音乃木坂図書室 司書
-- 6月下旬 --
音乃木坂の学園祭は大成功に終わり、学校は通常通りに戻っていた。
学園祭の翌週の事、相変わらずの梅雨空が続いているが、今日から2年生は修学旅行のため、真姫、凛、花陽の3人は不在であった。
例年であれば音乃木坂の修学旅行は9月であったのだが、昨年の穂乃果たちの時に台風が直撃し、足止めされたと言う経緯もあり、今年からなぜか学園祭後と言うとんでもないスケジュールへと変更されたのである。
ただし、修学旅行先の沖縄は、この時期はもう梅雨も明けており、絶好の観光日和である。
そして修学旅行前に、とあるイベントがスクールアイドル部部室で行われていた。
部室に集まった2・3年生たち。
穂乃果が真姫を見つめて告げる。
「と言うわけで真姫ちゃんを生徒会長に推薦します!」
それは生徒会を後輩に引き継ぐと言う重要な話であった。
だが…「と言うわけでってどういうわけよ!何の説明もないじゃないのよ。イミワカンナイ!」
そう、穂乃果は一切説明もせず、唐突に言ったのである。
真姫の反応は当然だろう。
そこへ海未がフォローに入る。
「えっとですね、生徒会で話し合った結果ですね。真姫が最も適任かと思いまして。頭脳明晰で判断力も決断力もあり、皆の先頭に立つのに1番の人材かと」
そこにことりも加わる。「うん。本当なら元生徒会の2年生から選んでもいいんだけど、生徒会の2年生もみんな真姫ちゃんがいいって言ってて。それに近年は絵里ちゃんから穂乃果ちゃんに引き継がれて、スクールアイドル部から生徒会長が出てるからね」
「うんうん…そっかー…」2人の説明に真姫は右手人差し指で髪の毛先をくるくると回しながら考え込んでいた。
真姫はかなり多忙なのだ。
BiBiとμ‘sicforeverとしてアイドルを活動し、その一方で医学部進学に向けて1年生の時からずっと勉強もしている。
しばらく間を置き、真姫は答える。
「まぁ…何とかなるかなぁ…うちのママも生徒会長だったし、西木野家の娘としては当然だったのかもね。わかった、私が引き受けるわ!」
こうして新生徒会長は誕生したのである。
だが真姫は“ただし…“と言って付け加えた。
「私が生徒会長をやるにあたって、凛と花陽を補佐に任命する!」
真姫はそう宣言し、生徒会長就任を承諾したのだった。
「やっぱりね。そんな予感がしてたんや…」
「うん、私も同じく」と言うのは凛と花陽だ2人はこの話題になったときに、大体こうなることを予想していたのだ。
何とも言えない表情を浮かべる2人に真姫は言う。
「何よ。何か文句あるの?」
何も言わず微妙な笑顔を返す2人。
そこへことりが言う。「まきちゃんは本当に2人と仲良しだよね。ふふふ…」
そう言われた真姫はなぜだか恥ずかしそうにしている。
「ち、違うわよ。2人ならよく知っているし、仕事がやりやすいと思っただけで…」
「相変わらず素直じゃないですね真姫は」
「も…知らない!」
海未の言葉に対し、真姫は照れを隠すようにそっぽを向く。
そんな後輩3人を見て3年生は笑顔だった。
微笑ましい光景、2・3年生は自分たちと重ねていた。
それとともに、この3人に託せば大丈夫と言う思いだった。
そんなこんなで真姫を新生徒会長として、凛と花陽とともにスタートした新生徒会。
それがつい先日の話。
そして今日…、 その3人は修学旅行で不在、当然のように生徒会の仕事も大量に溜まっていた。
部室で3年生の3人は何やら話し合いをしている。
「もう、どうすればいいの!」
椅子の背もたれに思いっきり体を預けて文句を言うのは穂乃果である。
3年生の3人は、7月に絵里と希の通う大学にてμ‘sとして出演することになっているライブに向けての打ち合わせをしていたのだが、全然話は進んでいなかった。
それもそうだろう。
2年生は修学旅行で不在、にこ、絵里、希のOG 3人ももちろんいない。
3年生の3人しかいない状況で決めると言うのは端から無理と言っても良いだろう。
そこに海未が言う。
「とりあえずもう時間もないですし、曲の候補だけでも私たちで考えておきましょう。あと、大変だと思いますが、ことりも衣装のデザイン、制作をお願いします」
そんな海未に対し、ことりはやや気の抜けた返事をする。
「そうだねぇ…うん…ライブのことも決めなきゃいけないし、2年生が戻るまでは生徒会の仕事もやらないとだし、忙しいよねー…雨も止まないし、何だか眠くなって来ちゃったし、お腹も空いて来ちゃったよね…」
「私もお腹すいたよー!ねぇパン買ってきていい?」
ことりに便乗するように穂乃果は言うが…
「ダメです!太りますよ!」
すぐさま、海未に注意される。
「えー、パン食べたいよーお腹すいたよー!」
「さっきお菓子食べたじゃないですか…」
「それとこれは別だよ。パン食べたい!」
子供みたいに駄々をこねる穂乃果にあきれ顔の海未。
「わ…そんな子供みたいなわがまま言わないでくださいよ…さてと。ここで時間を浪費しても仕方ないですし、生徒会室に行くとしますか」
海未はそう言うと、机に這いつくばる穂乃果が言う。
「いいけど…ことりちゃん寝てるよ?」
「えっ!?ことり、起きてください!」
「うんn…あと5分…」 「もう…」
海未は大きくため息を吐きつつ、スヤスヤ寝ていたことりを起こす。
そして何とか2人を連れて生徒会室へと移動する。
まるで手のかかる2人の子供の面倒を見ている母親のような海未だった。
「さぁ、まずはあれを片付けてしまいましょう」
と言って海未が指差す先にはここ数日にてたまった書類等々で溢れていたそれを見て、思わず穂乃果はつぶやいた。
「げっ…ダレカタスケテ…」
その頃、修学旅行で沖縄にいる2年生は水族館を訪れていた。
凛が花陽に尋ねる。
「ん?かよちんどうしたんや?」
「えっ?何も言ってないよ。どうしたの凛ちゃん?」
「助けてって聞こえた気がしたから…」
「ちょっと凛大丈夫?それよりほら2人とも、あっちに凄いのが入るわよ。早く行こう」
真姫が言った。2年生、沖縄を満喫中。
一方、生徒会室で3年生は事務所に作業に追われていた。
今年は新入生が多く各部活動からの申請や要望意見箱からの提案書、他もろもろ前年に比べ仕事量はかなり増加していた。
3人で仕事を始めて1時間集中して仕事を行って、大部分は片付いていた。
海未が言う。「ほら、3人でやればすぐ終わったじゃないですか」
「うんそうだね。ていうか真姫ちゃんたち仕事溜めすぎだよ。あー疲れた」
と言う穂乃果であったが、それと同時にお腹から大きな音が鳴り響いた。
「ふふふ…穂乃果は相変わらずですね。仕方ないですよ、まだ2年生に引き継いだばかりですし、さてと…そうですね、まだ時間も早いですし、今日はこの辺にして、3人でどこかへ行きましょうか」
珍しい海未からの誘いに、穂乃果は喜んで答える。
「うん、いいね。行こっ!クイーンがいいなぁ。バーガークイーン。その後は私の家で打ち合わせしようよ!」
仲の良い3人。いつも一緒だった。
μ‘sも3人で初めて、生徒会も3人が中心となってやってきた。
何気ない会話、楽しい日々…音乃木坂でのそんな毎日がずっと続けばいいなと思っていた。
でももう高校3年生になって3ヶ月。
残された時間はあとわずかである。
それまでは毎日みんなで笑って過ごしていたい…ことりは心の中でそう思っていた。
続く