伊藤計劃、円城 塔 著
19世紀、人類は死者を復活させる技術を普及させていた。
だがそれは消して蘇るわけではなかった。
また生きていた時と同様に、意識や自我があるわけではない。
あくまで兵器や戦闘要員、はたまた通訳や記録用装置としてであった。
医学生であるジョン・H・ワトソンはある日、教授に呼び出しを受ける。
向かった先はユニバーサル貿易と言う商社であった。
そこで待っていたのはMと言う人物であった。
表向きには貿易会社であったが、そこは政府の諜報機関だったのだ。
つまりは軍事探偵である。
ワトソンは諜報委員として、グレートゲームへの参加を余儀なくされたのであった。
グレートゲーム、ユーラシア大陸を股にかけた大英帝国とロシアの陣取り合戦。
ワトソンはこうしてアフガニスタンへと潜入することになるが、そこで彼を待ち受けていたものとは...屍者の帝国。
そして世界各地を駆け巡ることになるワトソンであった。
伊藤計劃がなくなる直前に、手がけていた屍者の帝国。
エピローグ部をもとに、以降は円城塔が書き継いだ作品である。
合作と歌ってはいるものの、個人的にはあくまでこれは円城塔としての作品であると思っている。
本人も語っているが、伊藤計劃ならばどう書くのかと言う事は、問うことをしなかったと言っている。
伊藤計劃の書いたものを通じ得たものから、自分ならばどう考えることができるのかが問題なのだと。
1人の読者として同じような考え方ができるか、と問われると、必ずしもはいとは言えないかもしれない。
どうしても伊藤計劃との合作と言う先入観が先行しがちである。
ある意味では合作であろうし、それは人それぞれで捉え方が違って当然である。
ただ伊藤計劃が、どのようなことを書きたかったのかを論じたところで、何も意味はないだろう。
素直に作品を楽しむべきである。
物語としては単純に死んだ人間がゾンビとなって活動している世界を描いているわけだが、歴史改変ものであり、歴史的要素も多く盛り込まれており、読み応えのある一冊であることに違いない。