音乃木坂図書室 司書
その頃会場周辺では多くの人で賑わっており、5人も会場へ到着していた。
「やっと着いた!まだ入場は始まってないみたいだね」
体を大きく伸ばすように両手を上げて花陽が言った。
「海未ちゃんのせいで、ここに来るのにすごい時間かかったけどね
」穂乃果が海未に根を持つような言い方をする。
「そんな…それは仕方ないではないですか。私だけ正体がばれて囲まれるなんて不平等です!」
正体がばれるも何も海未は変装していない。
だから軽くでもいいから変装してくるように皆に言われていたにもかかわらず、無防備な姿で来た海未の自業自得だろう。
少しばかり主張していることがめちゃくちゃなことにはあえて誰も触れない。
「それよりさぁ、関係者って響きがなんだかすごいよね。入り口も向こうの関係者入場口だもん」
ことりが見事に海未の発言をスルーして、今日のライブのことに話題を戻した。
そう今回5人はA-RISEの関係者として招待されていたのである。
関係者は一般入場口とは別に入場口が用意されておりいつでも手入りが出来るようになっている。
また会場内もある程度の場所に自由に行けるのだ。
「はい、すごいです!A-RISEの関係者だなんて…
そもそもμ'sとして、A-RISEとは近しい存在ではありましたが、今回出演するBiBiに至っては私たちの大切な友人であり、共に歩んできた…」
興奮気味に話す花陽。多分…というか絶対に話が長くなるのを察したのか、穂乃果が話を帰るべく割り込んだ。
「ねぇねぇ、向こうで物販やってるよ。まだまだ時間もあるし、みんなで見に行こうよ!」
会場にはすでに多くの人が集まっていたが、物販では長蛇の列ができていた。
ライブのもう一つの楽しみといえば物販であろう。
今の世の中ネットでもツアーグッズの購入ができるが、ライブ会場の現地でしか販売されないグッズもあるのだ。
そのためライブは夕方からにもかかわらず、物販については午後の早い時間からスタートする。
また物販はライブのチケットを持っていない人でも参加できるので、いつも行列ができて賑わいを見せるのであった。
「ちょっと!私の話ちゃんと聞いてよもう!」 話を遮られて不満そうな花陽であるが、体は先頭切って物販へと向かった。
穂乃果に促され、5人物販エリアへと移動する。
物販は大小2つの仮設テントで行われており大きいテントが洗えず、小さいテントでは美味のグッズ販売が展開されていた。
わずかの期間でグッズまで用意していたBiBiであるが、これは希の協力によって実現したものである。そんなBiBiの物販もかなり賑わっていて多くの人が列に並んでいる。
「すごいですね。BiBiの物販もやってますよ」
海未の言葉に花陽は慌てふためく様子で言う。
「えっ… BiBiの物販って…聞いてないけど…どっ、どうしよう…
予算足りるかな…えっ…あー……ねぇ真姫ちゃんお金貸して…、
真姫ちゃん…私はどうすればいいの…?」
だいぶテンパっている花陽、ここにいない真姫に、お金貸してって言うぐらいだから相当であろう。
花陽はアイドルのライブに来ると必ずツアーグッズを購入(それもかなりの量)するのだが、A-RISEのみでなく、BiBiまでグッズがあるとして、財布の中身が不安になったのである。
そんな花陽であったがとりあえず物販の列に並ぶ5人。
そして並んで気づいたことが1つあった。BiBiの物販の売り子に希と雪穂と亜里沙がいるのに気づいた5人。
しかも希はお客さんのお会計ごとに、サインや写真を求められて、それに応じている。
やはりμ'sの人気者、希の人気も凄いものであった。
物販に並んでいた5人もまた、こっちはこっちで正体がばれてしまい、希と同様に周囲からサインや写真をお願いされていた。
これもまた変装していない海未がすぐに気づかれてしまった結果、他の4人も諦めてサイン等に応じていた。
この5人の人気も凄いのだが、それも当然だろう。
A-RISEのライブ会場でμ'sを知らない人などほとんどいない。
A-RISEのファンは良きライバルとしてμ'sを好きな人が大多数なのだ。
しかも今日のライブにはまだμ'sの3人がBiBiとして出演する。
A-RISEに負けず劣らずの人気だったμ'sなのだ。こうなるのは自明の理であろう。
それからしばらくして一般入場が始まり、周囲の人混みがはけたところで、ようやくのこと物販の希みの元へたどり着いた5人であった。
「はぁー…大変だった…やっと着いたよ…」
「いらっしゃいませ、5人ともお疲れさんやね」
ため息まじりの穂乃果と、5人を笑顔で出迎える希。
「希ちゃんもお疲れ様。売り子のお手伝いやってたんだね」ことりが言った。
そこに穂乃果がブーたれながら言う。「なんで雪穂が物販やってるの?ずるいよ!」
「それは絵里ちゃんが亜里沙ちゃんを通してお願いしたからで、雪穂ちゃんに文句言ってもしょうがないやん」
「お姉ちゃん、まじうるさいんだけど…」
希が説明するも関係なしで、兄弟喧嘩が始まりそうな雰囲気であったが、タイミングよく花陽が乱入した。
「このグッズ買わないならどいて下さい。邪魔ですが!ねー希ちゃん、BiBiのグッズは何かあるの?」
一応先輩である穂乃果を邪魔扱いする花陽、アイドルモード恐るべしである。
「花陽ちゃん何か買ってくるくれるん?かなり好評でそろそろ売り切れそうなのもあるんよ」
グッズにはBiBi3人のシルエットがプリントされたTシャツやタオルマフラー、缶バッチ、ステッカー等が用意されていた。
どのグッズにおいても売れ行きは好調で残りの数は少なくなっている。
「このグッズすごいにゃ、希ちゃんが準備したの?」
「うんそうやで。ちょっと知り合いにお願いして用意したんやけど、こんなに売れるとは思ってなかったよ」
凛の問いに希は答える。希は今日のために知り合いを通じてグッズを用意したのだ。
BiBiに加わらず、その時に言った言葉通りである。
“うちは陰から3人を支えるよ“と。それにしても希の人脈は大したものだライブが決まってわずか3週間でここまで用意したのだから。
またそれに見合うぐらいグッズが売れると言うのは、BiBi3人の凄さあってのことだろう。
初ライブであるにもかかわらず、すでに1部の人にはBiBiの人気はすごかった。
μ's亡き後のBiBiがそれだけ注目されたと言うことであり、またにこによるホームページやブログの効果も絶大だったのである。
「それで花陽ちゃんは何買ってくれるん?」
身近な友人であろうと、しっかりと商売のことを忘れていない。
「全部ください!」即答する花陽。
だが希は一瞬聞き間違えたのかと確認するため花よりもう一度問う。
「えっと花陽ちゃん…全部って聞こえたんやけど…」
「はい、全部買います!BiBiTシャツ各色1枚ずつにタオルマフラーに…全部です!」
さすがの希も驚いている。
全部となると、いくらA-RISEのグッズより価格を安く設定しているとは言え、
Tシャツ4色各2900円、タオルマフラー2000円、缶バッチ400円12種、
ステッカー400円8種、etc...
…軽く20,000円を超えるお買い上げである。
改めて花陽のアイドルに対する情熱恐るべしであった。
他の4人はそれぞれBiBiTシャツ(黒を購入していた。ちなみに他の色はμ's時代の3人のイメージカラー水色(絵里)、赤(真姫)、ピンク(にこ)の3色であった。
「それじゃあ希ちゃん達またあとでね!」
グッズを大量購入し満足そうな顔で花陽は言った。
それぞれがライブグッズを見に纏い、ライブへの準備は万端である。
ライブの開演が待ち遠しい5人であった。
続く