音乃木坂図書室 司書
5月○日、GW明け最初の土曜日。
アキバの駅前周辺は近年、都市開発計画が進み、高層ビルが立ち並び、近代化が進んでいる。
駅内には駅ビルが建設され、アキバ特有のアニメとのコラボをする等、賑わいを見せている。
そんなアキバ駅の改札口前には変装をした花陽と凛の姿があった。
花陽は大きめのサングラス、凛は目深にキャップ帽をかぶっている。
どうやら誰かを待っているらしい。
「あっ、来た。おーいみんなー、こっちだよー!」
そう言って手を振る花陽の元に合流したのは穂乃果とことりと海未である。
海未以外の二人も軽く変装をしている。
アキバの街では彼女達は有名すぎるのだ。
何せμ’sの地元だし、アキバは他の場所より遥かに、アイドルに詳しい人が多い土地なので、彼女達は休日ともあれば変装していないと囲まれてしまうのは、必至である。
今日はこれから5人でどこかへと向かう様子であった。
「今日のライブ楽しみだねぇ。A-RISEとBiBi!」
改札をくぐり、ホームに向かうエスカレーターで穂乃果が言った。
そう今日はBiBiにとっての初ライブの日である。
結成からわずか3週間程度での初ライブはなんと、プロアイドルA-RISEのライブに前座ではあるが、ゲストとして出演する事になったのだ。
これは異例と言っていいだろう。いくら元μ'sの3人であり、知名度はあるにしても、BiBi自体はほぼ無名で、プロでも何でもないのだ。
ただし、A-RISEのホームページや自身のホームページにて宣伝した効果もあり、一部の人からはすでにかなりの注目をされているのも事実である。
そんなBiBiの初ライブを見るために5人はライブ会場へと向かっていた。
駅のホームから電車に乗り込む5人。土曜の午後という事もあり、社内は出かける人で込み合っている。
海未以外の4人はサングラスや帽子といったアイテムで各々変装しているため、パッと見怪しい5人組であった。
やはり話題はBiBiで尽きない。
「BiBiはすごいね。プロのA-RISEと同じステージに立つなんて」ことりの言葉に全員が頷ていいる。
「これは大変なことです!凄すぎです!凄すぎてもう意味わかんないです。どうかしてます。大変すぎます!だって大人気プロアイドルのA-RISEのライブに出演するんですよ。ハラショーすぎてイミワカンナイ!」
相当興奮した花陽は絵里と真姫の口癖をパクる。
だが、アイドルを誰よりも愛している花陽からしたらそれも仕方ないだろう。
自分たちの友人であり、仲間である3人がBiBiとしてライブを行うのだ。しかもそのステージはプロアイドルのステージである。普通であれば考えられないような事だろう。
「はーいかよちん落ち着いて、お菓子だよー、あーんっ」
興奮した花陽を落ち着かせるべく、凛は花陽にお菓子を与える。
指まで食いつくかの勢いでお菓子にパクつく花陽。
凛はいつの日からか、スクールアイドル部にて花陽取扱主任技術者という謎の資格をメンバーから授与されていた。
「お菓子おいしー、ありがとう凛ちゃん」
そんな二人を余所に3年生は話を続けていた。
「でもにこちゃん大丈夫かな?張り切りすぎて逆に不安だよね」
そういうのは穂乃果である。
確かに、にこの性格を考えると目立ちたがりなので気持ちが空回りしてしまうのではないかと多少心配になるのも頷けるが…
「にこなら大丈夫ですよ。アイドルに関しては誰よりも特別に強い気持ちをもっていますから。穂乃果のいう事もわかりますけど、にこはああ見えて冷静さもありますからね」
海未の言葉に小鳥も続く。
「そうだよ穂乃果ちゃん、あの3人なら大丈夫だよ。にこちゃんだけじゃなく、絵里ちゃんと真姫ちゃんもいるんだもん。あの3人なら最強だよ。きっとA-RISEの3人にも負けないよ」
μ'sの中でも一番の美貌を誇った絵里、独特の個性があり、誰よりもキュートでかわいらしいにこ、最年少ながらクールビューティで人気の高い真姫。
確かに、ことりの言う十市この3人の組み合わせは秀でており、A-RISEと比べても遜色ないだろう。
「うん、そうだね。あの3人なら安心だね。あー、ライブが楽しみ!」
穂乃果の言葉に海未とことりは笑顔で頷く。
それから数十分。乗り継ぎを経て、目的地の新木場駅に到着した5人。
周囲は5人同様、ライブへ向かう人であふれている。
同年代から20代の若い世代の人が多いが、スクールアイドルやA-RISEは同性からの指示が高いのが特徴である。
男女比でいうと、女性8:男性2といった具合なのだ。
駅から会場へ向かう人が多数いるが、多くの人がA-RISEのツアーTシャツを着ている。
今回がA-RISEにとって、プロデビュー後の初ツアーであり、今日が初日なのだが、しでに多くのファンがツアーグッズを身に着けている辺り、その人気が窺える。
そんなA-RISEのプロ初ツアーの初日にBiBiはゲスト出演するのだ。
多くのメディアが注目するライブにBiBiとしてライブ参加するという事が持つ意味は、BiBiの3人やμ'sのメンバーが思っている以上に大きな事なのである。
人混みに紛れて歩く5人だったが、ふと穂乃果が気づく。
「あれっ、海未ちゃんはどこ行った?」
一緒に歩いていたはずの海未の姿が気付いたら見当たらなくなっていた。
後方を見ると、海未は人に囲まれている。
唯一海未だけ変装していなかったからだろう。μ’sの園田海未とバレてしまい、サインや写真を求められていたのだ。
「ほら言わんこっちゃない。海未ちゃんってば…」
ぼやく穂乃果、だから変装するよう言っていたのに、海未だけは断固として拒否した結果がこれである。
「海未ちゃんには悪いけど、先に行こっか」
ことりがそう言った瞬間、後方で囲まれている海未が叫び声をあげた。
「穂乃果、ことり、助けてください!凛に花陽も私を置いていかないでください!これは先輩命令ですよ!」
海未が叫んだ事により、ほかの4人もバレてしまい、変装してきた意味もむなしく、囲まれてしまう。
「ダレカタスケテー...」花陽が言った。
「もう、海未ちゃんのバカっ!」穂乃果が言った。
ことりは苦笑いしている。凛は割と楽しそうである。
だが、それは結局、それだけμ'sの人気がすごいという証拠であった。
続く