音乃木坂図書室 司書
BiBiの3人による謎の会話に呆気に取られていた他のメンバーであったが、海未が話を戻すべく喋り出した。
「とにかく練習ですよ!絵里も突然意味不明な事を言い出さないで下さい。
みんななんの為に来たと思っているのですか!真姫が別荘を用意してくれたのですよ。
遊びに来たわけではないのです。それに9人で練習できる時間は限られているのです。
1日たりとも...いや、一秒たりとも私たちに無駄にできる時間はないのです!」
穂乃果と凜とにこは不満そうな顔をしている。
だが、この鬼軍曹かの状態の海未に何を言っても効果はない。
それは過去の合宿や日々の練習を見ても明らかだろう。
もしもそんな鬼軍曹と化した海に対抗できるとしたら、唯一、この人物だけだろう。
それは...ことりである。 天使のようなことりがこの争いへと参戦した。
ことりが海未へと話しかける。
「こんな素敵な場所にみんなで来たから、穂乃果ちゃん達が遊びたいっていう気持ちもわかるなぁ」
「でしょ、ことりちゃんもそう思うでしょ?海未ちゃんにももっと言ってよ」
穂乃果はことりに急かせるように言った。 「ダ・メ・で・す!練習です!」
海未の牙城はそう簡単には崩れない。 厳しい口調で言い放つ。
鬼軍曹と天使の壮絶な戦いが幕開けた。
「でもさ海未ちゃん、こんなにいい場所なんだよ?」
「ダメです。私たちには練習あるのみです!」
「せっかくこんなに天気もいいんだよ?」
「最高の練習日よりですね」
「こんな最高の場所で心がわくわくしてこない?」
「そうですね、アキバドームの舞台に立てると思うとワウワクしますね。だから練習しないとですね」
「久し振りに9人そろっての遠出だよ?」
「はい、ですから時間を無駄にする事なく練習に励みましょう」
「今日の夕ご飯楽しみだね。シェフの御飯だよ」
「たくさん練習したら御飯がおいしいですよね。真姫に感謝ですね」
「チーズケーキはあるかなぁ」
「どうでしょう、でもデザートもあれば嬉しいですね」
「海未ちゃんはタルトケーキ好きだもんね」
「タルトのチーズケーキが出たら最高ですよね」 「そしたら2人で分けて食べようね」
「はい、そうしましょう」
「そういえばこの前行ったケーキ屋さんの新作すごく美味しかったよね」
「あれは絶品でしたね。また今度行きましょう」
鬼軍曹と天使の戦いはは互いに譲らず小康状態であった。
と言うより途中からスイーツの話題に興じる女子2人の様相を呈しているが
...だが、スイーツの話題に一区切りついた所で天使が再び仕掛ける。
「練習も大事だけど、こうして9人で集まれるのも少なくなってきたから、今日ぐらいは遊んでもいいんじゃない?」
「ことりは甘いのです。そんなことでは敵には勝てませんよ!」
果たして海未が言う敵とは一体何の事だろう、たしかに勝負ではあるが、表現の仕方が...と思ったのはことり一人だけではなかった。
しかし、ことりも負けていない。
「ねぇ、海未ちゃん、こんなに綺麗な海が目の前にあるんだよ?」
「はい、砂浜でのトレーニングは最高ですね。ダンスに必要な強い足腰が作れますからね」
「別荘の裏には美しい山もあるよ?」
その瞬間、ことりは口にだした”山”というWordに一瞬海未の表情が変化したのを見逃さなかった。
「目の前に山があるんだよ?」
「山...はっ...!?だ、だめですよ...練習しないと...私たちは登山に来たわけではないのですよ...」
海未は登山が好きな山ガールである。
山と聞いただけで、遊ぶが登山へと変わっており、明らかに動揺が見て取れる。
そしてことりが追い打ちをかける。
「天気もいいし、最高の登山日和だよ?」
「と...登山...山が私を呼んでいる...」
ことりの言葉により海未は完全にKO負けであった。
鬼軍曹敗れたり、天使の勝利である。
海未は真姫をグイっと引っ張りよせ、何やら小声で話している。
しばらくして皆の方へクルリと向き直り海未は言う。
「えーとですね。今回の件を慎重に審議した結果ですが、ここの上の頂上にはこの街を一望できる展望台があるそうです。そこには地元の食材を取り扱ったスイーツが人気のレストランがあり、自然を利用したアスレチックがあり、天然温泉もあるそうです。つまりですね...レッツ、マウンテンですよー!」
人が変わったかのようにノリノリの海未である。
さっきまでの鬼軍曹っぷりはどこへ行ったのやら...
山と聞いただけで、あれだけダメだと言っていたのに、呆気なく前言撤回する海未であった。
「私も小さい頃に行った事あるけど、まぁそれなりに楽しめると思うよ。それに展望台までは500mぐらいあるから結構いいトレーニングにもなるわね。遊びと練習も兼ねられて、一石二鳥って所かしら。じゃあ部長、ここで一言」
真姫の振りに全員が”じーっ”と言って花陽を見つめる。
この振りはμ'sの中でのセオリーであった。
「えぇー!?出た、いきなりの無茶振り...」
といいつつも軽く咳払いをして、皆を見つめ返す花陽。
「コホンッ...では私から一言。今日はμ's復活を記念して、全力で遊ぶぞー。レッツマウンテン!」
花陽の言葉に全員で声を上げ、足早に別荘の外へと向かう。
やはり年頃の女の子である。 しかも誰よりも仲の良い9人だ。
皆で集まると遊びたくなって当然だろう。
μ'sの凄さの一つは、9人のこの結束力の強さである。
個性的な性格の子が多いため、言い争ったりしてしまう事もあるが、逆にそれは仲の良い証拠でもあり、互いに信用し、信頼し合ってるからこそである。
何も隠すことなく素の自分を出せる存在、それがどれだけありがたい事であろうか。
いつの日か、もっと大人になれば、それぞれ離れてしまう時も来るだろう。
だからこそ、今この限られた時間の中で、こうして皆でいられるのが何より嬉しい9人であった。
続く