音乃木坂図書室 司書
そして翌日のこと。
この日も早朝から練習に励む6人であるが、海未を除く5人はかなり眠そうである。
前日の夜、もう日付が変わろうかと言うタイミングで、6人はμ‘sicforeverの曲として3年生3人の幼少時代の友人にメッセージを送るべく、曲作りを行っていたのだ。
真姫を中心にして曲の構成を考え、ほぼ徹夜作業で曲作りをしたのであった。
真姫は曲のメロディーをイメージにし、花陽と凛は学校の友人に連絡して曲録りの手配をし、PVに使用するための場所をピックアップした。
そして穂乃果とことりによって作詞まで完成させていたのだ。
普段作詞を担当している海未はと言うと、夜が弱いため、日付が変わるとともに安らかな寝息を立てて眠っていた(みんな海未を起こすと怖いので、そのまま寝かせていた)。
だが、多少寝不足とは言え、きっちりといつものメニューをこなした6人は、練習を終え、園田家で朝食をとった後、一旦解散し、夕方に再び高坂家へ集合することに。
家に帰ると皆が昼寝をする中、真姫だけは別だった。
真姫は家に戻るやいなやピアノへ向かう。
そしてピアノを弾いては五線譜に書き込んでいく。
それを延々と繰り返す。
前日の夜に頭の中でイメージしていたメロディーを形にしていく。
一つ一つの音を重ね合わせ、次々と曲として溢れ出していく。
ピアノに座り約2時間、気づけば曲はほぼ完成していた。
だが、これで終わりではない。
真姫が凄いのはここからである。
自室へ戻ると、PCと機材の前へと向かう。
ここから真姫は多くの楽器を打ち込みで加えていき、1つの曲として完成させるのだ。
作曲作業開始から休むことなく、7時間ちかく、もう間もなく皆との集合時間の午後5時になろうかと言うところで、1つの曲が完成した。
「ふぅ…間に合った…ってゆうか、やば、もうこんな時間じゃん!」。
時刻は5時5分前、真姫は慌てて完成した曲をCD-Rに焼き、家を後にした。
穂乃果の家に到着すると、もちろんすでに真姫以外は揃っている。
少し遅れてきた真姫に凛が言う。
「真姫ちゃん15分遅刻にゃ、寝坊かにゃ?」
前日はほぼ徹夜だったので、遅れてきたら誰もがそう思うだろう。
しかし、真姫は違う。
昨晩に続き、その後も一睡もせずに曲を完成させたのだ。
「違うよ、曲作ってたの…はいこれ、もう曲は完成したから聞いてみて。はぁぁー…眠い…」と言って、真姫はCD-Rを穂乃果へと渡す。
すでに曲が完成していることに全員が驚きの表情を見せる。
皆を代表するように穂乃果が言う。
「えっ!?もう曲できたの?真姫ちゃんすごっ…」
「当然でしょ、私を誰だと思っているのよ」
「真姫ちゃんにゃー」
「そうよ、凛。私は真姫ちゃんよ。賢いかわいい真姫ちゃんよ」
「ちょっと何言ってるかわかんないんだけど…てゆうか、それ絵里ちゃんだし、…」
穂乃果が言った。
「え、何?眠くてよくわかんないんだけど。とりあえず曲はできたし、後は曲録りとDVD録りね。眠い…」
だいぶ疲労のピークなのだろう。
自分でもよくわからないことを口走った真姫は、話しながらうとうとしている。
その間5人は真姫が作った曲を聴いていた。
「さすが真姫ちゃん、すごい良い曲…」花陽が言った。
他の4人もうなずく。
真姫は半分寝ていてコックリしている。
わずかな時間で、これほど素晴らしい曲を仕上げてきた真姫のセンスに皆が感嘆の声をあげていた。
真姫のおかげで更にやる気になる5人。
花陽が言う。
「私考えたんだけど、PVは踊りとか、振り付けは一切なしにして、穂乃果ちゃんたちの思い出の場所の写真や、昨日やった花火の写真、そしてスクールアイドルとして活躍する3年生を中心とした写真とかを、うまく編集して作りたいなと思うんだよね」
「うん、私も賛成。いつもと雰囲気違って良いと思う。」ことりが言った。
皆が賛成とうなずく。
さらに凛が言う。
「レコーディングは音響部が手伝ってくれるよう頼んでおいたよ」
「すごいですね、本当に4日でできちゃいますね」
海未の言葉に皆が笑顔になる。
それもこれも真姫が曲を完成させてくれたからである。
「真姫ちゃんのおかげだね。ありがとう。真姫ちゃん…て、真姫ちゃん寝ているし」
穂乃果が言った。
いつの間にか真姫は座布団を枕にして、スヤスヤと寝息を立てていた。
そんな真姫を5人は笑顔で見ていた。
そして改めて、真姫の存在の大きさを実感し、皆が感謝していた。
本当に頼りになる、それが真姫なのである。
その翌日、μ‘sicforeverは曲取りを済ませ...
穂乃果、ことり、海未、そして海未の4人にとっての思い出の場所、初めて出会って、一緒に遊んだ公園、共に過ごした小学校、夏祭りの近所の神社、昔を懐かしむように写真を撮りに行き…
全員で編集し、真姫が海外旅行へ行く前日に、メッセージを込めたμ‘sicforeverの新曲P.B.Eが完成した。
スクールアイドル部部室にて完成したPVを確かめ確認する6人。
わずか4日で完成させたとは思えない、クオリティーの高い曲とPVに、作った本人たちが感動していた。
特に真姫は、TVを見ながら号泣であった。
自分たちで編集したのに、完成した映像を見て泣きながら真姫が言う。
「ねぇちょっと…何よこれ…このPVよすぎじゃないの…」
もう人前で泣くことを何とも思わなくなった真姫だった。
今回のPVは写真のスライドショーとともに、曲と歌詞が流れるように作ったものだった。
新曲名は穂乃果たち3年生の思い、あの日々の思い出から、“青い空に夏の匂いを“と名付けられた。
PVの冒頭のシーンは、昔の色あせた古ぼけた映画のフィルムかのようで、1枚の画用紙に書かれた“覚えてますか、あの日のことを…“と言う言葉だった。
そしてここからイントロが流れ、4人が初めて出会った公園のブランコの写真を皮切りに、次々と思い出の場所の写真がスライドされて行く。
写真には手書きの歌詞が書かれている。
その次は穂乃果の恵海に対する素直な思いが言葉で綴られていた。
わずか数ヶ月だったけど、子供の頃に一緒に過ごした姉のような存在の笑に対する思いが…。
そしてその後は成長しμ‘sを始めた頃の3人の姿が、μ‘sとして活躍した日々、現在のμ‘sicforeverとしての姿、そして花火大会、浴衣でみんなと撮った写真…最後に穂乃果の家の裏庭でやった。
花火ラストは手元で きらめく輝く線香、花日…曲のアウトロが終わって、一番最後に再び出てくる画用紙…
“ずっと忘れないよ。“と言う穂乃果の手書きの言葉(メッセージ)にてTVは終了した。
その見事な出来に自分たちで作っておきながら、感動する6人だった。
「これは…泣いちゃうよ。…」、
目元を潤ませながらことりが言った。
凛も言う。
「なにこれ…曲も良いし、PVもやばいし名作にゃ」
「はい…穂乃果の詞がこんなにも心を打つなんて…感動しました…」
今回の作詞は海未ではなく穂乃果によるものだ。
その詞の良さに海未も感動していた。
「自分でPVを編集して作っておきながら、こんなに泣けちゃう作品に仕上がるなんて…私って天才かも…」と言うのは花陽だ。
確かに花陽の動画編集の技術は大したものである。
「ぐすん…そんなことより早くPVをアップしましょう…」
鼻をすすりながら真姫が言った。
本当にたったの四日間で新曲とPVを作ってしまった6人だった。
真姫は有言実行、自身の手がけた楽曲と、そのクオリティーの高いPVに大満足したのであろう、
翌日に意気揚々とハワイへと旅立っていった。
そんなμ‘sicforeverの新曲、「青い空に夏の匂いを」のPVは大好評であった。
動画投稿サイトにアップするや、たちまちに評判となり、SNSに、瞬く間に拡散され、ものすごい再生回数となっていた。
同様に多数のコメントも寄せられており、感動した泣けると言う声がたくさん見られていた。
これならきっと穂乃果たちの思いは恵海にも届くかもしれない。
いつかまた会える日を信じて…写真の中の4人と同じように、また一緒に笑える日が来ることを穂乃果たちは信じていた。