音乃木坂図書室 司書
週末のこと。
花陽の予定表通りに、練習に取り組んでいたμ‘sの9人。
この日は空欄の日、つまりみんなで遊びに行くと言う日である。
真姫(西木野家)の力を駆使し、9人は都心より1時間半とわりと近くではあるが、自然が豊かな場所へと来ていた。
近くには湖があったり、きれいな川が流れていたりする避暑地であり、多くの別荘が立ち並ぶ場所だ。
しかし避暑地と言えど、真夏のこの時期である。
暑いことに違いない。
「暑い、暑い…暑いよー溶けちゃうよー!」
大声でそう叫んだのはもちろん穂乃果である。
それに続くようににこも大声で言う。
「あつっ…ほんとに暑いわね…何が避暑地よ真姫!全然涼しくないし、むしろ猛暑地じゃないのよ!」
「知らないわよ。私に言わないでよ」
暑いと連呼して文句を言い続ける穂乃果とにこにやれやれと言う感じで真姫が言った。
「夏だ、暑いにゃー、テンション上がるにゃー!」
まるで子供のようにはしゃぐ凛。
その隣ではまるでモデルのような佇まいの絵里が言う。
「この暑さはハラショーね。でも夏最高!」
今まで穂乃果、にこ、凛の3人はμ‘sの中で3バカと隠れて呼ばれていた。(というか真姫が勝手にそう呼んでいるだけだが…)
3人揃って赤点問題があったのもそうだし、何故かわからないが、この3人は練習のときの練習着から揃って肩を露出しており、真姫は面白がってこの3人をμ‘sの3バカと呼んでいたのだ。
だがここ最近その3バカに変化が起きていた。
近頃、にこの影響を受けたがために、絵里がその3人の中に加わりつつあるのだ。
もはや4馬鹿といってもいい位であった。
もともと天然なところがある絵里だが、変装するにあたり、にこをいつも参考にしていた。
いつだったか、にこが絵里に対して“あんたもようやくアイドルがわかってきたじゃないの“と、偉そうに上から目線で言っていたのが記憶に新しい他のメンバーだった。
そんな光景を目の当たりにして思わずつぶやいたのは希であった。
「えりち…完全にそっち側になって来とるね…」
希は以前より、絵里がにこの影響を受けるのを危惧していた。
だがBiBiとして共にする時間が長かったからであろう、希はもう既に手遅れだと感じていた。
そんな希のつぶやきをにこは聞きこぼさなかった。
「ちょっと希、そっち側ってどういう意味よ!あー、わかった。きっとかわいいアイドルってことよね?希もわかってるじゃないの!」
「ばかってことでしょ」
ぼそっとつぶやくように突っ込む真姫であったがにこはその声も聞き逃さなかった。
「真姫!あんたってば本当に失礼ね!」
「だって真実じゃないの。馬鹿が1人増えて、3馬鹿が4馬鹿になったってことよ。はー…馬鹿ばっかりね…」
「ぐぬぬ…毎度毎度、先輩を何だと思っているのよ!いつも言ってるけど少しは先輩を敬いなさいよ!」
「はいそうですね、矢澤先輩」
「きぃぃぃー、敬語はやめーい!」
そんな2人の争いをよそに絵里は一気にテンションが下がっており、下を向いてぶつぶつとつぶやいている。
「バカって言われた…真姫にバカって…」
どうやら真姫にバカ扱いされたのが、かなりショックだったらしく凹む絵里であった。
ちなみに絵里は成績優秀である。
日本語とロシア語、英語も理解し駿河台女子大学と言う日本でも有数の女子大に通っているのだが、真姫にとってそれは関係のないことだった。
そんな絵里の横では、同じく馬鹿と言う枠にひとくくりにされた穂乃果と凛も凹んでいた。
彼女たちは勉強が嫌いなだけで決してできないわけではない。
とは言え、これだけ馬鹿を連呼されれば、絵里に比べて馬鹿にされるのは慣れているとは言え、誰でも凹むものであろう。
「ね凛ちゃん…私たちってμ‘sの3バカなの…?」
思わず凛に問いかける穂乃果である。
「よくわかんないけど…絵里ちゃんが加わって4馬鹿になったらしいなぁ、」
当時そんな2人の会話を横で聞いていた絵里はすぐに全否定する。
「加わってないわよ!私はそっち側じゃないから!」
「そっち側てどういうことよ!」と言うのはにこ。
「バカ側ってことよ!」
「くっ…絵里あんたも大概になさいよ!」
「私はバカじゃないもん!」
「私だってバカじゃないわよ!」
「私もバカじゃないよ!」と言う穂乃果。
「凛もだにゃ!」凛も言う。
蝸牛角上の争いである。
言うならば、これはコップの中の嵐である。
つまりいつものことではあり、特に問題もない出来事、日常の中の絶えないおしゃべりである。
「喧嘩はその辺にして、ほら着いたよ」
事の発端は明らかに真姫である事は明白であるが、我関せずと言うそぶりで言う真姫。
そんな会話をしつつ、9人は目的地である西木野家の別荘へ到着した。
そこは目の前に美しい川が流れており、木々が日差しを遮るようになっていてまさに避暑地の別荘と言うにふさわしい場所だった。
ついさっきまで言い争ったり、テンションが下がったり凹んでいたのが嘘のように皆元気になっている。
これだけ良い場所に来ればそれも当然だろうが、それにしても切り替えの早い9人である。
それだけ仲の良い証拠であり、言い争ったりするのも、決して仲が悪いわけでなく、仲が良いからこそのことなのだ。
行って見ればじゃれ合っているみたいなものなのである。
「それじゃ、荷物置いて準備できたら川でバーベキューするよ。
基本的な食材は用意してあるからね」
そう言った真姫に皆が返事する。
予定表の空欄は西木野家の協力のもと、一泊2日のバーベキューお泊まり会となったのである。
みんなが楽しそうな笑顔を見せている。
これこそがμ‘sの9人なのだ。
それぞれがμ‘sと言う女神の1人であり、誰が欠けてもそれはμ‘sではない。 こ
の9人が揃ってこそのμ‘sなのである。
改めてそう思えるほど、9人の絆は深いものなのであった。
続く