伴名 練 (著), 赤坂 アカ (イラスト)
無数の世界が交差する。
ここでは真夏だが、別のところは大雪だ。
桜が咲き誇り、紅葉が街を染め、川は凍り付いている。
そんな街並みを抜けると見えてくる高校に通う葉月。
今日は転校生がやってきた。
転校生は幼なじみであるマコト。
今日一緒に登校したけど、会うのは3年ぶりだった。
彼女たちはいくつもの並行世界を行き来できるのだ。
この世界で再会した葉月とマコト
しかし、マコトは葉月に対し、自分に近づくなと言う。
自分の人生にはもう脇道も寄り道もないのだと。
葉月はマコトを探していると言う警察官より、マコトが乗覚障害であることを知らされる。
それは他の世界に行くことができない、この1つの世界だけに留まらざるを得ないと言うものだった。
その原因となった事件を調べる葉月。
だが、彼女はその過程で誘拐されてしまう。
その犯人の目的とは…
表題作「なめらかな世界とその敵」を始め、日本でのSFの偽史を描いた「ゼロ年代の臨界点」、脳神経インプラントによる愛とつながりを描いた伊藤計画“ハーモニー“トリビュート冊の「美亜羽へ贈る拳銃」、低速化という未曾有の災害に、見舞われた新幹線の乗客とその周囲の人々を描いた「光より速く、ゆるやかに」を含む全6作からなる短編集である。
まず表題作を読んで伴名さんは凄いと感じた。
どうしてこのような文章が書けるのかと。
人によってはこの文章を読んでめまいを感じる、あるいは錯覚を見ているようにすら感じるかもしれない。
多数ある平行世界を行き来でき、ここでは真夏なのに、冬が降り、桜が舞って、紅葉が美しい。
一瞬で自分は心を掴まれてしまった。
その設定もさることながら、しっかりと物語として構成されていて、ただその才能に自分は凄いと感じた。
他の作品もだが、隔たりとつながりが描かれていて、SFであり、人間の愛があり、感情を揺さぶられるものばかりである。
とても素晴らしい作品に出会えたと思う。