音乃木坂図書室 司書
7月上旬 ラブライブ関東地区最終予選の翌週のこと。
梅雨も明けて、東京は夏の日差しが降り注いでいた。
御茶ノ水にある東京駿河台女子大学。
ここは絵里と希が通う大学であり、この日は学園祭である。
通称駿女祭と呼ばれるこの大学の学園祭は、毎年かなりの盛り上がりを見せている。
女子大の為、それこそ普段は女子学生しかいないが、学園祭に限っては一般開放されるため、多くの人が訪れるのである。
そして今年の賑わい様は過去に例を見ない位のものだった。
キャンパス内にある噴水前広場で今日行われるライブ。
そのライブに大人気プロアイドルのA– RISE、そしてあのμ‘sが出演するのだ。
盛り上がらないわけではない。
駿女の敷地は広く、噴水前広場に設けられた簡易ステージの客席には、袖に午前中の早い時間から人で溢れていた。
ちなみに午前中はバンドのライブで盛り上がりを見せている。
そんな駿女のキャンパスを歩く3人の女子がいた。
「今日のライブすごい楽しみ! μ‘sのライブ最高だよー!」と言ったのは亜里沙である。
Ray-OGの3人は京子の子ん所で行われるライブを見に来たのだ。
もともとμ‘sに入りたいと思っていた位μ‘sが大好きだった亜里沙は、今日この日のライブを心から楽しみにしていた。
それは雪穂トリオも同様にであろう。
「うん、そうだね。それに絵里さんはBiBiでも出るし」雪穂が言った。
その横ではリオがつぶやいている。
「μ‘sとA– RISEの共演…そしてBiBiまでbiBiまで…やばすぎる…奇跡だよ…」
ラブライブ関東地区予選を最終予選敗退で終えた彼女たち。
だが負けた悔しさを乗り越えて、元気な姿の3人であった。
新たに次の目標を定め、気持ちを切り替えた3人の姿は純粋にライブを楽しみにしている高校生だった。
「アイドルライブは13時スタートだから、それまでいろいろ見に行こう」雪穂がそういうと、仲良く3人はキャンパス内へと消えていった。
一方、同じ頃同大学内で最後の打ち合わせ通りリハを行うμ‘sの9人がいた。
期間は短かったが、平日も理事長の計らいによって音乃木坂で練習ができたため、今日のライブに向けてしっかりと準備を整えることができていた。
リハが一区切りしたところで、取り仕切っていた凛が全員に声をかける。
「オッケー、みんなバッチリだね。これならライブも問題ないにゃ!」
そこに海未がことりの肩をトントンと指先で叩いて言った。
何やら深刻そうな表情である。
「あの、ことり…今回の衣装、露出が多すぎませんか…?本当にこれを着るのですか…?」
「えへっ、かわいいでしょ。露出多いけど夏だからね。今日天気良くてよかった」
「そうですね。晴天です。でもこれは衣装と言うより…その…」
海未は以前に比べればマシになったものの、今でも露出の多い衣装には抵抗があるのだ。
最後の悪あがきをするように、もじもじしている海未の横で穂乃果が言った。
「水着みたいだよね。すごくいいかわいいし、この衣装のまま泳げそうだよねー!」
「そうだよ、穂乃果ちゃん大正解!ほとんど水着だからプールでも海でも問題なしだよー」
「えー、本当?じゃあことりちゃん、夏休みになったらみんなでこれ着て海かプール行こうよ!」
「うん、いいねぇ。行こっ行こっ」恥ずかしそうにしている海未の横で、楽しそうに盛り上がる穂乃果とことりであった。
そんな楽しげな空気をよそに、μ‘sのリハが終わると同時に絵里、にこ、真姫の3人はそのままBiBiのリハに励んでいた。
この3人は今日μ‘sに加えBiBiとしても出演するのである。
気合の入る3人のリハを見て穂乃果が言う。
「それにしても今日のBiBiの衣装はすごいよね。スケスケだもん」
「うん、しかもスイッチを押すと光るんだって。昼間でもちゃんとわかる位の明るさなんだって!」
μ‘sの衣装を担当していることりが興味津々に行った。
「柚梨愛先輩の衣装も素敵ですよね」海未も行った。
BiBiの意思を手がけているのは、音乃木坂でにこ達と同級生だった加藤柚梨愛である。
柚梨愛はBiBi発足時より衣装を担当しており、ときにはクールで、ときには可愛らしく、セクシーであり、そして今日は奇抜といってもいいほどの衣装だった。
今回のライブはトップバッターだから思いっきり目立ちたいと言うにこからのリクエストに応えてに応えて柚梨愛は光る衣装を用意したのだ。
しばらくして、そのBiBiの3人もリハを終え、μ‘sの他のメンバーの元へと戻ってきていた。
「3人ともお疲れさん。BiBiもバッチリそうやね」
3人に声をかけたのは希である。
「まぁね。でも希、私を誰だと思ってるのよ。宇宙ナンバーワンアイドルの矢沢にこよ。そんなの当然だしBiBiもμ‘sも完璧にこなして、今日もまた私のファンが増えること間違いなしよ」
「にこちゃん調子乗りすぎだし、張り切りすぎだし、小っさいし、バテてても知らないからね」
「なにいってんのよ真姫。リハの段階から本番を意識してやるのがプロってものでしょうが!そんな心意気じゃいつになっても私には追いつくことはできないわよ!」
「はいはい、そうですね。ていうかプロじゃないし、追いつくって私にこちゃんより大きいし」
「きぃぃぃー、触れないでいたけど小っさいて何よ!背の話じゃないわよ!あんたは今日も生意気ねー!」
いつも通り、にこと真姫の言い争いが始まろうと言うタイミングで絵里が割って入る。
「どうしてあなたたちはこんな日でもそうなのよ。まぁ夫婦仲良さそうでいいけどさ…さてと…ライブまであと2時間弱か。ねぇみんな、軽く食事でもしようか」
にこと真姫は夫婦と言う言葉に不満をあらわにするが、みんなスルーしている。
これもいつも通りである。時刻は11時過ぎ、時計に目をやって絵里は言った。
その言葉にうれしそうに反応する穂乃果と花陽。
2人は何といっても動いたらすぐにお腹が空いてしまうのだ。
絵里と希の案内で食堂へと移動する。
学園祭だが食堂は通常通りの営業で、多くの生徒一般客で混み合っている。駿女の食堂は安くておいしいと評判なのだ。突然食堂に現れたμ‘sの9人に周囲はざわついている。さすが有名人の9人である。
「穂乃果、花陽、軽くにしておきなさいね」と絵里は言った。
しかし…残念ながら2人にその声は届いていなかった。
食後にはいつもの光景が…
「ううっ…お腹いっぱい…苦しい…食べ過ぎた…」
穂乃果は中華丼をおかずにカツカレーを食べ、スープがわりにラーメンを平らげていた。
明らかに食べ過ぎである。
「絵里に軽くって言われたじゃないですか!」
海未が厳しい口調で言うが、後の祭りである。
全くいつもと変わらない穂乃果に呆れる海未であったが、そんなところによく見覚えのある女性がやってきた。
女性はμ‘sのメンバーのもとに来ると、大きな声で9人に声をかける。
「ヤッホー久しぶり、μ‘sのみんな元気かなぁ、今日もはっちゃけてるかーい?今日はねテレビも来てるからバッチリ最高のライブをよろしくね!」
彼女は通称はっちゃけお姉さんである。
一体何者なのかと言うと、フリーのアイドル大好きレポーターである。
μ‘sと彼女の出会いは、昨年のハロウィンイベントの際にインタビューされたことがきっかけであったが、以後何かにつけてμ‘sは絡まれていた。
独特な雰囲気、個性的なメガネや服装もあってアイドル業界では有名人物である。
特にまくし立てるかのような怒涛のおしゃべりとそのパワフルな元気さに巷でははっちゃけお姉さんで長通っていた。
μ‘sのメンバーもかつて本名聞いていたはずだが、はっちゃけお姉さんと言うインパクトが強すぎて、ももはや名前を覚えているものはいなかった。
続く