フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 (翻訳)
第二次世界大戦でアメリカが敗戦し、枢軸国側が勝利した世界は、日本とドイツが分割して統治していた。
アメリカ美術工芸品紹介のロバート・チルダンは、珍しい品物を収集し、販売する古美術商であるが、敗戦国が故、得意客の通商代表団・田上に頭が上がらず、日々相手のご機嫌をとっていた。
だが、約束の品を用意できずに田上の元を訪れることになる。
フランク・フィンク、彼はユダヤ人であるが、身分を偽って生きていた。
働いていた工場をクビになり、工具を取りに職場へ戻ったフランクは、同僚のエド・マッカーシーと共に仕事をしていた。
彼らはある計画を立て、エドフランク宝飾工房を立ち上げ、独立して商売をしていくことに。
その取引先の1つとして、チルダンの店も含まれていた。
田上は新しい技術を持つ会社と契約するために、要人であるバイネス氏と会うことになるが、そのバイネスの本名はヴェゲナーといいスパイであった。
フランクの元妻であるジュリアナ・フリンクは柔道の講師として生計を立てていた。
美しい容姿の彼女は、ある日、イタリア移民のジョーと出会い生活を共にすることになる。
そんな彼らは共通して易経を行っていた。
困ったり迷ったりしたときに、必ず易を立てて、その示す通りにしていた。
また彼らは共通してある小説を読んでいた。
合衆国全土で発禁となった「イナゴ身重く横たわる」と言う小説は、歴史が逆になり、アメリカが勝利した世界を描いていた。
作者はホーソーン・アベンゼン。
退役軍人で「高い城」と呼ばれる要塞のような場所に住んでいる。
ジュリアナとジョーは旅行に出て、アベンゼン邸を訪ねることにする。
だが、ジョーもまた、身分を偽ったスパイであった。
さらに、バイネスと会談した田上たちは何者かの襲撃を受けてしまう。
ドイツと日本は対立を深める中、ドイツ帝国首相は死去し、数々の勢力が動き出すのであった。
この作品は多くの人が言う通り、ディック作品の中で最高傑作の1つだろう。
物語の中で登場する小説は、作品の世界とは逆の、アメリカが戦争に勝利した、本来の歴史を描いていて、登場人物の多くが表と裏の顔があり、身分を偽っている。
まさに現実と虚構と言うディック作品におけるものが顕著に描かれている。
読んでいて、何かに酔っている、目眩がするような内容である。
ただの歴史改変ものではなく、ディックの世界観が存分に味わえる名作である。