音乃木坂図書室 司書
花陽の一言によって、ようやくの事、打ち合わせが始まった。
花陽が続ける。
「もうすでに絵里ちゃんと希ちゃんとにこちゃんも話は聞いていると思うけど、ラブライブ運営本部より正式にμ'sに対してアキバドーム大会へのゲスト参加の依頼があったの。
この件についてどうするかを話し合いたかったから今日みんなに集まってもらったんだ」
花陽の話に先ほどまでの盛り上がりが嘘のように、全員が真剣な面持ちである。
それに応えるように絵里が先陣を切って言う。
「私と希もツバサから聞いたわ。A-RISEの出演の条件をμ'sとの共演にしたって...ツバサったら嬉しそうに言ってくるんだもん。困っちゃうわよね...」
希が蛇足するように言う。
「しかもツバサってば、悪そうな笑顔を浮かべてA-RISEがゲスト出演できなかったらμ'sのせいやでって言ってくるし...」
絵里と希は大学の同級生であるツバサから直接言われていたのである。
これは大学の入学式で3人が出会った時にツバサが考えていた事であった。
ツバサの見事な策略である。
そういう条件付けをすることによって、少なくともμ'sとして何かしらのアクションを起こさざるを得ないのを分った上での計画であった。
だが、すぐさまに、にこが反論をする。
「ていうかさ、話し合うも何もμ'sはもう終わりって私たちできめたじゃないの。A-RISEがどうとかそんなの関係ないでしょうが!」
にこの発言はたしかにその通りであり、皆も納得できるものであった。
しかし、それをきいていた真姫は、素直じゃないなぁと心の中で思っていた。
少し前に、にこの入学式の日に偶然街中で会った2人。
その時ににこはμ'sがやりたいと言っていたのだ。
ボソッと真姫が呟く。 「にこちゃんの嘘つき」
真姫の言葉ににこは食って掛かる。
「何よ真姫。なんで私が嘘つきなのよ!」
「この前と言ってる事が全然違うじゃん!にこちゃんの方こそもっと素直になりなさいよ!」
「私はいつも通りでしょうが!」
2人のやり取を見て、7人はまた始まったと思っていた。
この2人が言い争うのはいつもの事であり、蝸牛角上の争いである。
そこへことりが仲裁へ入る。
「はいはい2人共、夫婦喧嘩は後にしてね。」
「夫婦じゃない!」 見事にシンクロして返すにこと真姫。
構わずにことりはそのまま続ける。
「そうかなぁ、2人はとってもお似合いだよ。でもさ、にこちゃんはμ'sが再び活動するのは反対ってこと?」
「いや...そうとは言ってないけど...」
ことりの問いに対し、にこは黙ってしまう。
みんなにこの気持ちもわからないわけではなかった。
あれだけ9人全員で苦労して考えて、悩んだ末に決めた事である。
すんなりと簡単にまたμ'sをやろうとは言えなかった。
「でもみんなは実際どう思っとるん?6人で新しくユニットを始めようって決めてスタートしたばかりやんか。 そこの今回のμ's復活の話...」
希の言う通り、μ'sの残った6人のメンバーは、音乃木坂のスクールアイドルとして新しいユニットをスタートしたばかりである。
更に真姫に至っては、学校外アイドルユニットとして絵里、にこと共にBiBiを掛け持ちで始めたばかりである。
それぞれ皆が複雑な気持ちであった。
内心ではμ'sをもう一度やりたいと誰もが思っていただろう。
だが新しいユニットを始めて、μ'sは皆で終わりと決めたから...やはりこれは簡単な話ではなかった。
「そうですね...私たちも6人で新しいユニットとして頑張ろうと決めたばかりでしたので...このタイミングでのμ's復活の話は正直まったく予想していませんでしたので複雑ですよね...」
海未が6人の気持ちを代弁するかのように答えるが、その言葉と共に高坂家はしばし静寂につつまれてしまっていた。
皆が何かを考えるかのように下をむいて俯いてしまっている。
だが、そんな静寂を嫌うかのように花陽が喋りだした。
「でもこれだけμ'sに対して復活の声が上がるってことは、今までの私たちの活動が多くの人に認められてるってことだよね。
それは素直に嬉しいよね。それにあのA-RISEから共演したいって言ってもらえるのは凄い事だと思う。
だってプロの大人気アイドルがそう言ってくれるんだもん。やっぱりみんなこうして悩んでるって事は...」
その先の言葉は花陽の口からは出てこなかった。
そこから絵里が花陽の言葉を受け取ったかのように続ける。
「そうよね。本当にすごい事だよね。みんなでμ'sとしてやってきた結果だもんね。やっぱり私もね、卒業してから今でもμ'sの事を考えてしまう事があるの...みんなで決めた事だから、そう簡単にって訳にはいかないと思う。でも...」
絵里もそこで言葉が止まってしまう。 更に希が続ける。
「うちもなぁ、大学の入学式でA-RISEのツバサに再会してから色々と考えちゃって。
μ'sのことはもちろん、みんなの事、みんなで過ごした楽しかった日々の事...
あぁ、やっぱりうちはμ'sの事が大好きでみんなの事が大好きやったんやなって思ったんよね」
「凜もね、理事長に言われて本気で考えたよ。でもね、μ'sを終わりと決めて時に以上に考えたけど、どうしたらいいか答えがみつからないんだ...」
「私もお母さんから言われてびっくりした。だってもうμ'sは終わりって思ってたから。
私はその話を聞いた時に、穂乃果ちゃん、海未ちゃんの3人で何のアテもなくμ'sを始めた時の事から、9人になってみんなで頑張ってきた事とかたくさんの事思い出しちゃって...
私の居場所はここだって思ったんだ。だから...」
凛とことりもそれぞれ自分の想いを言うが、やはりその先の言葉が出てこない。
再び高坂家はしばしの沈黙に包まれてしまう。
重苦しい空気が漂ってしまう。
しかし、そんな空気を打ち破るかのように”ふぅっ”と一息ついて真姫が声を上げた。
「私の中でμ'sはまだ終わってない!」
続く