音乃木坂図書室 司書
音乃木坂で生徒会の仕事を終えた3年生の3人は、学校帰りにファーストフード店へと来ていた。
μ‘sの9人はいつも通っているファーストフード店やカフェがいくつかあり、ここバーガークィーンもその一つである。
この店舗の最大の特徴が、アメリカから上陸してきた店舗名だけあり、メニューのサイズが大きいのだ。
もちろん日本人向けに少し小さいサイズも取り扱っているのだが、食欲旺盛な穂乃果には関係ない。
もちろん迷うことなくいつも大きいサイズを注文する。
「ねー見てみて!ビックチキントマトビーフバーガーだよ!美味しそう!」
嬉しそうな顔で言う穂乃果。とんでもないメニューだ。
特大サイズのパンにチキン、トマト、ビーフのパテを挟みチーズ、オニオン、ピクルスに特製の濃厚ソースで仕上げた逸品である。
それを見て海未がつぶやく。
「穂乃果…絶対太りますよ…はー…」
しかしその隣で、ことりもテンション高めに声を上げる。
「これすごいでしょ、チーズチーズチーズ。チーズだらけ美味しそう」
それはビーフを4種のチーズで挟み特製チーズソースで仕上げた逸品である。
チーズ大好きのことりは幸せそうな笑みを浮かべている。
「2人とも、よくそんなの食べれますね…」
穂乃果とことりのバーガーを見て、軽く胸焼けしそうな海未であった。
バーガーをほおばりながら穂乃果が言う。
「でも2年生はいいよねー、私も沖縄行きたかったなぁ」
「なにいってるんですか。昨年私たちも行ったじゃないですか」海未が返す。
「うん、そうだけど私たちの時は二日間雨だったからさぁ。もっと行きたいところあったんだけどなぁって思って。とりあえず2年生の3人にはお土産たくさんよろしくってメールしといたよ」
「ふふふ…穂乃果ちゃんらしいね。そうだね、昨年の私たちの時は台風直撃でこっちに帰って来れなくなっちゃったもんね。ファッションイベントも出れなくなっちゃったし…ファッションイベントに出れなかったのは残念だったなぁ」
ことりはμ‘sの衣装担当であり、将来は服飾の道へ進もうとしている。
それだけファッションイベントに出れなかったのは残念な思い出だった。
しかし…「それもあって、りんちゃんがセンターでウェディングドレスを着て歌うことになってね。あれがあって凛ちゃんもすごい変われたから結果としては良かったのかな」
ことりが付け加えた。
凛は誰よりも自分に対して自信がない1人だった。
μ‘sに入ったものの、あくまでメンバーの1人であり、いつも端にいて前に出ることを決して好まなかった。
と言うより拒否していた位だ。
その凛がファッションイベントを通して変われたと言う事は、自分がイベントに出れないと言う思い以上に、後輩が成長してくれたと言う喜びの方が大きかったのである。
懐かしそうに言ったことりに穂乃果も言う。
「懐かしいねぇ。もう1年近く前のことか…あの時花陽ちゃんから電話があってね。うん、あの時の私たちの選択は正解だったよね」
「そうですね。そんなこともありましたね。そういえばあの時のイベントで絵里はスカウトされたらしいですが、さすが絵里ですよね」
「あぁそうそう!私も絵里ちゃんから聞いたよ。困ったって言ってたけど、さすが絵里ちゃんだよ。スタイルも良いし、誰よりも可愛いし、モデルになれるよね!」
穂乃果が言った。
「将来、私が作った服をえりちゃんに来てもらってファッションショーできたら素敵だなぁ」
ことりが言った。
懐かしい話題で盛り上がる3人。
「沖縄…また行きたい。ゴールデンウィークの合宿、すごい楽しかったから…」
穂乃果が言った。
この時ことりは逡巡していた。
まだ2人には海外留学の話はしていない。
留学先がまだ決まってないので伝えていなかったが、もう伝えるべきか…自分の中では全てが決まってからと考えていた。
でも将来の話とかはこの時期になれば嫌でも話題になるものだ。
そんな思いをめぐらせることり。
「ことりちゃん?ねぇことりちゃんどうしたの?」
気づけばうつむくように無口になっていたことりを心配するように穂乃果が言った。
ことりはいつもの笑顔で返す。
「うん、なんでもないよ。うん、みんなでまた… 9人で絶対にどこか行こうね。約束だよ」
「そうですねまたみんなでいきましょう」
「うん!海ちゃんとことりちゃんと… μ‘sの9人で行こうね!」
それはことりの切実な思いだった。
高校を卒業したら自分はもう日本にいない…残された時間の中で少しでも多く、みんなと一緒にいたいと思うことりだった。
こうして3人はファーストフード店で空腹を満たし、穂乃果の家へと向かった。
少しだけ時間は進み、その日の夜の事…修学旅行で沖縄へ来ている2年生の3人。
3人は同じ部屋であり、トランプをしながらおしゃべりに興じていた。
話題はもちろんスクールアイドル、ラブライブ、μ‘sについてだった。
「てゆうかスケジュールやばいよね。修学旅行の後はラブライブの最終予選に期末テスト、大学ライブにラブライブアキバドーム大会…それに加えてまきちゃんはBiBiでのイベント出演とかもあるし」
花陽が言った。
「確かにね。でも予定があるって事はありがたいよね。それだけμ‘sもそうだし、BiBiもみんなに認めてもらえたってことだし」
「それもそうだね。でもさぁ真姫ちゃんはそんなに忙しいのに、いつ勉強してるの!いつも成績は1番だし医大進学に向けての勉強もしてるんでしょう?」
「そうよ。いつも家に帰って3時間ぐらい勉強してるよ」
「げっ…そんなに!?だってμ‘sicforeverとBiBiの練習もして、しかも曲作りもして、さらに毎日勉強してって…まきちゃんいつ寝てるの?」
思わず質問を連発する花陽に真姫は答える。
「いつも寝るのは2時半位かな。私も医者を目指している位だから、睡眠が大事なのはもちろんわかってるけど、時間がもったいない。つい勉強したりなんだりで、いつもそのぐらいの時間になっちゃうのよね」
そこへ凛が言う。
「まきちゃん、もっと睡眠とらないと成長しないにゃ。特に胸とか胸とか後は胸とか…」
「ちょっと凛、失礼ね!それ全部胸じゃん!それはにこちゃんに言ってあげて!」
そう言って笑う凛に絡み付く真姫。
そこに花陽も加わる。本当に仲の良い3人である。
そして花陽が言う。
「μ‘s楽しみだね。あと少しだけど、μ‘sの9人で活動できるのが本当にうれしい…」
「うん、でも同じだよ。卒業した先輩達とまた一緒にμ‘sでライブ出れるんだもん。テンション上がるよね」
「そうね…私もμ‘sは楽しみ…でもね1つだけ言っておくわよ。μ‘sが終わったとしても私たち9人は今までと何も変わらない。今までと一緒だよ。ねぇそうでしょ!」?」
真姫が2人に問うように言った。
「もちろんそうだよ。私たちはずっと一緒だから」花陽が答えた。
凛は真姫に飛びつくように抱きついて言う。
「そんな当たり前のこと言わないにゃ。凛たちはずっといっしょだよ。だってみんながいてくれたから今の凛がいるんだもん。これからもずっと一緒だよ」
そんな2人の言葉が真姫にはすごく嬉しかった。
思わず目元に熱いものを感じる真姫だった。
「μ‘sのライブ、楽しもうね」真姫は花陽と凛に飛びついていった。
2年生の3人は3年間音乃木坂に一緒にいれる。
だが、毎年先輩の卒業を見送ることになる。
言い方を変えてしまうと、3人は最後まで音乃木坂に取り残される形になる。
先輩がいなくなるのは寂しい。
できればずっと一緒にいたい。
でもそれは叶わぬ思いだ。
卒業は嫌でもやってくる。
でも… μ‘sの9人が変わる事は無い。
改めてそれを実感する2年生の3人であった。
この日の夜、3人は夜遅くまで語り明かしていた…
続く