音乃木坂図書室 司書
それから2日後のこと。
この日は日曜日であったが音乃木坂スクールアイドル部の部室にはμ‘sの9人が揃っていた。
2年生の3人も前日に修学旅行から戻っており、大学ライブを2週間後に控えているため、OGの3人も含め、急遽全員が音乃木坂に集合したのである。
集合して早々に、にこが荒い口調で言う。
「もう、どうすんのよ!ライブ2週間前じゃないのよ!」
にこの気持ちはよくわかるものだろう。
確かにμ‘sとしての9人の結束力は凄いが、それにしてもだ。焦燥に駆られても不思議ではない。
何しろ、ライブが間近に迫っていると言うのに、μ‘sとして全く練習ができていないのである。
それどころか、いまだに曲すら決めていない。
衣装のデザインはことりが既に決めているものの制作までには至っていない。
穂乃果、海未、ことりも3人で何回か打ち合わせをしていたが、結局何も決まらずじまいであり、絵里、にこ、希が卒業して、音乃木坂にはいないからしょうがない部分が多いにしても、さすがにこの状況に不安になって当然だろう。
そんなにこを宥めるように真姫が言う。
「まぁまぁ、にこちゃんとりあえず落ち着きなさいな。はい、これにこちゃんに沖縄のお土産ね。絵里にはこれ、希にはこれね」
真姫はOGの3人に沖縄のお土産を渡した。水族館で購入したかわいい人形(ビッグサイズ)である。
「あ、ありがとう真姫…かわいいわねこれ…」嬉しそうなにこである。
その隣では絵里が人形を抱きしめて喜んでいる。
「わー、ありがとう真姫!なにこれ、すごいかわいい!」
おなじく希も喜んでいる。
「まきちゃんありがとね。ところで野生のチンスコウは見れた?」
「どういたしまして。とゆうか希。昨年も同じことを穂乃果たちに言ってたわよね。野生のチンスコウって何なのよ?」
「えっ、真姫ちゃん知らへんの?それはあかんなぁ」
「だから何なのよ。教えなさいよ…」
大学ライブに向けて、いろいろと決めなくてはいけないことが山積みなのだが…机の上には修学旅行から戻った3人の沖縄土産のお菓子を始め、穂むらの和菓子、南家差し入れのケーキ、希が持参した紅茶セット等で溢れかえっており、まるで女子会の様相を呈していた。
ついつい話題も2年生3人の沖縄話で盛り上がってしまう。
「それでかよちんがね沖縄そばを旅する食べ過ぎて大変だったんだよ。お店で2杯も食べたのに、ホテルに戻って夜食でカップ沖縄そばを2つも食べて…白米以外で暴走するの初めて見たけど…花陽ちん食べ過ぎ!」
「いやあ、美味しくて止められなくて…白米以外であんなに食べたのは久しぶりです」
と言う花陽に付け足すように真姫が言う。
「ホテルの夕食はビュッフェ形式だったんだけど、花陽てば穂乃果並みに食べた挙句、部屋戻ってから苦しいって唸ってたんだよ。それなのに夜食でカップそば2つだよ?花陽の胃袋がどうなってんの?本当に意味わかんない!」
「あんなにおいしいものがあったら、食べないわけにはいかないよ。食べれる時に食べておかないと。これが私のモットーなのです!」
そこに穂乃果がぼそっと言う。
「まきちゃん…私みたいに、まるで私が花陽ちゃん並みに食べてるみたいじゃん…」
真姫は一瞬何言ってんだろうと言う視線を送る。どうやらあまり自覚がないらしい。
「待って、その言い方だと私が穂乃果ちゃんより食べてるみたいな感じだよね?」
花陽が言った。「うん、そうだよ」穂乃果が言った。
「いや、そんなことないよ」花陽が返す。
2人の蝸牛角上の争いを7人は呆れるように見ていた。
そこに海未が突き刺すように言い放つ。
「豚と牛が目くそ鼻くそを笑いあってどうするんですか!まぁでも通りで…花陽は少し太りましたね」
なかなかにして辛辣な言葉であるが、太ったと言う言葉に花陽が反応する。
「えっ...何言ってるの海未ちゃん…」
「確かに…少し顔が丸くなった気が、当時海未の言葉に同調するように絵里も言う。
そんな2人に対し、花陽は全否定する。
「なんのことかな…!そんなことないよー…!いつもと変わらないよ…?」
明らかに動揺する花陽、言葉の全てが疑問形である。
花陽の脳裏に、とある光景が浮かぶ。
鬼軍曹と化した海未の姿を知っているだけに花陽は太ったと言うことを認めたくなかったのだ。
だが実際に沖縄から戻って太っていた。
前日の夜に体重計に乗って絶叫した位に…
この日祐子を花陽は1人でこっそりとダイエットに励むことになる。
「沖縄と言えば昨年は大変だったよね。まさか穂乃果ちゃんたちが戻れなくなるなんて予想外やし。それでも6人で構わないから出演してほしいって言われて、凛ちゃんをセンターにして6人でファッションイベントに出たよね。懐かしいなぁ」
希が話題を変えていた。
あの時は出演中止も検討していた。
だが主催者にどうしてもと頼まれて、6人で出演したのだ。
それだけ、μ‘sが与える影響力と言うのはあの頃には大きなものとなっていたのである。
「あの時の凛ちゃんてすごい綺麗で素敵だったなぁ。私のお嫁さんにしたいって思ったもん」
花陽の言葉に凛は少し照れた素振りを見せながら言う。
「ありがとう花陽ちん。うん懐かしいなぁ、あのライブは凛にとって一生忘れることのない思い出だよ」
それもそうだろう。
ウェディングドレスを着ることなんて結婚式の時だけであり、普段の生活できるなんて事はまずない。
それがファッションイベントでのものであったとは言え、貴重な経験である。
しかもそのイベントの模様はアイドル雑誌のみならず、ファッション雑誌でも特集が組まれたほどである。
また、あのライブがあったからこそ、凛は変わることができて大きく成長できたのだ。
ファッションイベントはμ‘sにとっても凛にとっても大きなものだったのである。
「そうね。ファッションイベントでのウェディングドレス姿の凛は素敵だったよね。ねぇ、ところでさぁ...」
楽しい話と懐かしい話題で盛り上がっているところに、今まで皆の話を黙って聞いていたにこが水を差すように物申した。
にこの鋭い視線に全員がにこに注目する。
続く