音乃木坂図書室 司書
ガラガラと大きな音を立てて扉を開き、部屋へと入る穂乃果。
すぐに全員が振り返って穂乃果を見つめる。
「海未ちゃん!ことりちゃん!」
大きな声で穂乃果は2人の名を呼ぶ。
海未が反応する。
「穂乃果、1時間もどこに行ってたのですか…?」
どうやらとっくに打ち合わせは終えていたらしい。
机には雑誌やお菓子の袋が散乱している。
「花陽がお腹すいたってうるさかったんだけど。」
真姫が言った。
「活動限界まであと3分です。…」
花陽が言った。
「の割にはたくさんお菓子食べてたけどね」
凛が言った。
そこにことりがふと気づく。
「ん?穂乃果ちゃん、後ろにいるのは誰?」
恵海は穂乃果の背後に隠れるようにして立っていた。
そんな恵海の手を引っ張り、穂乃果は海未とことりの前へと恵海を押し出したのであった。
「あの…えーっと…」
海未とことりを目の前にして感情が激しく揺れる恵海。
喜びのあまり、嬉しさのあまり、声がこもる恵海。
そんな恵海の姿を目にして、海未とことりはすぐに誰だか気づいた。
「…もしかして…」
海未が立ち上がり、驚いた表情で言った。
「嘘…本当に…?」
ことりも手で口を覆うようにして驚いていた。
「海未ちゃん、ことりちゃん、久しぶり…わかるかなぁ。…」その瞬間、海未とことりは恵海の元へと飛び込んだ。
恵海は2人を抱きしめながら、目元には大粒の涙が溢れそうになっていた。
「恵海…あいたかったですよ…」
「うわーあぁん恵海ちゃーん…」
海未とことりも大号泣だった。
もう涙が止まらない。
5年ぶりの再会である。
しかも突然の訪問であり、全く予想すらしてなかった出来事に、2人が冷静でいられるはずはなかった。
もちろんそれを見守る穂乃果の瞳にも再び光るものがあった。
μ‘sicforeverのPVでメッセージを送ろうと2年生が言い出したこと。
そして真姫を中心に曲を作って、全員で協力し、PVに3年生全員の思いを込めた。
その思いが届いた。
穂乃果、海未、ことりの思いが届いたのである。
こうして再会を果たした4人。
2年生の3人はそんな光景を見つめては笑顔を見せていた。
しかし…「うぅぅ…よかったね。また会えて…うぅっ...」
真姫に至っては感動の再会に一緒になって泣いていた。
「よかったね、これでみんなハッピーだにゃ!」。
凛が言った。
花陽もうんうんと頷いている。
そしてしばらくのこと、喜びの再会の時間を4人は満喫していた。
そこに、何かを思いついた花陽が、いまだに感動して鼻をすすっている真姫の耳元でささやいた。
「ああ、そうだ。ねぇ真姫ちゃん。…で…で…てどうどうかな?」
「それ最高じゃないの。花陽、先に準備しといてもらえる…?ぐすっ...」
すると花陽は凛に耳打ちをして、2人は部室を後にした。
そして皆が落ち着いたのを見計らって(と言うより、自分が落ち着いたタイミングで)、真姫は恵海へと話しかけた。
「えーっと…恵海さんはじめまして。私は西木野真姫っていいます。
もしよかったら…これから講堂でμ‘sicforeverのライブをやるので、よかったら見ていってもらえませんか??」
真姫の言葉に反応したのはことりだ。
「live?これから…?」
「うん、今凛と花陽が準備してくれてるから」。
「でもお昼ご飯は、、、?」 と言ったのは穂乃果だ。
「穂乃果は本当に食べることばっかね…お昼はもう少し後でね」
そう真姫が言うと、恵海は穂乃果を見つめてクスっと笑みを浮かべる。
小さい頃から食いしん坊だった穂乃果、昔から変わっていない姿を見て、恵海は安心感に包まれていた。
「どうでしょう恵海、見てもらえますか?」
「うん、もちろんだよ。!」
海未の問いに恵海はニッコリ笑って答えた。
こうして急遽恵海のために講堂に行ってライブをやることになったμ‘sicforeverの6人。
凛は部活で来ていた音響照明部の友人にライブの手伝いを頼み、同じく花陽は、映像部にライブの撮影をお願いしていた。
そしてそれから15分後。
講堂には1人座る恵海の姿があった。
たった1人のため、恵海のためのμ‘sicforeverのライブである。
幕が上がると同時に、ステージの上がまばゆい照明で照らされる。
ステージ上には美しい衣装に身を包んだμ‘sicforever 6人の姿が、Spotlightで色鮮やかに照らされる
その姿に思わず見とれてしまう恵海。
「すごい…みんなきれい」
自然とそんな言葉が恵海の口から漏れていた。
穂乃果を中心にして6人は一礼をする。
そして穂乃果が恵海に向けて言う。
「この曲は恵海ちゃんのことを思って作った曲だよ。
懐かしい、忘れられないあの日を思い出しながら聞いてください。μ‘sicforeverで青い空に夏の匂いを…」。
恵海はうなずいて6人へ大きな拍手を送る。
そして美しいピアノのメロディーが流れて曲がスタートした。“いつの日だか覚えている?
泣きじゃくる私に優しく手を握って言ってくれたあの言葉…線香花火の光が私を包み込むように、あなたの言葉も私の心を温かく包んでくれました…“
穂乃果の思いが込められた詞、大好きだった恵海との日々を詞に込めた。この曲には踊りや振り付けは無い。
しっとりとした気持ちを込めて、胸に手を当てるようにして歌いあげる姿に、聞いている恵海の瞳からは大粒の涙が溢れていた。
“初めて会った公園を通るたびに、瞳の奥にあの日々のことが浮かんできて、目を閉じるとその思い出ごと消えてしまいそうで、少し怖かった。でも大丈夫、離れてしまったけれど、今でも気持ちはずっと一緒だと信じているから…“
自分の思いを言葉にして、そして曲として美しいメロディーにのせて歌う…自然と穂乃果の頬にも涙が伝っていた。
嬉しい…本当に嬉しい…穂乃果は歌いながらそう思っていた。
そして曲はアウトロとなり、“ずっと忘れないよ…“と言う穂乃果の言葉で締めくくられた。
気づけば恵海は1人だけだが、スタンディングオベーションで6人に大きな拍手を送っていた。
涙を流しながらも、笑顔でステージの6人をたたえていた。
子供の頃、ほんの数ヶ月しかいなかった街で出会った友達。
”離れてしまっても友達でいてくれて、少し大きくなってからは会えない日々が続いたけれど、再びこうして再会して…私はなんて良い友達を持ったんだろう…。”
”この街に来れてよかった。”
”3人に出会えてよかった…本当にありがとう…穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん、今帰ってきたよ、ただいま…”