自殺未遂を楽しむ日々

屈折する星屑


屈折する星屑

江波光則 著

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江波光則 著

ホバーバイクで人工太陽に衝突寸前で回避する度胸試し

火星と木星の中間点に存在するコロニー。

ここは廃棄指定済みとされたコロニーであり、未来も希望もない過疎化が進む場所だった。

だがこんな場所でも一定の人間が暮らしている。

ヘイウッドとキャットの若者2人もこのコロニーで生まれ育った。

楽しみといえば、空を飛ぶ事。

人口太陽めがけてホバーバイクで突進し、ぎりぎりのところで回避する。

それはただの自殺行為に同等であり、彼らは死ぬまで自殺未遂を楽しんでいたのだ。

空を飛ぶ、ただそれだけが唯一幸せだと思っていたヘイウッド。

マシンを維持するには金が必要で、その費用を得る為に、彼は屑拾いのバイトをしていた。

それはコロニーの外に出て、コロニーの外壁や設備に引っかかっているごみを取り除くバイトである。

ある日、バイトでコロニー外の宇宙へ出た時に事故が起こる。

作業を終えて戻る途中に、気になった部品を拾いに戻ったとき、頭上に黒い星が降って来たのだ。

コロニーに隕石が落ちたと思った次の瞬間、ヘイウッドはその隕石の中にいた。

何が起こったかわからなかったが、それは隕石にはりついた黒い海星で、中にはジャクリーンという女性が乗っていた。

ヘイウッドは彼女に助けられたのだ。

危うくぶつかって死ぬところを...
しかしその結果、軌道が変わってしまい...

ジャクリーンとの出会いによって運命が大きく変わったのだった。

まるでヘイウッドという少年の生き方を問うように...

この作品は宇宙の片隅になる廃コロニーでの少年の生きざまを描いた物語だ。

目的もなく惰性的に生きるだけの世界で、空を飛ぶのを唯一の生きがいとしていた者たちの一人、ヘイウッドが大切なものを失い、そこからどうやって生きていくのかという、存在を問うようなテーマである。

暴力や薬害が蔓延する世界で生きていく意味。

なぜこのコロニーが存在しているのかという理由...

作中で重要なのはキャットと宇宙で拾った照準機だろう。

映像化されたら素晴らしい作品になるのではないかと思える。

実にSFらしい良い作品である。

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