十二国の世界観

丕緒の鳥 十二国記


丕緒の鳥 (ひしょのとり) 十二国記

小野 不由美(著)

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小野 不由美(著)

十二国記の世界観を庶民の立場から。

慶国に新王が登極した。

陶工である丕緒は新王の祭祀に行われる儀式、大射を前にして悩んでいた。

鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。

だがそれは国の理想を表すものなのである。

鵲(かささぎ)を陶製で作る陶鵲は、それこそ美しいものであり、射貫かれても華やかでなくてはならない。

しかし丕緒は鵲の姿を民に重ねていた。

王が、権力が民を射貫いて、砕け散る事などあってはならぬと...

表題作「丕緒の鳥」を始め、国が傾きつつある柳国にて、極悪はんに対してどのような裁きを下すかを問う、役人・瑛庚の心の葛藤を描いた「落照の獄」、疫病にかかったブナ林を救うため、国を守るために青条という男を描いた「青条の蘭」、家族を殺されてすべてを失った少女、蓮花と暦を作って暮らす学者との「風信」の4作を収めた短編集である。

まず今までの作品のストーリーとは全くもって何の関連性もなく、今作では民衆および下級役人といった存在にピックアップしている。

全然関係ないならあまり面白くないんじゃ...と思われるかもしれないが、そこは安心していい。

作者の描く十二国記というきめ細かな世界で、主やそれにまつわる人物以外の人々の苦しみ、悲しみが描かれている。

架空の物語だが、リアリティにあふれ、決して読者を飽きさせる事はないだろう。

物語本編とは異なった、短編集ならではの良さのある作品である。

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