安里 アサト 著 しらび (イラスト)
ランスルーザバトルフロント(上下巻)
特別偵察ーそれは祖国により人型の豚と扱われ、戦場に捨てられた少年たちの最後の任務である。
任務期間は無制限、偵察目標は最終的に前進できた地点ーつまり、死ぬまで敵地を進めと言う死刑宣告であった。
それがサンマグノリア共和国が86と呼ばれる少年兵に与える最後の指令である。
数々の戦場を生き抜いてきたスピアヘッド部隊の生存者5人も特別偵察の指令が下っていた。
当初の予定よりも進むことができた彼らであったが、そこはレギオン支配域である。
いよいよ最後の時が迫ってきていた。
武器の残薬もそこをつき、敵に囲まれ、死神と呼ばれるシンを持ってさえ、生き残る事はできない…
敗北を喫し薄れゆく意識の中で見たのは死んだ兄の姿だった…
気がつくと、そこは見知らぬ場所だった。
絶望の中、シンは生きていたのである。
そこはギアーデ連邦(旧ギアーデ帝国)の病院であった。
スピアヘッド部隊の5人は死ぬことが任務の特別偵察を生き抜き、ギアーデ連邦に保護されたのである。
レギオンを開発したギアーデ帝国はレギオンにより滅ぼされ、以降、ギアーデ連邦はレギオンとの戦争を続けていた。
保護された5人は一時の平穏を得ていた。
人型の家畜とののしられ迫害された86の5人は、人間らしい生活を満喫していた。
だが心の底で自分たちの居場所はここではないと感じていたのだった。
彼らは再び戦場に戻ることを選択し、連邦軍に志願し、戦場の最前線へ戻ったのであった。
ギアーデでにはレギオンの大攻勢が迫っていた。
さらに超長距離の電磁加速砲による攻撃を受け、ギアーデ連邦軍は大打撃を受け、サンマグノリア共和国は、壊滅状態となってしまう。
電磁加速法を搭載したレギオンを倒さない限り人類に未来は無い。
だがしかし、それは敵の支配域のど真ん中に攻め込むと言うこと。
そこにシンたち86のいる部隊を突撃させると言う作戦が決行される。
死が確定していた特別偵察を生き抜いた彼らは、再び生還率の可能性が極めて低い戦場へ向かう。
なぜ彼らは戦うのか… シンは苦しみながら再び死地へと赴くのであった…
今作のEP2とEP3はEP1の終章へと続くストーリーである。 特別偵察から2年、スピアヘッド部隊をハンドラーとして指揮していたレーナとの再会までの、それぞれ(主に86の5人)を描いたものだ。
レギオンに敗北し、死んだはずだったのに生き残ってしまったシン。
何のために生きているのか、どうして戦うのか、また兄の亡霊に苦しむ姿等々、シンの苦しい心胸が描かれている。
後半のレギオンとの戦いの模写については、少し退屈に感じられる部分もあるが、苦しみながらもたどり着いた場所でのシンとレーナの予期せぬ再開を経て、EP1の終章へつながる展開は十分に読み応えがある。
今作より登場する少女フレデリカとのやりとりから自らが目指すべき場所、その答えに気づくシンであるが、今作ではフレデリカの存在が大きな鍵となっている。
10歳らしからぬ物言いとは裏腹に、年相応の可愛い姿もあったりと、フレデリカに注目して読むのが個人的にはいいと思う。
前作に続き今作もとても面白く読み応えのある作品である。