音乃木坂図書室 司書
買い物を終えた4人、
時刻もいい頃合いになり、穂乃果の家へ向かう。
アキバの大通りは夏休みと言うこともあり、11時近くになってもまだまだ人の通りは活発であった。
そして穂乃果たちが家に着くのと、ほぼ同じタイミングで海未とことりも再び合流した。
「ただいまぁー、お母さん、みんな来たよー!」
大きな声とともに店舗側の入り口から入る穂乃果。
本来なら裏手に玄関がちゃんとあるのだが、穂乃果はいつも店舗側の入り口から出入りしている。
そのため、穂乃果が帰宅するまで施錠されていないのだ。
穂乃果の声に反応し、奥から母が出迎える。
「お帰りなさい。みんないらっしゃい。ねぇ穂乃果、布団があなたの分を入れて5人分しかないんだけど…」
「大丈夫だよ、5人分の布団で6人寝るから。お母さんお茶と和菓子よろしくね!」
「あらそう、はいはいじゃぁ上がって待ってて」
そう言うと、穂乃果の母はキッチンへと向かった。
あれだけ花火大会で食べたのに、さらに自分の家の和菓子を食べようとする穂乃果に対し、5人は言葉を失っていたが、とにかく高坂家へと上がって今に入る。
すると、そこにはごろごろと転がりながら、お菓子をほおばりつつ、テレビを見る雪穂の姿があった。
それを見て5人は、あぁ穂乃果の妹だなぁと思っていた。
「あっ、皆さんいらっしゃい」
「ちょっと雪穂、そんな格好でだらしないでしょ!」
一喝する穂乃果。振り返った。雪穂は下着にTシャツ1枚だけという姿だった。
「は?お姉ちゃんには言われたくないけど!」
「はーじゃないよ、親しき仲にも礼儀ありだよ。雪穂!」
「何それ、自分に言ってあげなさいよ。お姉ちゃん!」
「あー、もう可愛くない妹だなぁ…ねぇ、みんな、それよりさぁ、花火買ってきたから、花火やろうよー。!」と言って花火を取り出す穂乃果。
「花火大会へ行った後に花火やるなんて、穂乃果ちゃんのセンスよすぎです!」と言ったのは花陽である。
すでに居間のテーブルには、穂乃果の母が用意してくれたお茶と和菓子があり、なんだかんだ言いつつ、皆が手にしている。
和菓子をほおばりながら真姫が言う。
「ねー穂乃果、先にシャワー貸してもらえない?汗かいちゃって…」
「うん、順番に使っていいよ。しゃわー終わったら花火しよう!」
雪穂はいつの間にか自分の部屋に戻っており、2年生の3人は順番にシャワーを済ませていく。
そして真姫が買ってくれた服に着替えていた。
3人とも同じ服であり、1人ずつシャワーから戻ってくるたびに、3年生の3人は笑っていた。
上は黒のTシャツに白地で“すーぱーあいどる“と書かれているもので、いかにも外国人観光客が意味もわからず、購入してしまうような代物である。
その下は普通の白いショートパンツであった。
ダサいTシャツをトリオで着る3人の姿を見て、3年生3人は大爆笑であった。
特にその姿で3人が居間に座ったときのインパクトは強烈だった。
「なにその服、アハハハハ…ださっ…お腹痛い…ヒィィ、」
転げ回って笑う穂乃果。
その隣ではことりも笑う。
「にこちゃんも、そこに混ぜてあげたいね。アハハハハ…」
そして海未も笑いを我慢できないでいた。
「0点ですね、プ…プフフフッ」
「ちょっと…笑いすぎよ。あんたたち」という真姫であったが、その横で凛が言う。
「買ってもらっておいてなんだけど、このTシャツはダサいにゃ…」。
「うん…ちょっと無いかな…」花陽も同意である。
「いや、ダサいけど、コスパ重視だから仕方なくない?」と言う真姫。
とは言え安くて可愛いものもたくさん売っている。
せめてもう少し、女の子っぽいものにして欲しかったと凛と花陽は思っていた。
すると穂乃果がスマホを取り出して3人に言う。
「よーし、じゃぁ3人並んで…ハイポーズ!」
悲しきかな…アイドルをやっているからか、はい、ポーズと言われると、自然に体が反応し、しっかりとポーズをとってしまう3人であった。
それを見た3年生の3人はさらに大爆笑である。
「あー、面白い?!よし、この写真をみんなに送ってあげようっと!」
穂乃果は今撮った写真をμ‘sのグループメールへと送信していた。
いいように遊ばれる2年生の3人であった。
「それじゃあ花火やろうよ。ほら、もう準備しておいたから。せっかくだし、雪穂も入れてあげよっかな」
2年生で一頻り笑ったところで、穂乃果はそう言うと、2階より雪穂を引っ張ってくる。
もう寝ようとしていたので、不機嫌な雪穂だったが、2年生3人の姿を見るや大笑いであった。
「雪穂…覚えときなさいよ…」
真姫がぼそっとつぶやいた。
結局、雪穂は眠いとのことで部屋に戻って行き、6人で花火をやることに。
高坂家の裏庭に出て、花火を始める6人。
穂乃果が用意したたくさんの手持ち花火。
打ち上げ花火とは比べようがないが、また一味違った良さがある。
手元で色鮮やかな光と輝きを見せる花火。
夏の風情と言える、軒先に釣られた風鈴の音色、そして花火の匂いが鼻先をくすぐっている。
今ではあまり見られることのなくなった、日本の夏の姿がここにはあった。
穂乃果は複数本をまとめて火をつけたり、くるくる回したりと、まるで小さい頃に戻ったかのようにはしゃいでいた。
手持ち花火の最後を飾るのは、やはり線香花火だろう。
6人は膝を抱え、同時に火をつける。
パチパチと言う小さな音と光が爆ぜる。
少しずつ大きくなっては、また小さくなり消えてゆく。
とても情緒的な花火である。
「線香花火っていいよね」
そう言ったのは凛である。
それに花陽がうなずく。
「うん、とっても綺麗」
全員が線香花火を見つめている。
そんな中でなぜか穂乃果だけは少しものうげな表情をしていた。
それに気づいたことりが穂乃果に声をかける。
「ほのかちゃん、またあの日のことを考えてたでしょ?...」
「えっ…あっ、バレちゃってた?ハハハハハ…」
そんな2人の言葉に真姫が反応する。
「あの日の事って何?何かあったの…?」
あの日の事…それは穂乃果と海未とことりしか知らない事。
今から10年も前の話…
「たいした事じゃないよ。私たちが子供の頃の話なんだけどね。…」
そう言って、穂乃果は昔の話を語りだした。
続く