音乃木坂図書室 司書
気づけば懐かしい話に花が咲いていた。
μ'sの活動を終えて、今までを振り返るように皆で様々な思い出を思い起こしては笑いあっていた。
「懐かしいな、あっという間だったもんな」
花陽が言った。芝生に座り両手を後ろについて星座を見上げる。
明るい星々と月明かりが9人を照らす。
「学校がなくなるかもしれないってなって、私はショックだったんだ。この学校が大好きだったから。それで何かできないかなって考えて、海未ちゃんとことりちゃんを誘ってスクールアイドルを始めたんだよね。
スクールアイドルとしてμ'sで活躍できれば、音乃木坂をアピールできるかもしれないと思って。」
穂乃果は純粋に音乃木坂を廃校から救いたいという思いで、スクールアイドルを始めた。
何とかしたいとか廃校を残念に思う人は多数いたが、実際に行動に移したのは生徒会の絵里を除くと、穂乃果だけであった。
そんな素直な想いに惹かれた人は、μ'sのメンバー以外にも多くいた。
「私は、最初は本当に嫌だったんですよね。今では何回も嫌だって言ったのが、懐かしいです。」
海未は極度の恥ずかしがり屋であり、人前で歌って踊るアイドルなんてもってのほかであった。
だが親友の穂乃果に誘われ続け、半ば無理やりスクールアイドルを始めて、気付けばアイドルが大好きになっていたのだ。
「そういえば海未ちゃんは、最初ずっと断っていたもんね。でも私と穂乃果ちゃんと海未ちゃんでμ'sをスタートして...誰も作曲できなくて困ってた時に、穂乃果ちゃんが真姫ちゃんを見つけてきたんだよね」
ことりが言った。
ことりは海未とは対照的に、穂乃果の誘いをすぐに受け入れていた。
言い出したら聞かない性格というのは分かっていたし、面白そうだなと思ったからである。
「私も最初は本気で断っていたんだけどね。穂乃果がストーカーみたいにしつこく付きまとってきて、うざかったなぁ」
真姫は当初、作曲を頼まれたものの断り続けていた。
アイドルみたいな軽い感じの曲は好きではなかったし、自分の音楽は中学までと決めていた。
しかし穂乃果の情熱と、本気でやろうとする姿を目の当たりにし、真姫は3人のために作曲をしたのであった。
「そんなこと言わないでよ真姫ちゃん。でも真姫ちゃんのお陰で、真姫ちゃんがスタートダッシュを作ってくれたから、μ'sとして3人で初ライブができたんだだけど、あの時の私たちのライブ、講堂には誰もお客さんはいなかった。」
穂乃果の言葉に海未とことりが頷く。
μ'sの初ライブ。
それは大きな挫折を味わう結果であった。
誰も見に来てくれなかった。
でも3人は最後までライブをやりきった。
あの日諦めなかったからこそ、今があるのは間違いない
「花陽ちゃんと凛ちゃんが、遅れてきてくれただけだったよね」
「はい。でも実はあの時…あの場に私たちは全員いたんですよね…」
懐かしそうに振り返ることりと海未。
あの日、ステージにはμ‘sの3人穂乃果海未ことりがいた。
遅れて花陽がライブを見に、それを追うように凛が講堂へやってきた。
にこは座席に隠れていた。
音響室には絵里が、行動の入り口には希が、そして真姫がいた。
あの日あの場に9人は揃っていたのである。
「それであの時、絵里ちゃんに厳しいこと言われて…あの頃の絵里ちゃんは怖かったなぁ、μ‘s 全否定だったもんね」
「ごめん…穂乃果、その事はもう言わないで…」
あの日、絵里はライブを終えた3人に厳しく言い放った。
これが現実だと。
続けることに意味があるとは思わないと。
だが穂乃果は言った。“やりたいからやる“と。
現実を考えれば絵里の言ったことも理解できることであった。
でも穂乃果はあきらめなかった。
やりたいからやる。
せっかく見つけた楽しくて大好きなことを、一回の挫折で諦めてたまるかと言う気持ちだったのだ。
「その後花陽ちゃんがμ‘sに入ってくれて…」
「うん、そして凛ちゃんと真姫ちゃんも入ってくれて、μ‘sは6人になった。
3人が入ってくれて本当に嬉しかった」
ことりに続いて穂乃果が言った。
花陽はスクールアイドルに憧れて、μ‘sとして活動する3人を見て憧れていた。
花陽がμ‘sに入る事は間違いなかっただろう。
それに比べて凛と真姫はと言うと…
「凛は陸上部に入るつもりだった。でもスクールアイドルを、穂乃果ちゃん達を見てるかよちんの姿を見ていたら、アイドルって楽しそうだなぁって思って。そして凛を誘ってくれて、受け入れてくれたのが嬉しかった。凛をμ‘sに入れてくれてありがとう」
「私もそんなつもりはなかったけど…誘ってもらって、まぁ私が曲を作ってあげないとμ‘sは活動できないだろうし、仕方なくって感じだったかなぁ」
2人は言った。お互いに1つだけ同じ理由があった。
それは自分を誘ってくれて、受け入れてくれた事がうれしかったのだ。
「6人になったμ‘sは部として認めてもらうため、にこを説得しましたけど、にこはめんどくさかったですよねー」
「ってうるさいわよ海未…そんな昔の事もういいでしょう!」
6人になったμ‘sはスクールアイドル部として認めてもらうため、生徒会に申請した。
しかしアイドル研究部と言う、ほぼ同じ活動内容の分が既に存在しており、似たような分を乱立することができない状況で1つの部として統合するため、にこを説得することになったのである。
だが相手はにこである。
説得は一筋縄ではいかなかった。
苦労の末、にこを部長に据え、スクールアイドル部として1つになり、そしてにこをμ‘s 7人目のメンバーえと迎えることになったのだ。
「にこちゃんが入って7人になった私たちは、もっと踊りが上手くなりたくて、絵里ちゃんにダンスを教えてほしいってお願いしたんだよね。断られると思ってたけど、絵里ちゃんは引き受けてくれて…」
「あの頃の絵里ちゃんは、絶対凛たちのことを嫌ってるって思ってたにゃ」
「凛、やめてよ…そんな事は無いから…」
「だって絵里はμ‘sを潰そうとしてたもんね」
「もう真姫まで…やめてってば…」は申し訳なさそうな口調で言った。
それはあながち間違いでは無いからである。
絵里が昔バレーをやっていて、ダンスがすごくうまいことを知った穂乃果は絵里に踊りを教えてほしいと請うたのである。
そうすればμ‘sのレベルがより高くなると思っての行動であり、そしてあわよくば穂乃果は絵里にμ‘sに加入してほしいと思っていたのだ。
確かに絵里は当時、少し怖いイメージが強かった。
だが穂乃果は、その美貌はもちろんのこと、生徒会長として音乃木坂を救いたいと思って活動していた絵里に感銘を受け、怖い先輩としてではなく、かっこいい1人の女性として憧れに近い感情を抱いていたのだ。
「本当に素直になれなかったんよねー。うちは絵里の気持ちに気づいていたから。いつもそばで見ていたうちも辛かった…だからあの日、うちは厳しい口調で言ったんだよ…」
希はいつも絵里のそばにいた。
それと同時にμ‘sのことを応援していた。
μ‘sを見て内心ではうらやましいと思っている絵里に気づいていた。
だからあの日、希は絵里に対して言ったのだ。
“絵里の本当にやりたいことって何?“と…
でもそれがあったから、絵里は自分の殻を破ることができたのである。
「あの頃はごめんね…だけどね、そんな私を救ってくれたのは穂乃果だった。私を受け入れてくれたμ‘sの皆だった…
あの日、穂乃果の手がなかったら、私はどうなってたんだろう…
考えるだけで怖いよ…だからみんなには心から感謝してる。本当にありがとう…」
絵里は皆に感謝を伝えた。
だがそれは絵里だけじゃなくて皆が皆お互いに言えることだろう。
9人がいたからこそ、お互いが支えあったからこそ今がある。
そしてμ‘sがあったのである。
静かな音乃木坂の校庭、芝生の上に座る9人の邂逅を巡らす話はまだまだ続いていく。
続く