音乃木坂図書室 司書
澄んだ水の渓流に反射する夏の日差し、周囲の木々からは蝉時雨が聞こえてくる。
美しい自然に囲まれた、この場所は広大な敷地を有する西木野家の別荘の敷地内であった。
別荘に到着しそれから30分後の事、9人は荷物をまとめ、すぐ目の前の河原でバーベキュー大会がスタートした。
そもそもみんなで遊びに行こうとなって、なぜバーベキュー大会になったのかと言うと…
近場は行こうと思えばいつでも行けるからと言う理由で却下。
海も次の合宿で行くから却下。
夏フェスはチケット入手ができないから却下。
そして残った案は、海未の山、穂乃果のおいしいものがたくさん食べたいと言う案だった。
それを考慮した結果、真姫が選んだのが、この山の近くの別荘でバーベキューと言うものだったのだ。
しかも西木野家の協力により、食材もほぼ全て用意してくれると言う豪華なバーベキューであった。
準備を進めながら真姫が言う。
「凛と希がいてくれて助かったわね。こんなにすぐ準備ができるとは思ってなかったよ。」
「凛はバーベキュー得意なんだ。中学生までは家族でよくやってたからね」
「うちも昔よくやってたから、バーベキューは得意なんよ」
凛は小学生の頃から、同じく希もバーベキューに慣れていたので、火おこし等がとても手際よく進み苦労することなく準備が整ったのである。
「さてと、準備もできたからいつでも始められるわよ」
真姫がみんなにそう声をかけるが、他のメンバーはまだそれぞれの準備に追われていた。
「待って真姫ちゃん…まだご飯の用意が…あはは!これどうなってるの?えっ…どうすればいいの?」
ご飯を炊くのに四苦八苦する花陽。
炊飯器以外でご飯を炊いた経験のない花陽は苦戦しながら、希に手取り足取り指導を受けていた。
いつでもどこでもご飯に対する執着がすごい花陽である。
一方、絵里と海未とことりはカレーを作るため、野菜を切ったりと準備を進めていた。
だが皆が何かしらの準備をする中、約1名何もしないで箸を片手に騒ぐものがいた。
「ねーまだ?お腹すいたよー早く焼こうよ」 もちろん穂乃果である。
合宿の時もいつもそうだが、穂乃果は食べるのが専門であり、基本的に準備はしない。
「穂乃果も何か手伝いなさいよ、まったく…あそうだ。
ねぇみんなそれぞれバーベキューに使いたい一品持って来てくれた?」
と言うのは真姫。
この日のために、真姫はそれぞれ何かいっぴん持ってくるように皆に言っておいたのだ。
それに凛が答える。
「持ってきたよ。ジャジャーン、ラーメンや!」凛は袋入りラーメンを取り出した。
パッケージにはまるで生麺のような味わい(醤油味)と書いてあり、凛は嬉しそうな顔をしている。
「ラ、ラーメン…?まぁ、まぁ、よく考えてみれば、焼きそばみたいなものかしら…焼きラーメンて言うのもあり…なのかな…?」
やや戸惑い気味に言う真姫。 凛はラーメンが大好物なのだ。
持参したのは有名ラーメン店店主がプロデュースした、今爆発的に売れている商品だった。
「何言ってるの真姫ちゃん。これはちゃんと茹でてスープを入れて具材をのせてラーメンとして食べるの。焼かないにゃ」
「そっ、そう…まぁまぁいいや…」
真姫は小さくため息を漏らす。
だったらわざわざバーベキューに持ってくる必要ないでしょうと言う思いは押し殺していた。
「私も持ってきたよ。見てみてじゃぁ!」と言って穂乃果が取り出したのは食パンだった。
しかもスーパーで売っている切ってあるものではなく、パン屋で売ってるような食パン一斤まるまる1つであった。
「はー!?食パン!?はぁー…」
さらに深いため息をつく真姫。
心の中で意味わかんないとつぶやく。
口に出しては言わなかったが、顔には明らかに出てしまっている真姫。
バーベキューにラーメンと食パン…
さすがμ‘sの4馬鹿、 期待はしてなかったけど、この2人は一体何を考えているんだろうと思う真姫にとどめを刺したのは絵里であった。
「私も持ってきたよ!」そう言って絵里が取り出したのはチョコレートだった。
その辺の店でどこでも売っている板チョコが数枚、しかも暑さで見るからに溶けている。
それを見た真姫は爆発する。
「あんたたちバカじゃないの!?バーベキューにチョコや食パン何か持ってきてどうするのよ!一体どんなもの作ろうってわけ?少しは考えなさいよ!」
この3人、特に穂乃果と絵里は何も考えずに、自分の好物を持ってきただけだった。
興奮気味にまくし立てる真姫をなだめるように希が言う。
「まぁまぁ真姫ちゃん落ち着いて。うちも持ってきたから。冷凍で持ってきたから、そろそろいい具合じゃないかな」
といって希が取り出したのはエビ、ホタテ、イカといったバーベキューにぴったりな海鮮である。
隣に住む祖父母からもらってきたらしい。
さすが頼りになる希であった。
その横では真姫に罵倒された穂乃果と絵里が無言で立ち尽くしていた。
その表情は今にも泣き出しそうなものであった。
「真姫にまたバカって言われた…バカって…」
とつぶやく絵里だったが真姫はスルーする。
「さすが希、信じてたわ。また思った人がいてくれてよかった。チョコや食パンを出された日にはどうしようかと思ったもん。馬鹿の危険水域が限界突破って感じよね。花陽は何か持ってき…だって、まだそれどころじゃなさそうね…」
花陽に声をかけようとした真姫だったが、花陽は未だにご飯を炊くので大忙しだった。
気のせいか目元に涙が浮かんでいるように見える。
穂乃果と絵里に構うことなく真姫は海未にも尋ねる。
「ねー、海未は何か持ってきた!」?」 と言うと…
「私はこれです!」海未は釣竿を取り出す。
「この竿で、今釣ってきますので待っていて下さい!」
現地に行って食材を調達しようとする山ガールならではのたくましい海未だった。
「さすが海未、頼もしいわね…ていうか釣れるのかなあ…?まぁ、まぁいいか。ことりは何かある?」
「私はとうもろこしとメークイン持ってきたよ。お母さんが友達から北海道のお土産でもらってきたやつだからおいしいと思うよ」
それを聞いて真姫は安堵の声を漏らす。
「ことりと希がいてくれてよかった…穂乃果と絵里に聞いた時はどうなることかと思ったから…」
そして真姫は恐る恐る最後の1人μ‘sの4幕の代表的存在であるにこにも尋ねる。「
えーっと、にこちゃんは何か持ってきてくれたのかな…?」
「私はバーベキュー用っていうか、最後に焼き芋しようかなと思ってサツマイモ持ってきただけよ。これ私の好きな品種で甘くておいしいの」
「あれ?にこちゃんなのに何か普通すぎるにゃ!」
「何よ凛、別に普通でいいでしょ。それとも何?私がチョコや食パンを持ってくるような“ばーか“に見えるわけ!?」
にこはわざと馬鹿を強調するような言い方をする。
そして穂乃果と絵里に視線を送る。
追い打ちをかけるようなニコ。2人は半泣きであった。
「そんなバカバカ言わないでよ…」穂乃果が言った。
その隣では絵里が膝を抱えて座り込み、地面に着上でぐるぐると何かを書くようにしてつぶやいた。
「にこにまで馬鹿って言われた…にこにまで…」
絵里はにこにまで馬鹿扱いされたのがかなりショックだったらしい。
しかしにこは料理に関してはμ‘sで一番できるだけあって、さすがにバーベキューに変な食材を持ってくる事はあり得なかった。
今回はにこの完勝である。
楽しいバーベキューで寂しげにへこむ穂乃果と絵里だった。
続く