音乃木坂図書室 司書
今日も音乃木坂へとやってきたにこは、腕組みをしながら後輩の2人へと話し続ける。
「それよりあんたたちはどれだけ私を待たせるのよ。
もう13時30分じゃないの!もう少しで歌っちゃうところだったじゃないのよ。
私待ーつーわ、いつまでも待ーつーわって... あれっ、これ誰の歌だっけ...って、昭和かいっ!」
にこのとりとめのない怒涛の物言いに後込みする二人。
「にこちゃん今日は14時からだよ。それよりそのひとりノリツッコミ何...」
「凛にはにこちゃんが何言ってるのかわからないにゃ」
「あんた達ね、スクールアイドル部ならもっと日本の歌謡曲ぐらい研究しなさいよ。
それに近年のアイドルはノリツッコミぐらいできて当然でしょうが。もっと研鑽なさい!」
にこはアイドルに対しての姿勢を後輩に説こうとするが、すぐさま凜は絡むように言う。
「それよりにこちゃんは今日も暇なのかにゃ?」
先輩に対する物言いとはまるで思えない態度の凜。
「そうそう、今日も暇で...ってコラッ!違うわよ、暇とは失礼ね。私はあんたたちのことを心配して忙しい時間を割いて、こうして来てあげてるんじゃないの。
優しい先輩に少しは感謝しなさいよ!」
「うん、にこちゃんありがとう」
「嘘ばっかりにゃー、本当は寂しいから毎日来ているくせにー」
素直に感謝する花陽に対し、さらにつっかかる凜。
しかし半分以上、いや大部分が凜の言うとおりであった。
にこは音乃木坂を卒業して寂しかったのだ。
μ'sもなくなり当たり前のように9人で過ごしていた日々が終わり、誰よりも寂しさを感じていた。
それに3年間過ごしたこの場所、この部屋が大好きで、そしてμ'sの後輩たちが大好きだったのだ。
だが、にこの性格上、そんなことは口が裂けても言えない。
だから後輩の面倒を見に来ていると理由をつけ、毎日来ていたのである。
本当の気持ちを凜も花陽もみんな理解していた。
だけどそれを否定するにこに絡むのが楽しくて、凜はいつもにこに対して突っかかっていくのであった。
「凜ってば、あんたはいつも生意気ね。もう少し先輩を敬いなさいよ。花陽、あんたも何か言いなさいよ。部長でしょうが!」
「うっ...ダレカタスケテー」 凜に本当のことを見透かされているようで、誤魔化すように振るも困った表情を浮かべる花陽であった。
「まあもういいわ。いずれにしてもよ。あんたたちも1時間前には来るようにしないと。宇宙№1アイドルを私から継ぐことはできないわよ。」
「大丈夫にゃー、宇宙ナンバーワンはにこちゃんだけで十分にゃ。それより本当は時間を間違えただけにゃー、にこちゃん」
この3人も本当に仲が良かった。
争っているのかじゃれ合っているのか、端から見たらよくわからないんだろう。
ここにも以前と変わらぬ光景があった。
そんな中、にこは、真姫がいないことに気づく。
3年生の3人は入学式があったから別として、真姫がいないことに今更気付いたのだ。
「ねえ、真姫はどうしたの?」
にこの問いに凜はいたずらっ子の笑みを浮かべて答える。
「にこちゃんの彼女の真姫ちゃんは今日はいないにゃ。
残念だったね。にこちゃんの大好きな真姫ちゃんがいなくて」
「ちょっ...凜、あんたね!誰が彼女よ!」
「だって二人は付き合ってるんでしょ? いつもふたりでイチャイチャしてるし。でも安心して二人の中はスクールアイドル部公認にゃ!」
「付き合ってないっつーの!イミワカンナイ....なんでそうなるわけ?」
「だってこの前も手つないで歩いてたにゃ」
「そっそんな訳ないでしょ...バカ言わないでくれる!?」
普通に思い当たる節があるにこであったが全力で否定する。
にこと真姫、割りと無意識に手を繋いでいることが多いのだ。
喧嘩するほど仲がよいという良い例である。
否定するにこの横で大笑いしている凛。
その隣で花陽もくすくすと笑っている。
最近ではこのネタについてはもう何を言っても無駄な気がして、諦め気味のにこであった。
「もう凜ちゃん意地悪しすぎ。ごめんね、にこちゃん。
真姫ちゃんは午前中は入学式のお手伝いで学校来てたけど、午後はママとお出かけするんだって。だから今日はお休みだよ。」
「あらそう...それは仕方ないわね。」
花陽が真姫不在を伝えるとにこはあからさまに残念そうな表情をしていた。
本人はずっと否定しているが、にこが真姫のことを大好きなのは周知の事実である。
いつもふたりで言い争って張り合っているかと思えば、仲良く楽しそうにしていたり...きっとこの二人は馬が合うのだろう。
ライブでもこの二人の息はぴったりと合っているにこにとってはきっと特別な存在なのだろう。
「にこちゃん元気出すにゃー。今日真姫ちゃんはいないけど、凛と花陽ちんが入るにゃ。だからそんな顔しないの」
「そんな顔って何よ。私は元気よ」
「だって真姫ちゃんがいなくて寂しいって顔に書いてあるにゃ」
「うるさいわよ凛。そんなわけないでしょ!ところで花陽、あんたは部長としてこれからどうするか決めたの?」
無理やり違う話題を振るにこ。
さすがの凛も少しいじりすぎたと思ったのだろう、それ以上突っ込むのは自粛していた。
「うん大体はね...みんなが揃ったら話すね」
今日はスクールアイドル部の今後の活動方針について決める日であった。
新入部員も多数入るであろう。
スクールアイドル部の今後の活動であったり、それぞれの役割分担であったり、その中でも一番重要なのがμ'sなき今、残された6人はこれからどのように活動していくのかを決める日なのである。
だがそんな日に限って真姫は不在であるが、それを言い出したらきりがないし、いつになっても決められない。
新学期は目前に迫っているのだ。
真姫も事前に皆の意見に賛成すると言っていた。
スクールアイドル部部長となった花陽にとっては、今日が初めて部長としての仕事をする日なのだ。だが花陽はあの性格である。
多少の不安は拭えないであろう。
そうこうしている間に廊下からは、よく知る声が聞こえてきていた。声の主は穂乃果であった。
続く