音乃木坂図書室 司書
第3回ラブライブアキバドーム大会から数日。
初のドーム開催となったこの大会にμ‘sはゲストとして出演し、このライブを持ってμ‘sは活動に終始歩を打っていた。
惜しむ声もたくさんあったが、当の本人たちは最後までやりきったと言う思いで、今は清々しい気分であった。
夏休み、8月に入り東京は例年以上に暑い日が続いていたが、音乃木坂の屋上には今までと変わらずに練習に励む6人の姿があった。
のだが…「イチ、ニッ、サン、ヨン、ゴ、ロク、ナナ、ハチ...」
海未の掛け声が響くが、全体的に怠い空気が漂っていた。
海未の掛け声自体もいつものキレがない。
しかし、それもしょうがない8月の炎天下の中での練習である。
毎日35度を超えるような猛暑日であり、屋上は照り返しもあって、体感温度はもっと高いだろう。
いくら屋上入り口からコンセントを引っ張って、業務用の大きい扇風機を使用しているとは言え限度もある。
「はぁ…海未、もう無理。暑すぎる…」
「うん、私も…水…」そういったのは真姫とことりである。
それに応じるように、額の汗を体で拭いながら海未が言う。
「そうですね…熱中症になったら大変ですし、休憩しましょう…」
すると、全員一斉に日陰の扇風機の前に行くと、倒れ込むように座り、クーラーボックスの中の飲み物をがぶ飲みする。
「ぷっはー、生き返る!冷たくておいしい!」仕事が終わり、ビールを飲むおじさんのように花陽が言った。
「やばいよこの暑さ…死んじゃうって…」その横で扇風機を独占しながら穂乃果が言った。
「穂乃果、扇風機独占しないでよ!」真姫が言った。
「だって暑いんだもん!」
「みんな一緒よ!」言い合う2人。
いつものことである。そこで花陽が言う。
「ねぇ、夏休みの間位、どこかクーラーのある教室使えないのかなあ」
それに答えるのは生徒会長の真姫である。
「とは言ってもねぇ…音乃木坂はすごい設備が整っているように見えても、実はそうでもないし…実際クーラーのある教室って、視聴覚室やPC室ぐらいでしょ。さすがに無理よ」
「真姫ちゃん何とかしてよー、生徒会長でしょう!」
と言うのは元生徒会長の穂乃果である。
「そうね…、無理に決まってるじゃない…生徒数がこのまま増加すれば将来的にはあり得るでしょうけど」
「その頃には凛たちみんな卒業してるんや」
「どうかしら…わからないわよ、閉じる
と言って真姫は穂乃果を見てニヤっとする。
「ねー真姫ちゃん、それどういう意味かな…?」
「穂乃果、卒業できるといいわね。もしかしたら来年は同級生かもよ。そしたら4人でユニットやろうか」
真姫の言葉に穂乃果以外の皆が笑う。そこへ凛が言う。
「そういえば1年生ってどこで練習してるんだろう?」
「1年生はよく区民体育館とか、利用しているみたいだよ。予約しておけば一日100円で利用できるみたい」とことりが言った。
「Ray-OGの3人はよく私の家にいるけど…」穂乃果が言った。
そして海未も言う。
「私たちも少し考えたほうがよさそうですね」
そしてこの日はこのまま練習を切り上げて、6人は部室へと戻った。
部室も相当暑いが、扇風機と冷風機があるので直射日光がない分、外よりはマシである。
戻るなり、風力全開で机にへばりつく6人であった。
「あぁ暑い…クーラーないけど、外よりはだいぶマシね…とは言え暑いけど…昨年てどうしてたんだっけ…」
1人がごちるように言った真姫に、花陽が答える。
「昨年も暑い暑いって騒ぎながら練習してたよね」
「だよね…思い出した。昨年も暑かったよねー…」
結局のところ、昨年から何も変わっていないのだ。
そこへことりが皆に意見を求める。
「暑さ対策、何かいい案ある人いる?」
「はーい!真姫ちゃんの家がいいと思うにゃー!」
すぐさま答えたのは凛である。
それに海未が返す。
「凛、それは真姫に迷惑がかかるじゃないですか!」
「いや、別に迷惑では無いけど、3人組のBiBiならまだしも、6人となると厳しいんじゃない?全体の大きな動きとかもあるからさー」
真姫が言った。
迷惑ではないと言うあたりはさすが西木野家である。
とは言え、いくら家(の地下ルームシアター)が広いと言えど、さすがに6人での練習はスペース的に厳しいと判断した真姫。
続いて手を挙げて言ったのは穂乃果だ。
「はーい!真姫ちゃんの家の別荘がいいと思います!」
穂乃果は、きっと練習よりみんなで遊ぶことをメインに考えているのだろう。
再び海未が言う。
「穂乃果、それは真姫に迷惑がかかるじゃないですか!」
「いや別に迷惑では無いけど、夏休みあと何日あると思ってるのよ。この前合宿やったばかりだし」
合宿をやろうと思えば、いくらでも別荘を提供できるあたりはさすが西木野家である。
とは言え夏休みはまだ1ヵ月近くある。
さすがにそんなに長期間は現実的ではないため却下である。
すると、今度は花陽が手を上げた。
「はーい!真姫ちゃんが生徒会長の権力を行使して、部室にクーラーをつければいいと思います!」
それができるんならみんなそれを望むだろう。
三度、海未が言う。
「花陽、それは真姫に迷惑がかかるじゃないですか!」
「いや、別に迷惑では無いけど…そんなの無理よ…」
「いつも真姫に頼ってばかりでは申し訳ないですよ。他の方法を考えましょう」
海未が言った。そこでことりが提案する。
「ねぇ、夏休みの間だけ練習時間変えるとかはどうかな?例えば早朝練習にして5時から8時に集中してやるとか」
「それはあるね。でもその時間だと学校には入れないし、絶対寝坊する人とかいるわよね。私とか私とか、後は私とか…」真姫が言った。
真姫は朝が苦手なのだ。
毎日の朝練も何とかギリギリ間に合っている位であった。
「それでしたら、朝の練習なら私の家でやりますか?聞いてみないとですが、朝でしたら武道場を使わせてもらえるかと。風通しが良いので比較的練習がしやすいと思いますよ」
「え、いいの海未?大丈夫なら助かるね「
「はいいつも真姫にはお世話になってますし、たまには私も力になれればと。ちょっと確認してみますね」と言って海未がスマホを取り出して、電話をするために廊下へと出て行った。
海未の確認待ちの間、穂乃果が言う。
「ねー真姫ちゃん。合宿やろうよー、海のある別荘で!」
「合宿やるのは別に構わないけど、今やる必要ある?」
「みんなで海に行きたいよー」
「穂乃果は遊びたいだけでしょ…」
「ねぇー真姫ちゃーん」甘えたような声で穂乃果を真姫にまとわりつく。
「暑苦しいって!わかった、考えとくから離れてよ!」
そのタイミングで海未が部室へと戻ってきた。
「何やってるんですか穂乃果は…さて、お待たせしました。午前中であれば使って良いと承諾いただきました。ただし父親が2つ条件があるとのことで、1つ目は礼を忘れることのないようにと」
その言葉に穂乃果が反応する。
「えっ、お礼…うちの和菓子じゃだめかな…?」
「違いますよ穂乃果。入館時、退館時の礼と練習前後の挨拶をって意味ですよ。まぁ穂村の和菓子なら私の両親も喜びますが」
それを聞いて穂乃果は安堵する。
単純な穂乃果はお礼と聞いて、てっきり現金か何かを要求されると思ったらしい。
親友に対して、そんなことを考えるのもまた穂乃果らしいと言えばらしい。
「海未ちゃん、それでもう一つの条件は何?」
ことりが尋ねる。
「もう一つの条件…それはですね…」海未は真剣な顔で皆を見回した。
真面目な性格の海未が放つ、緊張感に、全員が手に汗を握り、海未を見つめ返していた。
続く