仕草を見せる。
「絵里ちゃん、絵里ちゃん、絵里ちゃん!」
絵里にベタベタな穂乃果は、全然離れようとしない。
まるでご主人様に懐いているいるかのように、あるいは小さな子供が母に甘えるかのようにじゃれつく穂乃果。
「ねえねえちょっとだけ離れて穂乃果。歩きづらい...」
「ごめん、絵里ちゃんに会えたのが嬉しくて、ついテンションが上がっちゃった。えへへ」
「私も嬉しいけど、この前のライブからまた一週間しか経ってないじゃない...この前会ったばかりでしょ」
「それはそうだけど...会いたかったの!」
知らない人が見たらこの光景は百合っぽく見えても不思議ではない。
実際そんなことは一切ないが、そう思われたとしてもおかしくないぐらい絵里にべたつく穂乃果だった。
穂乃果は相当絵里のことを慕っている。
にこや希に対しても同じく慕っているし、大切な友人であり仲間であるが、絵里に対してはその思いが一層強かった。
μ'sの仲間として、大切な友人として、頼れる大好きな先輩として、憧れるぐらい素敵な女性として、穂乃果は心から絵里のことが好きなのである。
絵里からしても思いは同じであった。
友人であり、仲間であり、可愛い後輩であるとともに、自分の恩人に近い存在として穂乃果のことを慕っているのだ。
2人にとってお互いの存在は、自分の運命を変えた人と言ってもいいくらいなのである。
二人はそのまま校舎の目の前にある一本の桜の木のもとに移動し、そこに設置されている椅子に腰を下ろす。
「あれそういえば生徒会はこの後入学式の片付けよね?
生徒会長の穂乃果がこんなところで何してるのよ?」
「それは海未ちゃん達に任せちゃった。へへへでも海未ちゃんが言っていいよって言ってくれたんだよ。
仕事サボって絵里ちゃんに会いに来たわけじゃないからね」
心の中でそれはサボってるような気がするけど...と思いながら、穂乃果は相変わらずだなと笑う絵里。
「 そうそう穂乃果、入学式の挨拶よかったわよ。
途中は何だかμ'sの思い出話や私たちしか知らないことを暴露してただけのような気もするけど... 、
それにしても穂乃果のストレートな言葉っていつも心を動かされるのよね」
「そうなの?私はただ自分の思ったことを言ってるだけだよ」
「穂乃果の言葉にはね、人を惹きつける強い力があるの。
私もμ'sに入る前から穂乃果の言葉に心を動かされてたんだよ」 「
本当?あの時の絵里ちゃんはいつも怒ってるみたいで、私絶対嫌われてるって思ってたけど...」
「そんなことないわよ... 昔のことはいいとしてさ、それより今日の挨拶は最初の予定と違うやつでしょう?」
誤魔化すように小悪魔的な笑みを浮かべて穂乃果を見つめる絵里。
「やっぱりバレちゃってた? さすが絵里ちゃんだね!」
いやそもそも途中で完全にフリーズしていたし、テンパっている様子も明らかだったから、大半の人は気付いてたんじゃないかな...という心の声を抑えて絵里はうんと頷く。
「あれはプランBだったんだ。 考えていた祝辞は忘れちゃって...
もしかしたらあんな展開もあるんじゃないかと思って真姫ちゃんにお願いして用意しておいたんだ」
それはメモとしてちゃんと原稿を用意しておけばいいだけだし、むしろ最初からプランBをやる前提だったんだろうな、という心の中の声を抑え、優しい笑顔で絵里は頷く。
それと同時に絵里の頭の中では、穂乃果に小言を言う海未、それを横でなだめることりの姿が浮かび思わず声を出して笑ってしまっていた。
「どうしたの絵里ちゃん、今面白いこと何も言ってないよ?」
突然笑い出した絵里に対し、少々訝しげな表情をする穂乃果。
「ごめんごめん、ついいつもの絵を思い浮かべちゃったら面白くて。
やっぱり穂乃果は穂乃果よね」
一緒にいるだけで面白いしと思う絵里。
穂乃果の頭の中ではいつもの絵って何だろう?がたくさん浮かんでいた。
「でも雪穂ちゃんと亜里沙がこうして音乃木坂に入学することができて本当に良かった。
昨年の今頃を考えると...ね。
二人とも今日をずっと楽しみにしてたし、亜里沙はスクールアイドルになるって言って気合入ってたから。
今年の音乃木坂は賑やかになりそうね」
絵里は自分達の妹が音乃木坂に入学できたこと、今年も自分の母校である音乃木坂が存続し、新入生がこれだけ多く入学してくれたことを嬉しく思っていた。
それとともに昨年1年間、音乃木坂を救うべくやってきたことを思い出、し感慨深い口調で語っていた。
続く