オキシ タケヒコ (著)
ある田舎町に住む青年、逸見瑞樹。
同世代の多くが大人になると都会へと出ていってしまう中、子供の頃に両親を亡くしている瑞樹は地元に残り、祖母の経営する小さな新聞店で配達員をしていた。
彼にはこの町に残るわけがあった。
一つは、自身の性格的問題で、人とのコミュニケーションが極端に苦手であったため。 そしてもう一つ、それは10年以上も前に交わされたた約束があったのである。
ー僕が友達になるー
そう誓った日から10年の歳月が流れ...
瑞樹は欠かさず行っていることがあった。
人が寄り付くことがないような山中にある屋敷へと通う瑞樹。
その屋敷の中には不気味な銅像の蔵があり、中は座敷牢となっている。
その座敷牢の奥には静かに座っている少女がいた。
少女の名はツナ。
ーひさしやミミズクー
瑞樹に対していつもそう語りかけるツナは、下半身不随で動くことができなかったのであった。
そんなつなは怖い話が大好きで、ツナに怖い話を聞かせるために、瑞樹は毎週ツナの元へと通っているのである。
ツナを喜ばせるために瑞樹は友達として怪談蒐集をしていたのだ。
出会ってから10年以上に渡ってである。
だがその行為とは裏腹に、怖いのが大の苦手である瑞樹は変な夢に悩まされていた。 そんな彼の前に現れた怪しい男。
悩みや相談を解決すると謳う多津という男との出会いが、これまでの瑞樹を大きく変えることになったのであった。
ツナを自由にしてやりたいという、その思いで瑞樹は動き出し、今まで知らなかった真実を知っていく。
そして10年前のことを知った先に、瑞樹を待ち受けているものとは一体... SFとホラーが折り重なり描かれる傑作である。
物語の始まりはホラー小説家のように進んでいくが、途中から話の展開は大きく変わっていく。
特に怪しい男、多津が登場してからは一気にストーリーは加速していく。
現実とあの世(死後の世界)が繋がっていて、瑞樹の見ていた夢の謎や、物語の合間に挟まれた短い間章的な部分も、初めは意味がよくわからないが、話が進むにつれて全てのことが理解できるようになっている。
SFの要素あり、ホラーの要素あり、ストーリーの構成も素晴らしく、読んで損はない一冊であると思う。
この作品は確かSFが読みたい2018でベスト30の中に入っていた作品。期待通り面白かった。