音乃木坂図書室 司書
ー6月下旬ー
今日は音乃木坂学院の学園祭、その名も音乃木祭の日である。
近年は生徒数の減少により規模も小さくなっていたが、もともと音乃木坂は伝統ある学校であり、学園祭ともなれば近所の住人、地元商店街、進学を希望する中学生、他校の生徒や在学生の家族と、多くの人が訪れるのだ。
そしてなんといっても今年はμ‘sの存在が大きかった。
μ‘sによって音乃木坂は全国的にも知れ渡り、今年度の入学者数は前年度の5倍以上になった位である。
もうμ‘sはいないものの、音乃木坂のスクールアイドル部によるライブを見たいがために朝早くから校門前には行列ができるほどだった。
講堂は500人収容のため、その席を求めて多くの人が並んでいるのである。
スクールアイドル部のライブは13時からとなっており、開門前から既に大賑わいであった。
午前9時、開門と同時に多くの人が整理券を求めて行動正面入り口へと向かっていた。
スクールアイドル部の面々は午前中はそれぞれの学年、クラスに分かれて、クラスによる出し物に参加したり他のクラスや部活動の出し物を楽しんでいた。
教室でメイドカフェを行ったり、屋台みたいに飲食を販売したり、様々な形態があり、誰もが学園祭を楽しんでいる。
そして11時になり、だいぶ前の最終リハとミーティングのため、スクールアイドル部は屋上に集合していた。
各ユニットがそれぞれにリハを行う。振り付け、歌の確認等を入念に行うが、μ‘sicforeverの6人に関してはリハと言うより、少しだけ確認し、後はおしゃべりに興じている。
さすがの6人である余裕というか貫禄というか、今までの経験がそうさせるのだろう。
特に意気込むこともなく、いつもと変わらない6人だった。
そんな中で、校門の方から大きな歓声が聞こえてくる。
すぐに穂乃果が反応する。
「なになに何ー?どうしたのっ?」
屋上の柵越しに校門を見つめると、そこにはサングラスをし、帽子をかぶったにこと絵里がいた。
元μ‘sそして元BiBiと言う人気アイドルの2人である。
在校生一般客とにかかわらず、あっという間に2人は囲まれてしまっていた。
μ‘sとして社会現象的な人気を得て、今はインディーズアイドルとして絶大な人気を誇るBiBiで活躍する2人の知名度と人気は凄まじいものであった。
それを見て同じくBiBiで活躍する真姫はつぶやく。
「予感的中…全くあの2人言ったら…普通に来ればいいのに、変装したら余計に目立つじゃないのよ…」
ため息交じりの真姫にことりが言う。
「えりちゃん、ますますにこちゃんに似てきてるよね…」
「もう手遅れね。完全ににこウィルスにやられてるもん...」
そんな2人の会話を聞いて海未も言う。
「にこは絶対にバレるの楽しんでますよね…」
「うん… BiBiの時もいつもそうだから…」
目立ちたがり屋のにこである。
いつも一応というか絶対に変装は怠らないのだが、必ずばれるのだ。
いやばれると言うより自らばらしていると言うのが正しい。
“人気者だから返送はするけど、バレないのはそれで寂しいんじゃないの“と口癖のようににこは言っているのだ。
そんな2人を見つけた穂乃果は大声で叫び、手を振る。
「えーりちゃん、にーこちゃん、早くおいで!」
穂乃果の声に気づいた2人は大勢の人に囲まれながらも手を振り返している。
とても楽しそうな2人だった。だが、変装して皆に囲まれ楽しんでいる2人をよそに、颯爽と校門をくぐり、音乃木坂にやってきた人の姿を花陽は捉えていた。
「あっ...あっ…ちょっ…あぁ…!」
声にならないような声を出す花陽に真姫が言う。
「ちょっと花陽ってば、変な声出さないでよ。あっ、あっ、って何よ」
「… A– RISEのツバサさんとあんじゅさんが来てます…」そう言って花陽はA– RISEの2人を指差す。
「あ、本当だ。家の変装バカ2人のおかげで大人気アイドルのA– RISEが全然気づかれてないわね…」
絵里とにこの人混みの横を何もないかのように通り抜けて校舎の方へ向かうツバサとあんじゅ。
屋上にいたスクールアイドル部は皆気づいており、2・3年生の6人はμ‘s時代からA– RISEと関わりがあるので冷静であったが、一年生はそうではない。
A– RISEは彼女たちにとっては憧れの存在なのだ。
そのA– RISEが今自分たちの学園祭に来ている。
興奮した1年生数名が大声で叫んでしまっていた。
ツバサとあんじゅの名を叫ぶ大きな声に2人は足を止めて屋上を見上げる。さらにA– RISEと言う声が上がると、次の瞬間にツバサとあんじゅは多くの人に囲まれてしまう。
校門周辺は大変な騒ぎである。
絵里とにこはBiBiとして今日のライブに出演するし、音乃木坂のOGであるから、今この場にいるのはいいとして、なぜプロアイドルの2人が今ここにいるのか…
確かにμ‘sとは仲良い関係で交流もあった。
だとしてもプロアイドルの2人の高校の学園祭に、しかも母校ではなくかつてのライバル校に来ていることが驚きである。
もはや屋上のスクールアイドル部もリハどころではない。
生徒会副会長の海未が言う。
「これはまずいですね、とんでもない騒ぎになってますよ…」
「うん、なんとかしないと…」ことりが言った。
海未とことりは屋上から降りてA– RISEの2人の元まで駆けつけた。
周囲はさらに人で溢れており、大変なことになっていた。
A– RISEの2人はそれでも冷静にサインや写真に応じている。
同じく絵里もだ。にこに至っては周囲を巻き込んでともに大盛り上がりである。
駆けつけた海未とことりも囲まれてしまうが、人混みを掻き分け、ツバサとあんじゅ、そして絵里の救出に成功する。
海未とことりは3人を連れて逃げるように校舎内へと去っていった。
「ねー、私は…?」 1人取り残されたにこが大勢の人に囲まれたまま呟いた。
とにかく生徒会の海未とことりにより騒ぎは収められた。
これで一安心である。
「だから、なんで私はほったらかしなのよ!」
にこの叫びが澄んだ青空に響き渡っていた。
続く