音乃木坂図書室 司書
最終予選は順調に進んでいた。
ラブライブの人気とともにスクールアイドルの数は激増したが、ただ増えただけではなく、そのレベルも向上しており、どのユニットも質の高いパフォーマンスを披露していた。
中でもその前評判通り、5番目に登場した横浜のスクールアイドル、Snowdrop、7番目に登場した埼玉のスクールアイドル、I wishは決勝大会といってもいい位のハイクオリティーのパフォーマンスを見せていた。
だが、次に出番を控えていたステージ裏のRay-OGの3人は、ライバルの質の高いパフォーマンスを見ても冷静であった。
穂乃果の言葉が効果絶大だったのだろう。
もうすでに自分たちのことに完全に集中できていた。
「次が私たちの番だよ。2人とも大丈夫?」効果絶大だったのだろう。
そう声をかけたのは亜里沙だった。さっきまで一番緊張していたはずの亜里沙が、まるで別人のように自信ありげに行ったのである。
「おっ、いうようになったじゃん亜里沙。私を誰だと思ってるの?梨緒姉さんだぞ!」
「梨緒姉さんて誰よ…うん、もちろん大丈夫だよ」
亜里沙の言葉に梨緒と雪穂が答えた。
2人とも、いい具合に気持ちが入っているのがよくわかる。
再び亜里沙が言う。「よし、それじゃあいつものやついこう!」
3人は手をつないで円になる。そして雪穂が2人に言う。
「亜里沙、梨緒、いつもありがとう。2人とならどこまでも行ける気がするんだ。今日は思いっきりライブを楽しもう。μ‘sに負けない位の最高のライブにしよう!」
Ray-OGのリーダーを務める雪穂。
個性的なメンバーのため苦労することも多いが、それ以上にこの2人と一緒に活動できて本当に嬉しく思っていたのだ。
その2人とともに今日、この最終予選の舞台までやってきた。
だが目的地はここではない。
この先のもっと先まで… μ‘sの見た場所と同じ舞台…そんな思いの雪穂であった。
「もちろん当たり前だよ。私たちはラブライブで優勝するんだから!」
そう言い切ったのは梨緒である。
それだけ自信に満ちていて、メンバーを信頼している証拠であろう。
「μ‘sがニューヨークなら私たちはパリだよ!」
ファッションショーみたいな言い方で表現するのは亜里沙だ。
彼女らしい独特な表現だが、それだけ上を目指していると言うことである。
「いくぞう、レイ、オージー!」3人は声を揃えて言うと、つないだ手を上に上げてジャンプをし、ステージへと飛び出していった。
「おっ、きましたよ。いよいよRay-OG 3人の出番です!」
客席で見守る音乃木坂スクールアイドル部、花陽が言った。
ステージ上に立つのは雪穂と亜里沙だった。
梨緒は…ステージ脇にあるピアノに座っていた。
ライブスタートと同時に梨緒によるピアノ独奏から彼女たちは始めたのである。
これは学園祭でμ‘sicforeverの真姫が見せた演出と同じであった。
「あの子ったら…やってくれるじゃないの」真姫が言った。
この大一番で先輩が見せた演出を再現する度胸は大したものである。
こんなことができるのは、それこそピアノの腕はもちろんのこと、作曲センスもないとできない芸当である。
梨緒の美しいピアノに合わせて、雪穂と亜里沙は優雅に舞を踊る。
美しくも儚げであり、かっこよくもありながら哀愁漂うようなメロディー。
そのセンスは本物だろう。
音楽に対して人一倍厳しい真姫が耳をすますように聞き入っているのがその証拠である。
そんな梨緒のピアノを背景に、雪穂と亜里沙は動きを止めてMCを始めた。
「はじめまして、音乃木坂学院スクールアイドルのRay-OGです。私は綾瀬亜里沙といいます」
「私は高坂雪穂、そしてピアノを弾いているのは河北梨緒です。私たちはμ‘sに憧れて音乃木坂に入りました。
μ‘sはもういないけど、μ‘sの意思は音乃木坂に受け継がれています。
私たちはμ‘sの思いを胸にμ‘sに負けないスクールアイドルを目指しています。
今日はわずかな時間ですが、私たちのライブを楽しんでいってください!」
会場は大きな歓声に包まれる。
皆、この2人がμ‘sの絵里と雪穂の妹だと知っているし、音乃木坂のスクールアイドルとして多くの人に注目されていた。
雪穂の言った言葉…それはいつもμ‘sの先輩が言っていたお客さんを楽しませること、そのためにはまず自分たちがライブを楽しむことと言うのを、しっかりとRay-OGの3人も音乃木坂のスクールアイドルとして受け継いでいるからこその言葉だった。
ピアノを弾いていた梨緒が2人の元へ来て、センターポジションに入っていった。
「聞いてください。Ray-OGでRe:LIFE」
その言葉と同時に曲が流れだす。
とても美しいピアノの旋律、そこに激しいギターサウンドが鳴り響く。
さらにベースとドラムの音色が重なっていく、まるでロックバンドのライブのような楽器サウンドである。
まさにそれはかっこいいとかわいいが融合した”かっこ可愛い”と言う言葉が当てはまるRay-OGだった。
会場はこの日一番と言っていいほどの盛り上がりを見せている。
振り付け、曲、パフォーマンス、どれをとっても完璧と言えるような、見るものを魅了するものだった
「これはすごい… Ray-OGすごいです!」
興奮気味に花陽が言った。それに真姫も同意する。
「うん、そうね…さすがツバサが認めるだけあるね」
「後はどれだけ彼女たちRay-OGの個性がみんなに受け入れてもらえるか…かなぁ」
そういう花陽。確かに個性の強いRay-OGである。
そのパフォーマンスのクオリティーは高く、会場は大きな盛り上がりを見せている。
だが、それが必ずしも結果につながるわけではない。
様々なスクールアイドルがいるのと同様に、見る側にも当然好みはあるのだ。
ただそれをおいてもRay-OGのライブは圧巻であったことに違いはなかった。
こうしてラブライブ関東地区最終予選は終了した。
Ray-OGの3人は全てを出し切った。
今自分たちにできることを全力でやり、ライブを楽しんだ。
本人たちも、また先輩たちからしても十分に納得のいくパフォーマンスであっただろう。Ray-OGの3人も、だいぶ前とはまるで別人かのように、清々しい表情をしていた。
きっと充実感に満たされているのだろう。
後は自分たちを信じて、良い結果が出るのをただ待つのみである。
続く