音乃木坂図書室 司書
ライブ30分前。
講堂が既に満席である。それどころか、中に入れない人が大勢廊下に溢れていた。
映像部の協力により、空き教室の何カ所かでパブリック・ビューイングが開催されているが、どの教室も大勢の人で賑わっている。
ライブを待ちわびる観客の熱気はすごかった。
それこそプロアイドルのライブ会場かのようである。
今回はμ‘sの出演は無い。それでも元μ‘s 6人による新しいユニット、μ‘sicforeverの初ライブと、大人気ユニットBiBiを見たさに、多くの人が音乃木坂に訪れていたのである。
準備を終えて、花陽は講堂の様子を見て思わず声を上げる。
「うわあぁ、お客さん溢れてる…これは1年生すごい緊張するだろうなぁー…」
とつぶやきながら、ふと花陽は講堂の正面スクリーンに目を移す。そこにはタイムテーブルが表示されているのだが、よく見てみると、タイムテーブルが変わっていることに花陽が気づく。
「えっ…ちょっ...どうして...うぇぇ!?」
コンタクトレンズがずれてしまったのかと、目薬をさして再度タイムテーブルを見つめるが、やはり間違いではなかった。
14時からの出演はゲスト枠でBiBiを予定していた。
しかしだ。タイムテーブルの14時からの出演者がBiBi with ツバサ&あんじゅ from A– RISEへと変わっていたのである。
それはスクールアイドル部部長の花陽にすら知らされていない出来事で、目を丸くするようにしてタイムテーブルを再度見つめ…
「うぇぇぇー!?A–RISEも出ちゃうのぉ!」
思わず大きな驚きの声をあげてしまう花陽だった。
完全にA– RISEの2人に騙されていた。
今日はスクールアイドル部のライブを見に来ただけ、オフだから音乃木坂の学園祭に遊びに来ただけと聞いていたのだ。
それがまさか、出演することになっているとは…あんじゅの言葉を借りるなら、今の花陽の心境は完全にフルハウスであろう。
いや、その言葉の意味は花陽としてはいまだに意味不明ではあるのだが、とにかく驚いた。
びっくりした。すごいことになったと言うことである。
実はこのA– RISE出演に関しては絵里によるものだった。
BiBiとして音乃木坂の学園祭ライブに出演することになった絵里は、軽い気持ちで大学の同級生であるツバサにA– RISEも出ないかと持ちかけたのだ。
ツバサの返事はノリノリでオーケーだった。
ただし英玲奈の都合が合わなかったため、A– RISEとしてではなくBiBiと一緒に出演すると言うことで実現したコラボなのである。
ちなみに真姫も花陽と同様、ライブ直前までこのことを何も知らなかった。
にこにしても真姫より少し早く、絵里に言われただけである。
こうして以前に絵里が少し口を滑らせそうになった音乃木坂学園祭ライブにおけるサプライズは成功したのだった。
通りで会場が異常な音生に満ちていることにも納得であろう。
しかし観客のみならず、身内にまでサプライズするあたりは、絵里のいたずら好きなところがあってのことだろう。
「高校の学園祭にプロのアイドルが出演するなんて…やばい、これはヤバ過ぎる!なんだかドキドキしてきた…」
花陽は大興奮であった。
大好きなA– RISEの2人が自分たちの学園祭ライブに出演するのだ、それはもう夢のようなことである。
だが夢ではない。
花陽はすぐに映像部の友人の元へ行き、今日のライブを全て、完璧に取るようにお願いをする。
そしていよいよライブ開始5分前…講堂の証明が落とされる。
それと同時に大きな歓声が沸き上がる。
会場ではライブを待ちわびる大勢の人が、講堂に入れなかった人たちはパブリックビューにてステージを見つめる。
ステージ裏ではスクールアイドル部の全員が集合していた。
部長の花陽を中心に、円を描くように丸くなる。
「さぁみんな、今日が音乃木坂スクールアイドル部の新しい第一歩だよ。全力でライブを楽しもう!」
花陽の言葉に全員が声を出し気合を入れる。
オープニングを飾る一年生ユニットと皆がハイタッチを交わし、準備は整う。
いよいよライブのスタートだ。
会場に流れていたμ‘sの曲が止まると同時に、ステージが照明で照らされる。
さらに大きな歓声が会場中に鳴り響く。
そしてライブ開始を告げるアナウンスとともに曲が流出し、スクールアイドルがステージへと姿を現した。
〔13時~タイムテーブル1組目〕
音乃木坂学院学園祭ライブのオープニングを務めるのは一年生ユニット、S-Girlsである。
彼女たちは6人組ユニットであり、一言で言えば個性的なアイドルであろう。
第3回ラブライブ関東地区予選では,
残念ながら1時予選で姿を消してしまったものの、間近で元μ‘sの先輩たちの姿を見て、地道に努力を重ねている彼女たち。
まだ知名度はないが音乃木坂のそしてμ‘sの後輩である彼女たちに送られる声援は大きかった。
期待も大きいのだろう。
だが彼女たちにとっては初のライブであり、しかもこれだけの観客と声援である。
相当の緊張が見て取れる。
ライブ前の花陽が行ったライブを楽しむと言う余裕はなかった。
ただひたすら自分たちの曲を披露するので精一杯だった。
一生懸命さが伝わってくる。
だが笑顔にはどこかぎこちなさがあり、動きもいつもの練習のようにはいかなかった。
2曲を披露し、彼女たちはライブを終了した。
曲の合間にMCも考えていたが緊張のあまり、それどころではなかった。
ステージ裏へと戻った彼女たちは想像以上に呼吸が乱れていた。
笑顔で歌って踊ると言うのは相当のスタミナを必要とする。
それに加え、極度の緊張感と言うのは恐ろしく消耗するものなのだ。
会場は大きな拍手が起きているが、ライブを終えて、自分たちの持っていたパフォーマンスが出せなかったのが悔しかったのだろう。
彼女たちの瞳からは涙が溢れていた。
だがそれも仕方ない。
小さな会場だが、多くの観客がいて、一緒に出演するメンバーを見たら…
元μ‘sのメンバー、BiBi、プロのA– RISE…
「トップバッターが1年生っていうのはかわいそうだったかなぁ…
これだけお客さんもいるし…」
ステージ裏で見守っていた真姫はつぶやいた。
同じく海未と凛も同様の気持ちだった。
そしてまもなく二組目Printempsの出番である。
続く