音乃木坂図書室 司書
ラブライブ関東地区最終予選から3日後。
最終予選はライブ後、48時間投票が可能となっており、現地での票とネットでの投票結果により、決勝大会進出チームが決まる。
本来なら2日後に結果発表だが、大会が金曜だったため、3日後の月曜、本日の16時に結果発表となっていた。
スクールアイドル部部室には部員全員が集まり、結果発表を待ちわびている。
PCの前に鎮座する花陽は微動だにせずモニターを見つめ…そして16時になった瞬間…
「きました!結果が発表されました!」叫ぶように花陽は言った。
それと同時に全員が花陽に注目する。
みんなが期待する表情だ。そう、Ray-OGの決勝大会進出を。
「それでは発表します。第3回ラブライブアキバドーム大会、関東地区最終予選の結果は...」
花陽は息を飲み込み、マウスをスクロールする。
「第1位は…Cestlavi東京UTX高校。第2位にSnowdrop神奈川横浜女学院。第3位milkyway東京押上ST高校。そして...」
3位までにRay-OGの名は無い。
ここまでの順位は順当と言えるだろう。全員が祈るように花陽の言葉を待っている。
残すは1枠のみ。だが…
「第4位.I wish 埼玉浦和美園学院...」
そこにRay-OGの名はなかった…部室は静まり返っていた。
誰もがRay-OGのあのパフォーマンスを見て、決勝大会進出を信じていた。
だが決勝大会進出上位4チームのところに、彼女たちの名前はなかった…
花陽が続ける。
「第5位.Ray-OG 東京音乃木坂学院...残念です...」
結果は5位であった。
上位3チームは戦前の花陽の予想通りであり、4位のチームとのほんのわずかの差であった。
本当にわずかの差だったが、その差がこの結果である。
惜しくもRay-OGは地区最終予選にて敗退となり、決勝大会へと進む事は叶わなかった。
これがスクールアイドルの世界の厳しい現実である。
前回大会でμ'sが決勝大会へと進出したのと同時に、A-RISEが予選敗退したのと同じように…実力があっても負けてしまう時はある。
人気があってもそれだけでは勝ち進めない。
それがラブライブと言うものなのだ。
静まり返る部室の中で、結果とは対照的にRay-OGの3人は笑顔であった。
1年生はきっと、全力でやり切ったから残念な結果だったけど、満足のいく大会だったのだろうと思っていた。
だが2・3年生には3人の気持ちがわかっていた。
全力でやったのは間違いない。結果に対しても素直に受け入れるしかない。
でも悔しくないはずがない。最終目標はここでは無いのだから。
その笑顔の裏に隠された思いに2・3年生は気づいていたのだ。
それはかつて自分たちも経験したことだから…
そこにRay-OGのリーダーの雪穂が言う。
「みんな応援ありがとうね。結果は残念だったけど、みんなの応援があったから全力でやりきれたよ。次の大会ではみんなでリベンジしよう!」
明るくいった雪穂の言葉に1年生は全員笑顔になっていた。
この辺は穂乃果の妹なだけあるといったところだろう。
こうしてRay-OGのそして音乃木坂スクールアイドル部一年生のはじめてのラブライブ挑戦は終わったのであった。
その日の放課後…時刻は19時を回っていた。
すでに下校しないといけない時間であるが、音楽室からはピアノの音が聞こえていた。
それは梨緒だった。1人で何かに没頭するかのようにがむしゃらにピアノを弾いている。
その曲のメロディーはとても美しいものであったが、とても悲しくもあった。
そんな後輩の姿を音楽室の扉ごしに真姫は眺めていた。
そして軽くノックをし、音楽室の中に入り真姫は梨緒に声をかけた。
「お疲れ様、とても良い曲ね」
真姫に気づかずピアノを弾いていた梨緒は少し驚いた顔をして手を止めた。
「あぁ…真姫先輩…お疲れ様です。まだ帰ってなかったんですか?」
「えー、生徒会の仕事が残ってたからね。Ray-OG、惜しかったね。あと少しだったのにねぇ…」
真姫は唐突にRay-OGの話題を持ち出した。
一瞬梨緒の顔に悲しみのような表情が見えたが、すぐに元の顔で行は言う。
「はい。でもしょうがないですね。これが今の私たちの実力だと思って受け入れるしかないので…」
「そっか…思っていたよりも元気そうで安心したよ。でもね、辛い時ぐらいは素直になってもいいと思うよ。梨緒の弾いている曲…とても良い曲だけど、私にはまるで梨緒が泣いているみたいに聞こえたから…」
真姫の言葉に梨緒は驚いた顔をしていた。
まるで自分の内側を見透かされたようで…
「真姫先輩はずるいなぁ…いつも何でもお見通しなんだもん…」
そういった梨緒の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「本当は私…勝ちたかった…勝ちたかったです…μ'sと同じ舞台に立ちたかった…」
梨緒は真姫の肩に凭れるようにして泣き崩れていた。
そんな後輩を真姫は優しく受け止める。
その姿はまるで昨年の絵里や希のようであった。素直になれない自分、それを受け止めてくれる先輩…
昨年と立場は逆になり、自然と真姫はその役割を務めていたのであった。
「贔屓目なしで、私の中ではRay-OGが一番だったよ。次は私たちと一緒に決勝の舞台に行こうね」
真姫はそう言って梨緒を優しく抱き寄せた。
梨緒は真姫のやさしさに心から感謝していた。
そして綾瀬家では...帰宅するなり姉の絵里に抱きついて大号泣する亜里沙だった。
学校では我慢していたが、誰より悔しい思いをしていた亜里沙は、姉の姿を見た途端に感情が爆発してしまったのだった。
そんな妹に絵里は優しく言った。
「亜里沙、この悔しい気持ちは絶対次に生きるから。次こそ決勝大会に進めるように頑張ろう。私も応援してるよ」
妹想いの優しい絵里であった。
そして高坂家では…夕飯を終えて、今でくつろぐ穂乃果と雪穂。当然話題は最終予選の事となっていた。
「でも惜しかったね、Ray-OG。あとほんの少しだったのにね」
「うん、まぁしょうがないよ。
だって上位4チームのうち、2チームは前回大会に出ている神奈川と埼玉の優勝チームで、残りの2チームも昨年μ'sと争ったチームとA-RISEの後輩だもん。
なかなか厳しいよね…でもそんなメンツの中でやれたのは凄い良かったと思う」
「そうだね。でも私の中ではRay-OGは本当にすごかった。
これは姉妹とか学校の先輩後輩って言うのを抜きにして、純粋に1番だと思った。
それぐらいRay-OGのパフォーマンスは飛び抜けていると思ったから」
「そっか…ありがとうお姉ちゃん。じゃあ私部屋戻るね」
そっけなくそういうと、雪穂は部屋へ戻った。
元気そうに見えるが、平静を装っているが、内心ではそうでないことを穂乃果はわかっていた。
きっと部屋に戻ったら泣いてしまうだろう。…
自分が昔、無理をしてラブライブに出れなくなってしまったときに、悔しくて悔しくて、隠れてずっと泣いていたから…
穂乃果は雪歩の部屋の前で立ち止まった。
中途半端に何かを言ってもしょうがない。
扉は開けずに、一言だけ穂乃果は声をかけた。
「雪穂、次の大会はμ‘sicforeverとRay-OG、一緒に決勝大会行くよ。必ずね!」
Ray-OGの3人、結果は惜しくもわずかに届かず決勝大会へと進むことができなかった。
3人がそれぞれ悔し涙を流した。
だがこの経験は3人にとって大きなものとなったことに違いない。
悔しさの先にあるもの…この経験は必ず自分たちにとって大きな財産になるはずだ。
今日と言う日があったからといつか笑える時がやってくる。
かつてのμ'sが、そして穂乃果がそうであったように…
続く