民族虐殺の背後にある者は

虐殺器官 伊藤計劃


虐殺器官

伊藤計劃 著

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伊藤計劃著

後進国で頻発する民族虐殺の背後には。

スタートから激しい死の模写にて、物語は始まる。

先進国の多くでは、テロ対策のため、徹底した管理社会になっていた。

どこへ行くにも何をするにも、ピザ一つ買うのでさえ、生体認証が必要な世の中であった。

アメリカ軍特殊検索群i分遺隊。

ここは主に暗殺を請け負う部隊であり、大尉のクラヴィス・シェパードの元へジョン・ポールという謎の男の暗殺指令が下される。

激しい管理体制の先進国とは、裏腹に後進国では、戦争や内戦、大量虐殺が増加しており、その裏に存在がささやかれるジョン・ポール。

彼を追ってチェコへと向かうシェパードであったが、ジョン・ポールの姿は無く、ルツィアという女性と出会うのであった。

シェパードはルツィアのことを全て知っていた。ジョン・ポールと 恋人関係であったことも、何もかもだ。

そんな彼女のもとに、偽名を使って近づいたシェパードであったが、ルティアとの出会いがシェパードの考えを大きく変えていくのであった。

任務とはいえ、自分が殺してきた人への罪悪感。母を殺すことになった自分の判断への罪の意識。

シェパードは罰と赦しを求めるようになっていた。

管理社会で手に入れた安全の裏で行われていたこと、それに大きな関わりを持つジョンポール。

全てを知ったシェパード。そして虐殺の真相は明かされていく。

この作品には、今現実にある恐ろしい問題が如実に描かれているように思う。

テロに始まり環境破壊、貧困問題、内戦に民間の戦争請負会社など、痛々しくそして生々しく模写されている。

読み終えた後には、重たい読後感が残るかもしれない。

だがそれだけではない。衝撃がある物語である。

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