音乃木坂図書室 司書
「さてと、次のバス停で降りるわよ。穂乃果はちゃんと起きてる?寝過ごさないようにね」
にことのバトルを終えた真姫は皆に言った。
「もー、真姫ちゃんてばー、ちゃんと起きてるってば!」
やや不服そうに穂乃果が言った。
本当に真姫は先輩をイジるのが好きである。
にこが卒業してからというものの、今では完全に穂乃果をターゲットにしていた。
それはさて置き、バスに揺られること約10分、目的地のバス停に到着する。
バスを下車する9人。 目の前にはバスで走ってきた海沿いの道と、山の方に向かう道以外に何もない。
少し細い道を山の方へ歩く事数分で、目的地である。西木野家の別荘へとたどり着いた。
「はい、着いたわよ」と、普通に言う真姫だが、9人の目の前に広がるのはまるでデザイナーズホテルかのように豪華で大きい別荘だった。
真姫以外の8人はその大きさと豪華な外観に驚きを隠せない。
過去2回、西木野家の別荘で合宿を行っているが、今までの別荘よりも格別に大きいのだ。
別荘の裏手にはプールとテニスコートが併設されており、まさにセレブという言葉がピッタリである。
正面の入口から別荘内へ入ると、そこには西木野家の人と思われる男性が立っていた。
真姫が声をかけると男性は一礼する。 執事か何かだろうか...
真姫からは特に何の説明もないまま、リビングルームへと案内され、促されるままにソファへ腰を下ろす9人。
「さてと少し休憩しましょ。今シェフがお茶用意してくれるから」 そこへ穂乃果が尋ねる。
「ねぇ真姫ちゃん。シェフがいるの?」
「当たり前じゃない。今回は1週間も合宿するんだもの。ママがシェフも連れて行きなさいって。これで練習に集中できるでしょ」
簡単に言う真姫だが全員が驚いていた。
今までの合宿では自分たちですべての食事を用意していたが、今回はシェフ同伴なのだ。 しかも西木野家の超一流シェフである。
どれだけ西木野家は凄いのだろうか... そんな真姫の存在に皆が感謝していた。
いつも合宿で別荘を用意してくれて、そしてμ'sの曲すべてを作ってくれる真姫。
真姫がいなかったらμ'sは成り立たなかっただろう。
それほど大きな存在なのである。
年下で生意気だけど、とても頼りになる存在... それが真姫なのだ。
そして誰よりも真姫を愛しているにこが騒ぎ出す。
「ねぇねぇねぇ、部屋はどうなっているの?」
「もちろん1人ずつ個室があるわよ。でも寝る時はいつもみたいにみんなで寝るんでしょ?フフフ...」
「何よ真姫嬉しそうにして。あんたはまた私と一緒に寝たいって訳?本当に子供ね」
「はぁ?そんな事誰も言ってないでしょうが。にこちゃん、あんたバカ!?どうして思考がそんなにバカなのよ。バカすぎてもっとバカになっちゃったんじゃない?」
「ちょっとあんたね、バカバカ失礼でしょうが!ていうかさ、エヴァのアスカみたいな言い方しないでくれる!?」
「えばのあすか...?イミワカンナイ!」
真姫はにこの言葉を理解できてないが構わずに言い返していた。
2人が言い争いを繰り広げる中、他の7人は一切構うことなくシェフの用意してくれた美味しい紅茶と洋菓子を嗜んでいる。
どこであろうと変わらないにこと真姫。
だがいつまでたっても収束がつきそうになり2人を見かねて絵里が言う。
「はいはい、いい加減にしなさい。にこと真姫は2人同じ部屋で寝なさいよ。誰も邪魔しないようにするから」
「それどういう意味よ!」 叫ぶようににこが言った。
「うちが説明したろか?2人はラブラブだから邪魔したらアカンって事やね。だって付き合ってんのやろ、2人は」
「付き合ってない!」 希の言葉に今日も2人は声を揃えて否定する。
相変わらずの2人だ。 だがそんな日常が嬉しく感じる9人だった。
「さてと、2人共気が済んだかしら?そう言うことでみんな、荷物片づけて、30分後に練習始めようか」
緩んだ空気を引き締めるように絵里が声をかける。
さすがは年長組である。
だが...「えっ、もう練習するの?みんなで遊ばないの?」
穂乃果であった。 さらに凜が続いた。
「そうだにゃ、せっかくこんないい所来たんだもん。今日はみんなで遊ぶにゃー」
この2人、初日は練習する気が微塵もないらしい。
本来の目的より、端から遊ぶ気満々である。
更に不満そうな顔のにこが絵里に言う。
「そういう事で(にこと真姫が付き合っているという事)ってどういう事よ!勝手に話まとめて進めないでくれる?」
内心で面倒くさいと思う絵里であった。
何と言っても、今絵里に対して意見を言ってきたのは、μ'sの3バカとよばれている穂乃果とにこと凛の3人である。
「遊ぶって言っても、この辺りは海と山しかないわよ。
もうちょっと先か手前の駅周辺なら色々あるけど、駅までまたバスだし」
そう説明する真姫。 絵里は昨年の海の合宿を思い出していた。
この3人が騒ぐのはいつもの事だけど...と思いつつ海未へとふる。
海未はμ'sの練習メニューを取り仕切る鬼コーチだ。
海未の許可なしで遊ぶことはありえないのである。
「だそうだけど...どうする海未?」
「もちろんダメです。練習です!」
とても恐ろしい視線で穂乃果と凜をにらみつけ、即ダメと言い放つ海未。
それを見た絵里は思わずつぶやく。
「海未...やっぱり恐ロシアね...」
それはいつの日だか絵里が作り出した造語である。
その言葉を訊いたにこと真姫が激しく反応する。
「絵里まだそれ言ってるの?流行らないからやめなって」
「あんたもしつこい女ね絵里!」
「ていうかさ、全然イミワカンナイし」
「いつも私の事バカにしたような言い方してくれるけど、あんたも十分バカよね。あんたの頭が恐ロシアでしょーが」
先ほどの付き合ってるというネタの仕返しとばかりににこと真姫は交互に絵里を否定する。
「うるさいわね、いいでしょ別に。ほっといてよ!」
このBiBi3人による一連のやり取りがわかるのは希だけだった。
他のメンバーには何を言い争っているのか理解できず、ただ3人を見つめているだけだった。
続く