音乃木坂図書室 司書
6月のとある日のこと。
この日3年生は朝のショートホームルームにて進路調査票が配られていた。
音乃木坂学院では2年生になった段階で、調査票が配られる。
そしてその後、3年生に進級する前と、3年生になってのこの時期に、より詳細な調査票が配られるのだ。
音乃木坂学院はそれなりの進学校である。卒業後の進路は多くの生徒が進学となっており、早い段階からの調査により学校もサポートする体制が整っている。
早い生徒であれば2年生の頃から進学へ向けて勉強を始める人もいる。
真姫が良い例だろう。
真姫はスクールアイドル部で活動しつつ(さらに今はBiBiの活動もある)一年生の頃から医大進学のための勉強をしている。
そんな学校になぜ、穂乃果や凛、OGであるにこが入学できたのかは、知る由もないが、彼女たちは苦手教科があったり、勉強が好きじゃないからやらないだけで、決して勉強ができないわけでは無いのである。
この日、3年生の3人は放課後に生徒会室に集まり、たまった仕事を片付けていた。
珍しく穂乃果も集中して取り組んでいる。
外は雨で練習もできないし、新しくもらった部室はローテーションで使用することになり、今日は1年生ユニットが使用する日のため、μ‘sicforeverの練習は無しとなったからである。
一通りの仕事を3人で片付けたところでことりが言う。
「そろそろ生徒会も後輩たちにバトンタッチだね」
音乃木坂では伝統的に、6月の学園祭を持って生徒会は後輩に託すようになっている。
この場所で生徒会としての仕事をするのもあと少しなのである。
「そうですね。絵里と希からこの生徒会を引き継いで、もうそろそろ1年が経つんですよね。早いですね…」
しみじみとした口調で海未が言った。
この1年は思えばとてもつもなく濃くも充実した日々であった。
ついこの前始めたと思っていたスクールアイドル部、も気づけば1年以上が過ぎており、また生徒会役員として学校行事や様々なことに携わってきて、今日に至るのだ。
感慨無量と言っても過言では無いのだろう。
「ところで次の生徒会長はどうするの?」
ことりが尋ねるように穂乃果と海未に問う。
すると間髪を入れずに穂乃果が答えた。
「そんなの1人しかいないよことりちゃん」その言葉にことりと海未は何も言わずにうなずく。
3人の中ではきっと同じ人物が浮かんでいたのだろう。
それ以上はお互いに特に何も言う事はなかった。
それから話題は学園祭の事、そして7月のラブライブアキバドーム大会の事、μ‘sのことと変わり、最後にこの日の朝に配られた進路調査票のことになっていた。
「あーあー…進路かぁ…どうしようかなぁ…」
ボールペンをくるくると回しながら、穂乃果が言った。
3年生のこの時期ともなると、現実的にもう進路を考えていて当然である。
だが穂乃果はまだ決まっていなかった。
「来年も音乃木坂にいたいなぁ」穂乃果の漏らした言葉に海未が反応する。
「なにいってるんですか穂乃果。留年するつもりですか?」
その瞬間、何かをひらめいた家のように手のひらをポンと叩く穂乃果。
「は…!その手があったか…私と海未ちゃんとことりちゃんは留年して、来年も6人でμ‘sicforeverをやると言う作戦が…」
それを聞いて海未はため息まじりに言う。
「はぁー…穂乃果いい加減にしてくださいよ…」
「冗談だよ冗談!そんなわけないでしょ。留年なんて恥ずかしくて絶対嫌だよ。ところで海未ちゃんは進路決めたの?」
「笑もちろんです。2年生の時から決めてましたけど、私は大学進学ですよ」
「どこの大学行くの?」
「いろいろ悩みましたが、私の第一志望は明智大学です」
「えーっと、明智って御茶ノ水の坂のところに、大きなビルのキャンパスがある大学だよね?さすが海未ちゃんだ、テストでいつも3位内に入ってるだけあるね。あんないい大学行けるなんて」
「まだいけると決まったわけではないですけどね。ちなみに穂乃果、前回のテストは私1位でした」
「おぉっ…さすが海未ちゃん…ちなみに私も前回は3位内でした。後からだけど…」
「穂乃果…本当に留年しないでくださいよ…私もまだまだ努力しなければなりませんので」
「海未ちゃんなら大丈夫だよ、頑張ってね」
「ありがとうございます穂乃果」
「でも明智ならアキバからも近くて良いね。それに絵里ちゃんたちの大学にも近いし。そういえば絵里ちゃんと希ちゃんていつ受験勉強してたんだろう…あの2人は卒業までずっと私たちと一緒にμ‘sの活動してたのに」
穂乃果の疑問に海未が答える。
その答えは単純だった。
「穂乃果も知ってると思いますが、あの2人はすごい頭がいいんですよ。
だから特別に受験生だからと言って勉強に集中するまでもなく、何回難関大学を受験して合格してしまう…一言で言えば天才と言うのでしょうかね」
もちろん絵里と希は頭が良いのだが、隠れたところでは努力しているのだ。
ただそれを人に見せることなく、最後までずっとμ‘sとして活動していたのである。
「そっか、そうだよね。あの2人は頭いいもんね。ところでことりちゃんはどうするの?」
穂乃果はずっと黙って話を聞いていたことりへと振った。
「えっと、私は…まだ決まってないんだよね…」
「そうか、進路決めるのって大変だよね」
決まっていないとことりは答えた。
だが実はこの時すでにことりは海外留学することを決めていた。
一年前とは違って今回はしっかりと自分の意思でである。
だがこの時点ではまだ留学先が決まっていなかった。
そんな状況で曖昧なことを2人に伝えたくないと思い、まだ言わなかったのだ。
ことりは心に決めていた。あの時と同じ轍は踏まないと。
留学先が決まった時点で、すぐに穂乃果と海未に伝えると決めていたのだ。
そんなことりは穂乃果に問う。
「穂乃果ちゃんは進路どうするのー?」
「うーん、私もまだ決まらなくて…やりたい事はあるけど…もう少し考えてから決めるよ」
「そうですか…お互い後悔のないようがんばりましょうね」
締めくくるように海未が言った。
穂乃果はまだ自分の将来について決められないでいた。
やりたい事はあると言った。
だけどこの先、自分の本当のやりたい事は何なのだろうか…それを考えると答えを出せない。
穂乃果は、悩んだ末に進路調査表には進学とだけ書いて提出していた。
一方、ことりは未定と書いていた。
日1日と確実に卒業が、そしてその先が近づいてきているの実感する3人であった。
続く