その後のラブライブ

ラブライブの続きを勝手に考えてみる~EP-010 君の名は...⑥ (69)


ラブライブの続きを勝手に考えてみる~EP-010 君の名は...⑥ (69)

音乃木坂図書室 司書

練習のため屋上へ向かう皆とは別の方向へ向かった穂乃果が来た場所は音楽室だった。

廊下から音楽室の中を覗くと、1人の生徒がピアノを弾いている。

とても美しいメロディーが音楽室の外まで流れ聞こえていた。

手を後ろに組みそのメロディーに身を委ねるように瞳を閉じる穂乃果。

聞いたことのない曲なのに自然と鼻歌が零れてしまうほど、心地の良い音色だった。

ピアノが鳴り止むと同時に、穂乃果は瞳を開き、音楽室の扉をノックすると、返事を待たずして音楽室の中へ入り、声をかける。

「すごい素敵な曲だね、三森さん」 穂乃果の声に驚いた顔をしながら返事をする少女。

「こ、こ、高坂先輩…どうしたんですか…?」 

彼女の名は三森愛乃(よしの)、スクールアイドル部の一年生である。

肩に届かない位の綺麗な黒髪の合間から見えるその表情は、突然現れた穂乃果に対し先輩と言うより、憧れに近いものに見て取れる。

身長はにこと同じか、それより少し低い位の小柄で華奢な体つきであるが、その指先が織り成す力強くて優雅なピアノのメロディーは、真姫に勝とも劣らないものであった。

穂乃果が気になっていた事と言うのは、彼女の存在だった。

彼女はスクールアイドル部に入部してきた新入生である。

にもかかわらず、彼女は新入生の中で唯一ユニットに属することなく、いわば1人取り残されてしまった形なのだ。

周囲とうまくいっていないわけでもない、むしろ1年生同士では仲間も良さそうに見えていた。

穂乃果はそんな彼女の存在に気づいていた。

そして、よく音楽室でピアノを弾いていることも。

「えっと…三森さんの下の名前って何だっけ…?」 

「愛乃です。三森愛乃っています」

「あっそうだ愛乃ちゃんだ。ごめんね、一年生全員の下の名前までは、まだ覚えられなくて」

「いえ、気にしないでください。それよりどうしたんですか先輩?」

 穂乃果は愛乃の問いに対し、ストレートな言葉を投げかける。

「私ね、愛乃ちゃんがこうしてよくピアノを弾いているのを知ってて、たまにこっそり聞いてたんだ。

すごい良い曲だなぁっていつも思ってたんだ。でも気になってたことがあるの。

愛乃ちゃんはどうして誰ともユニットを組まなかったの?こんなにピアノも上手なのにもったいないのになと思って」

穂乃果の言葉に思わず言い淀む愛乃。

やや間をおいて言葉を選ぶようにしてしゃべりだした。

「私、スクールアイドルが大好きです。小さい子供の頃からアイドルにすごい憧れていました。もちろん音楽も、ピアノ弾くのも大好きです。

できるなら…可能なら私もスクールアイドルとして活動したかったです…

でもそれは私には無理なんです…私は小さい頃から体が弱くて、小学生の頃は入院することも多くてあまり学校にも行けませんでした。

今はもう入院するような事はないし、普通に生活するには分には何の問題もありませんが、それでも激しく動いたりダンスをしたりっていうことができないんです。

でも私は、昨年μ'sの皆さんを見て衝撃を受けました。スクールアイドルとして活動できなくても、やっぱり私はアイドルが好きだったから…

だから私はμ'sのいる音乃木坂に入学したんです。スクールアイドルにはなれない。

でもスクールアイドル部に入って、μ'sの先輩たちの活躍する姿をそばで見ていたいと思って…それにこんな私でもスクールアイドル部の部員としてできる事はあると思ったんです」

愛乃の言葉を聞いた穂乃果、まさかそんな言葉が返ってくるなんて想像もしていなかった。

やりたいのにできない…それがどんなに辛いことか穂乃果は身をもって知っている。

昨年、自分のせいでμ'sは第一回ラブライブのエントリーを中止せざるを得なかった。

剰え、自分がμ'sを辞めると言って、μ's消滅の危機になった位だった。

苦い記憶が脳裏をすぎる穂乃果。それだけで充分辛かったのだ。

愛乃な気持ちを計り知ることなんて穂乃果にはできなかった。

それでも穂乃果は、あえて明るく話を続けた。

「そっか、愛乃ちゃんはスクールアイドルが大好きなんだね。μ'sのこと、応援してくれてたんだ」

「はい、大好きです、もうμ's大好きで、可愛くて素敵で楽しそうで、私の憧れでした。

だから今こうしてμ'sの先輩と、高坂先輩とお話ができて、大好きな先輩たちを間近で見れて幸せです。

スクールアイドルとして活動できないけど、ライブのチラシ配布とか準備とかはできるし、スクールアイドル部に入って本当によかったです」

「ありがと。でも愛乃ちゃん、見てるだけじゃ幸せじゃないよ。やりたいならやらないと」

一瞬困惑した顔をし愛乃が言う。

「でも私…体が弱くてできないってさっき…」

すると穂乃果は愛乃の言葉を遮るようにして言う。

穂乃果にとってもう一つ愛乃について気になることがあった。それは…

「うん、それはさっき教えてもらったから。ねぇ、愛乃ちゃん、さっき弾いてたピアノの曲ってオリジナル…!?だよね。て事は愛乃ちゃん、作曲はできるの?」

「あ、はい…できますけど…」愛乃には穂乃果の言わんとしたことがわかっていなかった。

不思議そうな顔して穂乃果の言葉の続きを待っている。

「実はね愛乃ちゃんにお願いがあって今日はきたんだ。愛乃ちゃん、私たちのために作曲をしてくれないかな?愛乃ちゃんの事情についてはわかったよ。だから愛乃ちゃんに作曲してもらって家に行ったり参加してほしい。もちろんライブにも、曲によっては一緒にステージの上でピアノ奏者として出てもらいたい。歌いながら踊るわけじゃない。本来のスクールアイドルとは違う。だけどそれもスクールアイドルとして活動するってことになると思うんだ」

愛乃は穂乃果の言っている意味が解せないといった表情を浮かべる。

「でも、先輩たちには真姫先輩がいるじゃないですか…」

「うん、もちろん真姫ちゃんにはμ'sの時からもそうだし、その後の6人でのユニット、名前はμ'sicforeverって言うんだけどね。当然真姫ちゃんに作曲してもらうよ。愛乃ちゃんはBiBiって知ってる?真姫ちゃんが学校外で絵里ちゃんとにこちゃんとで始めたユニットなんだけど、この前BiBiのライブ見て思ったの。私ももっと歌いたいって。μ'sもμ'sicforeverももちろん大切だけど、もっともっと活動したいと思ったんだ」

「BiBiの出演したA- RISEのライブ、私も行きました。本当にすごかったです…」

「そうなの!?愛乃ちゃんも行ったんだね。ね、すごかったよ。だから私もBiBiみたいにもっとたくさん歌いたい。愛乃ちゃん、だから私と一緒に新しいユニットで作曲してもらえないかなぁ…?」 

それは愛乃にとって予想もしていない言葉だった。少し考えるような仕草を見せて愛乃は言う。「私なんかで…いいんですか…?」

「そんな言い方しないで。私は愛乃ちゃんに一緒にやって欲しいな。一緒にやって笑顔になってほしい。まだ見たことのない景色を見せてあげるから。ね、きっと楽しいから」

スクールアイドル…かわいい衣装を着て、歌って踊る。

それが楽しいのはもちろん言うまでもない。

でも1番は、自分たちを見て、周りが笑顔になってくれること。

みんなが楽しい気持ちになってくれることが最大の喜びなのだ。

それは穂乃果自身が先輩の矢沢にこから伝えられたことであり、にこの言う通りμ'sを通して実感してきたことである。

今度は自分がそれを後輩の愛乃に伝えたい。

スクールアイドルとして感じて欲しいと思ったのだ。

穂乃果は優しく愛乃に手を差し伸べた。その光景はまるでμ'sに絵里を迎え入れた時のように…

「穂乃果さん、ありがとう…」愛乃は穂乃果の手を取りつぶやいた。

その目元には涙が浮かんでいる。そしてこの日初めて見せた笑顔。

三森愛乃…誰にも負けない位の美少女だった。

穂乃果の存在感…それは新しく入ってきた1年生には特別に大きなものであった。

μ'sの皆が言うように、穂乃果の言葉は人の心を動かすのである。

音乃木坂の最上級生となった穂乃果は自然と昨年の絵里や希と同じような行動をしていたのだ。

μ'sに加わっていたけど、1人だけ少し距離をとっていた真姫に対して先輩がとった行動のように…

今年は穂乃果がその役割をこなしていたのである。

これが穂乃果と愛乃の出会いであった。

続く

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