音乃木坂図書室 司書
皆にいじられた(とゆうか、ほぼ真姫に)穂乃果と絵里だったが、これはいつものことである。
希のナイスフォローによって、最終的に2人はある意味でセンスが高いと言うことで落ち着いたのであった。
そんな中、河原には良い匂いが漂っていた。
そして満面の笑みを浮かべて花陽が皆に言う。
「みんなー、ご飯炊けたよー!」 それに続けてことりも言う。
「カレーももうすぐ出来上がるよ!」
さらには戦場帰りの戦士かのようにたくましく見える海未が川から戻ってくる。
「4匹釣ってきました。この模様はヤマメですね」
そんな海未の言葉に全員が歓声をあげる。
「すごい海未ちゃん!やったね!よし、始めようみんな!」
気づけばすっかり元気な姿の穂乃果である。
こうして楽しいバーベキューはワイワイと大盛り上がりで進んでいった。
そして1時後、そこにはいつもと変わらない2人の姿があった。
「うう…苦しい…お腹がはちきれそう…」
「白米が…お肉が…カレーが…幸せです…ゲップ…」
もちろん穂乃果と花陽である。
開放的な自然の中でいつも以上に食欲が暴走した2人は、河原の地面に敷いたレジャーシートの上で転がるようにして唸っていた。
「2人は食べ過ぎですよ!なんでいつも苦しくなるまで食べるんですか!それにそんなところで転がらないでください!」
「だって残したらもったいないじゃん…」
「それはそこに白米があるからです…ゲップ…」
海未の叱責に穂乃果と花陽は全く反省する様子もなく、さもありなんといった口調で言った。
「山があるからみたいに言わないでくださいよ、花陽… 2人は戻ったらまたダイエットです!」
「うぅっ…海未ちゃんの鬼...」
「μ‘sのファイナルライブが近いのですよ。太って衣装着れなくなったらどうするんですか」海
未の心配ももっともだろう。
もうすぐμ‘sのファイナルライブなのだから。
海未の説教が続く中、その3人をよそに、にこは何かを作っていた。
そしてみんなに声をかける。
「おーいみんなー、穂乃果と絵里のおバカツートップが持ってきた食パンとチョコを使ってデザートを作ったよ。
なぜか都合よく生クリームとかもあったから、パンにチョコとバターを挟んで焼いて生クリームとチョコソースでアレンジした、その名もにこにラブスイーツの完成よ。
あと焼き芋もできたよー!」
使い道のなかった食材が、にこのアレンジによって見事なスイーツと化していた。
馬鹿とまた言われた絵里であったが、そのスイーツを前に感動していた。
「チョコがこんなスイーツに…にこ、ハラショーだわ…」
そして少し離れた場所から穂乃果が言う。
「待ってニコちゃん!もう少ししたら食べるから、私の分も残しておいて!」
「まだ食べる気ですか穂乃果…」
あきれた口調で言う海未だった。
仲の良いメンバーでやるバーベキューと言うのは、年齢に関係なく楽しいものである。
日常から少し離れた自然の中で、馬鹿を言ったり体のない会話をしたり、ただそれだけであるが、その時間は9人にとっては特別で最高のものだった。
こうして楽しいバーベキューは終了した。
その後は川で遊んだり、スイカ割りをしたりと笑顔と笑い声が耐えなかった。
心から楽しい時間を過ごす9人。
彼女たちはスクールアイドルのμ‘sとして、今ではすごい有名になっていたが、まだ10代の少女たちである。
楽しいこと、夢中になれること、そして共に過ごせる仲間たちの存在…
それが何よりも彼女たちには大切で、今のこの時間が本当に嬉しかったのである。
そして夕方になると、近くにある温泉へ行く9人。
みんなで入浴すると必ずと言っていいほど、希によるワシワシが待っている。
絵里とことりと花陽以外は希によって絶対ワシワシされるのであった。
「うん、凛ちゃんは前より大きくなったやん。にこっちは…残念やけどしょうがないね」
「うるさいわね、ほっときなさいよ!てゆうか、いつも皆でお風呂入るたびにワシワシするのやめてくれる!?」
そんなにこの言葉に耳を傾けることなく、希は他のメンバーを餌食にしていた。
温泉に響くメンバーの叫び声…
しかしこれもいつものことである。
このいつもと変わらないと言うのは心地が良く、安心できるものなのだ。
にこは口ではそう言ってはいるが、別にそこまで本気で嫌いと言うわけではないのである。(とは言え、普段の生活での突然のワシワシは嫌いだが、、、)
言い方を変えれば戯れているようなものなのである。
何しろにこも反撃している位だから。
でもμ‘sの時は当たり前だったことも、上級生の3人が音乃木坂を卒業してしまってからは、そうでなくなってしまった。
9人が一緒に揃うことが難しい時もある。
だからこそ…こうして昔のようにみんなで一緒にいられること、いつもと変わらないと言うことが、他の何よりもうれしく特別な時間なのである。
温泉でリラックスした9人は、夕飯の買い出しをして別荘へと戻っていた。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎていく。
日も暮れて、にこを中心に夕飯の準備を進めていく。
料理の得意なにこが、おいしそうな料理を作り、楽しい夕飯の時間を過ごす。
昼間と同じように穂乃果と花陽は食べ過ぎて苦しんでいる。
全てが昔のままで、μ‘sの時のまま、何も変わらない9人。
そして今日も1日が終わろうとしていた。リビングで布団を敷き、9人全員で寝る。
何もかもμ‘sの時と変わらない。布団にゴロゴロと転がる穂乃果。
その横には真姫がおり、穂乃果が言った。
「あぁ、今日は楽しかった。まきちゃんありがとね」
「別にいいわよお礼なんて。私も楽しかったもん」
「うん。でもね、まきちゃんにはいつもすごい感謝しているんだ。合宿のたびに別荘貸してもらってるし、この前はライブの後に打ち上げもしてくれて」
出し抜けに感謝の言葉を口にした穂乃果に、真姫はやや困惑気味に返事をする。
「それは別にママがいいって言ってくれるから…私が何かしてるわけじゃないから気にしないでよ」
「うん、でもね…本当に真姫ちゃんがいてくれてよかったって思ってるよ。だってμ‘sもμ‘sicforeverも、全てまきちゃんが曲を作ってくれてるんだもん。
まきちゃんがいなかったら、きっとμ‘sと言う存在はなかったから…だからありがとね」
μ‘sにとって、穂乃果にとってそれだけ真姫の存在は大きいものだった。
あの日、あの時、真姫が曲を作ってくれて、そしてμ‘sに加わってくれたらから今がある。
μ‘sを3人で始めた時に一番最初に頼ったのは真姫だったのだから。
その思いは穂乃果の中で、人一倍強いものだった。
穂乃果の言葉に頬を赤らめ、照れたように真姫が言う。
「そんなこと今更いいって…私こそ…ありがとう…」と言う真姫だったが、最後はぼそぼそと言ったため穂乃果は聞き取れなかった。
「えっ、真姫ちゃん、なんて言ったの?」
「何でもないわよ…それよりμ‘sのファイナルライブ、みんなで楽しもうね!」
「うん、そうだね!」
この9人はスクールアイドル部と言う同じ部活のメンバーであるが、それぞれがお互いを必要とし、友達、仲間と言う以上に、家族にも近いような感じなのかもしれない。
9人の姉妹と言う表現をしても十分にうなずける。
10代の時間というのはあっという間に過ぎていく。
その限られた時間、今と言う時間を大切にし、今の中でできることを全力でやろう、それがμ‘s 9人の想いである。
この日また1つ、大切な思い出を作った9人。
μ‘sとしての活動はあとわずか…
でも、9人の友情は変わらないし、終わらない。
ずっと続いていく。
僕らは今の中で…全力で駆け抜けていくのだ。
続く