斜線堂 有紀(著)
人気小説家の遥川悠真が失踪した。
事件性を感じ、彼の部屋に捜査が入る。
荒れ放題の家の中で見つかったのはPCの中に残っていた「部屋」と言うタイトルの小説だった。
そこには人気小説家と1人の少女の真実が残されていた
小学5年生の幕居梓は母親に虐待を受けていた。
学校から帰ると、全て分単位で物事を済ませ、夜7時から翌朝の7時まで暗い押し入れの中に閉じ込められていた。
そんな彼女の救いは本だった。
図書室で読む本が唯一の救いで、そんな中でも遥川悠真の作品が頭の中で内容を覚える位に大好きだった。
ある日、梓は図書室の司書に遥川の新作を貸してもらう。
家で読むことはできないのに、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
しかし母親に見つかってしまい、本は燃やされてしまう。
やがて母親はパンとお金を置いて、家にも戻らなくなる。
梓は死のうと思い、踏み切りへと向かう。
大好きな遥川の作品を抱いて列車に飛び込もうとしていた。
その時梓は声をかけられる。
きっと自殺を説得されるのだろうと思っていたら、言われた言葉は迷惑と言うものだった。
その声の主はまさかの遥川であった。
自分の作品を持って自殺されるのは迷惑だと。
偶然であったが梓は遥川によって、命を救われる形となったのであった。
行くあてもない梓は、遥川の家に通い住むようになるのであった。
こうして2人の共生関係が始まった。
それが数年続き、遥川は次第に小説が書けなくなっていく。
そんな遥川を救うために、梓は原川のゴーストライターになることを決意するのであった…
斜線堂 さんの作品は好きでいくつか読んでいるが、この作品もまた訴えかける力が凄いと思う。
家庭に問題のある少女が、ある意味で神のような存在である男性と出会い、小説家としての才能を開花させていく一方で、崇められた男性は才能を失って苦悩していく。
互いにとって必要であるのと同時に、愛憎半ばとなっていき、苦しくて切ないその思いが痛いほど伝わってくる。
結末も切なく、ロミオとジュリエットみたいで、私は改めて斜線堂さんの作品は凄いと思った。