音乃木坂図書室 司書
「よろしくねツバサ。まさか大学で同級生になるなんてね。驚いたけど仲良くしてね」
「うちもよろしくね。ツバサはすごいおしゃべりやね」
「えっ、普通よ。それにしても二人とも着物素敵ね。
羨ましいな、私はこの後仕事だから私服だけど、私も着物着たかったよ。3人で写真撮ろうよ。
あっ、そういえば二人が高校の制服とμ'sの衣装以外の姿見るのって初めてよね。
ん...ちょっと待って。確か大晦日に神田明神で巫女さんの格好してたよね。あればコスプレ?」
ツバサと仲良くなれることは素直に嬉しい二人である。
だが、それと同時にこの子少しうるさいかも...と思う二人であった。
決して悪い意味ではないが、とりあえずほっておくと永遠に喋っていそうな勢いなので、希は半ば無理やり話に割って入る。
「ツバサ、そろそろ入学式始まる頃だよ。今日うちは新入生代表のスピーチもあるんだよ。だからそろそろ会場入ろ」
ようやくのこと希の一言により会場入りする3人。
入り口を入り、エスカレーターにて2階へ、そこからホール内へと入る。
会場はすでに多くの新入生で埋まっているが前の方はまだ空席もあり、3人はステージに近い席へ向かう。
だが周囲はほぼ全員が同世代である。
A-RISEのツバサと元μ'sの絵里と希が登場したことに周囲はすぐ気付き騒然としていた。
ツバサが座席に腰を下ろす。
それに続き絵里と希も席に着き、絵里がぼそりと呟く。
「すごい騒ぎになってるわ、どうしよう...」
するとすかさずツバサはそれが当然かのように絵里に言う。
「気にしない気にしない。いつものことだよ」
毅然とした姿でツバサは言うが、写真をお願いに来た子に対し、気さくに応じている。
スクールアイドルの頃からトップアイドルの人気を誇っていたツバサにとっては、これも日常の一環に過ぎないのだろう。
「さすがやねツバサは。めっちゃ慣れとるし、ファンサービスも怠らないし、ついでに可愛いし」
「まぁね、いつものことだから。って言うか希、ついでにって何よー」と言いながら希の脇をくすぐるツバサである。
だがツバサの攻撃を受けた希の目がキラリと光る。
悪そうな目つきでツバサを見つめる。
「ツバサ、うちに攻撃するとはいい度胸やね。フッ...うちの必殺技を食らうがいい。ワシワシマックスやで!」
ワシワシマックス それはかつて希がμ'sのメンバーに対して何度も繰り出してきた必殺技である。
絵里以外のメンバー全員が餌食になっており、特に穂乃果、凛、にこの3人は何回も希によってはワシワシされていた。
「ちょっ...やめてよ希。くすぐったい...アハハハハ...」
ワシワシ MAX を受けて笑うツバサ。
希にとって珍しい反応だったらしく、少々驚きの表情を見せる。
「なっ...ツバサ、なんで笑っとんのや...うちの必殺技が...」
「残念だったね希。私が高校時代にどれだけあんじゅ(A-RISEメンバーの優木あんじゅ)に揉まれてきたと思ってるの?」
トップアイドルのツバサと首席入学の希。
二人のやり取りを隣で見ていた絵里は頭を抱えていた。
「こんな場所であなた達は何してるのよ。恥ずかしい...」
周囲の目を気にすることなくじゃれあうツバサと希にそういう絵里ではあるが、内心はこれからの大学生活も楽しくなるだろうなと思っていた。
しばらくして、ようやくおとなしくなる二人。
それからすぐに入学式が始まり、壇上には学校の関係者が現れ進行していく。
だがすぐに飽きたのだろう、ツバサは絵里と希に話しかける。
「ねえねえところでさ、μ'sは本当にもう活動しないの?」
突然のツバサの問いに二人は一瞬戸惑う。
μ'sはもう終わりと決めたのだ。
そう決めたのに、全員で納得して決めたはずなのにどうしてだろう...ツバサに再会して、両立するといったツバサの姿を見て、動揺するかのように複雑な気持ちの二人であった。
「うんそれは9人で決めたことだから...この前のライブを最後にμ'sはもう終わりにしたんだ」
改めてμ'sは終わったとツバサに告げる絵里。
だがその言葉はやけに弱々しくて寂しさが滲み出ていた。
ツバサもそれを察したのだろう、深くは問い詰めることもなかった。
「そっか...残念だけどしょうがないわね」
この時ツバサはある計画を考えていた。
しかし絵里と希に言うことはなかった。
あえてまだ二人には言わないようにしたのであった。
絵里とツバサの会話を隣で聞いていた希はあることを思い出していた。
(そういえば...ニューヨークに行った時には、もうμ'sの活動は終わることが決まってたけど、あの時に見た真姫ちゃんが作っていた新しい曲...μ'sのものでありたいからと言って、アニソンライブの時に使用することを拒んだあの曲って...真姫ちゃんはどうしたんやろ...)
ニューヨークで見た曲...それはμ'sがニューヨークでの PR ライブへ行った時のこと、希は真姫とホテルで同室となったのだが、その時に真姫が持っていたミュージックブックを偶然見てしまったのである。
そこにはμ'sの新曲が作られていたのだ。
μ'sはもう終わるのになぜだろうと希は思っていた。
μ'sのものでありたい...という真姫のあの日の言葉が希の脳裏に蘇っていた。
結局、希もそれ以上のことを真姫に問うことはなく、 μ'sは終わりを迎えたのであった。
入学式は引き続き進行しており、壇上では来賓の挨拶が行われているが、話を聞く素振りも見せずにツバサは絵里と希に話しかけ続けていた。
「ねぇ、穂乃果ちゃん達6人はこれからどうするの?3年生の3人がいなくなって寂しがってるんじゃないのかな」
「まだ決まってないみたい。でもうスクールアイドルは続けるから... 6人でやるのか、別々でやるのかはまでは分からないけど... 多分6人で続けてくれると思ってるよ」
「そっか、それは良かった。μ'sがなくなって最悪もうスクールアイドルもやめちゃうこともあるかと思ってたから。でもあの6人に限ってはそれは杞憂だったかな。とりあえず一安心だよ」
ツバサの心配はわかるものだろう。
μ'sとしてあれだけ活躍し、人気絶頂の中で活動を終えたのだ。
そのμ'sロスの思いが心に深く刻み込まれて、そのままスクールアイドルを辞めるという選択肢もあっておかしくない事だった。
μ'sを認めていたツバサは残された6人がスクールアイドルを続けるということを聞いて安心したのである。
「あとにこちゃんはどうしてるの?」
質問を続けるツバサ。
「にこっちは短大に進学やで。保育士さん目指しとるんよ」
「えっ、そうなの?それは意外だったわ。てっきりアイドル活動を続けるものと思ってたけど...もうアイドルはやらないのかな?」
「それはどうやろね...にこっちのことだから絶対にやりたいとは思ってるだろうけど...」 希が答える。
ツバサは元μ'sのメンバーの今後が気になっているらしい。
それだけツバサにとってもμ'sの存在は大きいものであったのだ。
ツバサの質問攻めが続く中、新入生代表挨拶のアナウンスが流れる。
”続きまして新入生代表挨拶となります。新入生代表・東篠希さん壇上までお願いします”
自分の出番となり希が席を立ち上がると同時に、会場は大きな歓声に包まれていた。
続く