音乃木坂図書室 司書
そんな絵里と真姫の会話に興味を持ったにこが割って入る。
「ねぇねぇ、何て言うユニット名なの?」
絵里と真姫は一瞬顔を見合わせて同時に言った。
「おしるこガールズ(仮)...」 とても恥ずかしそうな絵里。
おそらくこのユニット名は亜里沙発案なんだろうなと思う絵里であり、それは正解であった。
真姫は後輩のセンスの無さにタメ息をつく。
「はぁ?何それ?おしるこガールズ(仮)って...意味わかんないし,
ダッサいネーミングね。ギャハハハハ...」
大爆笑のにこである。 だが、にこのセンスを考えるとあまり人のことを言えた立場ではない。
クスクス笑っている希が、そんなにこを見て呟く。
「にこっちのネーミングセンスと一緒やん」
「のーぞーみー、言ってくれたわね!」
希の言葉ににこは反応し、立ち上がって希の背後へと回り込む。
そしてあろう事か希の必殺技・ワシワシマックスを希へと仕掛けた。
のだが、あっさりと躱される。
「甘いねにこっち。くらえ、ワシワシマックス・改!」
逆に希の反撃にあるにこであった。 しかも新バージョンへと進化している。
「うぎゃぁぁー!ごめん希、やめてぇぇ...」
見事に撃沈するにこであった。
改めて希の必殺技の恐ろしさをにこは実感する。
果たしてにこが希に勝てる日は来るのだろうか...
「フッ...これで音乃木坂時代から通算でうちの42勝無敗やで、にこっち。うちに勝とうなんて100年早いで」
「うぅ...参りました。すいません...」負けを認めるにこ。
昼間のカフェ、しかもオープンテラス席で何やっているんだという光景である。
だかそれはそれだけ仲が良いという証拠でもある。
どこであろうと、いつもと変わらない4人の姿があった。
胸をさすりながら椅子に座ろうとするにこを横目に、絵里は自分のスマホにメールを受信していることに気づく。
差出人は綺羅ツバサと表示されている。
「あれっ、ツバサからメールが来てる。何だろう?」
絵里と希は大学でA-RISEのツバサと同級生である。
もともとお互いがμ'sとA-RISEという関係で、何度も顔を合わせており、大学で出会った3人はすぐに仲良くなっていた。
そんな2人をにこはいつもうらやましいと思っていた。
メールの内容は”はーい絵里、この前言っていたユニットの方は順調かしら?もし間に合えばだけど、5月に私たちA-RISEのライブに出演してみない?” というものであった。
これを見た絵里はテンションが上がる。
友達とはいえ、まさかプロアイドルのツバサからライブ出演の声をかけてもらえるなんて考えてもいなかったのだ。
すぐに絵里はメールを返信する。
”出たい、出たいわ!でもA-RISEのライブに出ていいの?あっ、私たちのユニット名はBiBiに決まったよ。”
すぐに既読になりツバサから返信が入る。
”全然大丈夫よ。といっても私たちの前座だけどね。オッケー、じゃあ3曲ぐらい用意しておいてね。楽しみにしているよ。詳細はまた後ほど。BiBiのみんなによろしくね!”
約数分のメールのやり取りでBiBiの初ライブは決まった。
大人気のプロアイドル、A-RISEのライブに出演させてもらえる事になったのだ。
前座とはいえ、何の実績もないどころか、まだ結成したばかりのBiBiがプロのアイドルのライブのステージにたつのは異例だろう。
いくらメンバーの3人が元μ'sのメンバーであることを考慮したとしてもだ。
絵里は喜びの余り、大きな声を上げ、立ち上がっていた。
「どうしたのよ絵里、びっくりさせないでよ」
にこが言った。 同じく真姫も言う。
「いきなり叫び出してどうしたのよ絵里」
「フフッ...えりち、何かええ事でもあったんかな?」
希は何となくであるが、予想がついていた。
にこと真姫に向って絵里は笑顔で言う。
「ねぇ、聞いて!いきなりだけどBiBiの初ライブが決まったわ!5月上旬、A-RISEのライブに参加させてもらう。条件は3曲よ。時間がないけどやるわよ2人共!」
これにはさすがのにこと真姫も驚きを隠せなかった。
もちろんライブができるのは嬉しいし、しかもA-RISEのライブへの出演である。
その喜びは計り知れないだろう。
しかしライブは5月上旬、今から3週間程しかないのだ。
「えぇっ!3曲?今から?」
もちろんBiBiにまだ曲はない。 スタートしたばかりで当然である。
作曲を担当する真姫は思わず声をあげていた。
「振り付けは?衣装は?間に合うの...?」
同じくにこも声をあげた。 ここはμ'sではない。
海未もいなければことりもいない。
作詞や衣装をどうするのかという不安は拭えない。
他にも問題は多数ある。 それも絵里は言い切る。
このチャンスを逃すわけにはいかないと言わんばかりに。
「間に合わせるのよ。やるしかないわ!」
こうしてBiBiの初ライブは決定した。
今から約3週間後の5月上旬、A-RISEのライブに前座ではあるが、ゲスト出演という形である。
それにしても急な決定だった。
ライブまでの時間は少ないがやることは多い。
ほぼゼロからのスタートなのだから。
「うちも手伝うよ。BiBiの初ライブ成功させようね。」
「希...ありがとね...」 希のやさしさに絵里は胸が熱くなる思いであった。
「まぁやるしかないわね。曲はなんとかなるだろうし」
「この短期間で3曲よ。間に合うの真姫?」
「ちょっとにこちゃん、私を誰だと思っているのよ。μ'sでどれだけ私が曲作ってきたと思ってるの。3曲何て余裕よ!」
真姫の発言は決して驕りでも何でもない。
最初はこの短期間で3曲と言われて、少し驚きはしたものの、真姫の持っている能力であれば、こなせないことはない。
それだけ真姫は自分の曲作りに対して絶対の自信を持っているし、現にわずか1年足らずの間にμ'sの曲を何曲も作ってきたのだ。
その作曲センスは、A-RISEのツバサを始め誰もが認める物である。
「頼もしいわね。任せたわよ真姫!」
にこは親指をグッと立てて真姫に笑顔を見せる。
それに答えるように真姫はピースをする。
「とりあえず練習の事も考えるとそうね...
1週間時間を貰えるかな。
その間に私は3曲仕上げてくるから、その間ににこちゃんと絵里は作詞をお願い。
何となく局のイメージは後で伝えるから、よろしくね。でも少し心配ね...」
「何が心配なのよ?」 にこが真姫に尋ねる。
「だってにこちゃんも絵里もユニット名があのセンスだから作詞できるのかな...」
「あんた失礼ね、私を誰だと思っているのよ!スーパーアイドルの矢澤よ、作詞くらい楽勝よ!」
「う、うん...」 やはり心配そうな真姫。
とはいえ、あまりセンスはないとはいえ、絵里は語学力も文章力も語彙もあるから何とかなるかなと思う真姫であった。
それ以上に時間もない。 メンバーを信頼するしかない。
再び真姫が言う。
「でも練習場所はどうしようか...まさか音乃木坂でやるわけにはいかないし...」
「そうね、学校の後にどこかに集まって練習しないとだね。」
応えるように絵里が言った。 そしてにこが真姫を見つめて言う。
「ありがとう真姫!」 その一言で真姫は察する。
そう、こんな時に頼りになるのは、いつも真姫しかいないのだ。
「えぇー、また私?まぁ、いいけど...」
とか言いつつも頼られるのがうれしい真姫の顔は嫌な顔はおろか、自分が力になれることを喜ぶかのような笑顔である。
そんな3人の姿を希は暖かい笑顔で見守っていた。
BiBi、初ライブへ向けてスタートである。
続く