暁 佳奈(著)
自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)。
もともとは視力を失った小説家の肉声の言葉を書き写す、代筆用の機会として誕生したが、いつしか人の支えとなり普及する。
そして今ではそれを貸し出して提供する機関もあった。
自動手記人形サービス、バイオレット・エバーガーデン。
金髪碧眼でとても美しく、玲瓏の声の持ち主。
彼女はアンドロイドではなく生身の人間である。
依頼があれば彼女はどこへでも赴く。
たとえそれが戦場であったとしても…
愛する妻と幼い娘を失った小説家は、辛い現実に耐えきれず、酒と薬の影響で手が震え、執筆ができなかった。
その小説家はバイオレットの姿に成長した自分の娘の姿を重ね、心の内のすべてを打ち明けた。
病弱な母は手紙を書くためバイオレットに代筆を依頼するが、母との大切な時間を奪われたと感じた娘は憎しみを覚える。
だがそれは色を理母から娘に残す位だった。
戦地で死ぬ間際にバイオレットへ手紙を託す青年。
女性嫌いの学者は写本のために雇われたバイオレットに恋をし、いつか再会できることを願う。
戦犯として刑務所に収容される男は届くはずもない言葉を託す。
誰かの思いを届けるためにバイオレットは自動式人形として各地へ向かう。
そんな彼女の願い…
それは少佐からの命令を受けること。
彼女は命令を欲していた。
バイオレット…彼女は小さい頃から殺戮機械として生きてきた。
感情もない、言葉も知らない。
ただ命令のままに、人を殺す人の形をした人形だった。
だが、ギルベルト少佐と出会い、少佐とともに戦地で兵器として生きていく中で、少しずつ変わってゆく。
少佐から名前を与えられ、言葉を覚えていく。
長い月日を共にしていた2人、いつしか少佐は彼女を愛するようになっていた。
戦地で瀕死になった2人、バイオレットは必要以上の言葉を知らず、少佐からの愛と言う言葉がわからない。
それでも少佐を助けたいと、涙を流して命令を請うのであった。(上巻)
大戦を生き残った代償は大きかった。
バイオレットは両腕を失い、義手となり、ギルベルトも片目と片腕を失っていた。
目を覚ましたバイオレットの隣にギルベルトはいない。
少佐はまた彼女の幸せを願い、彼女を守るために姿を消した。
正座を待ち続けるバイオレットの下に現れたのは、正座の親友、ホッジンズだった。
ホッジンズはギルベルトにバイオレットの世話を頼まれていた。
普通の子になるため、運命を変えるためにホッジンズは字を教え、手紙の書き方を教えていく。
だがバイオレットはひたすら少佐が戻ってくることだけを願っていた。
そんな彼女に告げられる無情な言葉、“ギルベルトは死んだ…”と。
大粒の涙を流すも、それでもバイオレットは死んだ男の帰還を待ち続けるのだった。
やがて彼女はホッジンズの設立したC・H郵便社で働くことになる。
自動書記人形として、バイオレットエバーガーデンはギルベルトの姿を追い続けるのだった。
ラノベでここまで感動したのは初めてかもしれない
切なく苦しくて儚くも美しい物語である。
未来永劫叶うことのない、死んだ人との再会を待ち続けるバイオレット。
愛しているが故、自分のせいでこんな人生にしてしまった彼女に対し後悔して、
幸せになってほしいと願うギルベルト。
2人の姿にはどちらも胸が締め付けられる。
殺人人形、人を殺す道具としてしか、自分の価値を見出せないバイオレットが、少しずつ人間らしさを身に付けて変わっていく姿も心を打つ。
涙なしでは読めない素晴らしい作品である。