音乃木坂図書室 司書
~のその後EP-005-煩いモーメント②(30) そんな元μ'sの6人のやりとりを目の当たりにして、1年生たちは皆偉いそうな表情をいつも浮かべるが、それもそうであろう。
μ'sとしての6人の姿しか知らなかったのだ。
憧れていた存在の6人が普段はこんな感じだとは予想もしていたいなかったであろう。
例えば、ぐうたらする穂乃果とそれを叱る海未の姿であったり、アイドルと白米のことになると別人だが、いつもはおとなしい花陽、先輩であろうと容赦のない真姫等々… そんな姿を知っていたのはことり、雪穂だけであり、他の1年生は知らないことだった。
かと思えば6人全員仲が良くて、練習に取り組む姿勢は6人の結束力の高さも見ており、お互いが飾ることなく正面から向き合っている6人を見て、これがμ'sの凄さなんだなと皆が実感していた。
1人を除いて…その1人とは雪穂。
もちろんμ'sがすごいのは近くで見てたから知っているが、それ以上に自分の姉のだらしない姿等等を同級生に見られていると思うと、恥ずかしくてしょうがないのであった。
近頃はそれが理由で兄弟喧嘩も増えたような気がすると思う雪歩だった。
「コホン!」 雪歩の思いを振り払うかのように花陽は咳払いをし、注目と言わんばかりに立ち上がる。
花陽の定位置はPCのある机であり、にこなき今、そのポジションを誰かに譲る気は毛頭なかった。
「無駄話は終わりにして、そろそろみんないいかな!」
少し強い口調で全員に語りかける花陽。
どうやら先ほど大変だと騒いでいたことを部長として発表するつもりらしい。
この時を待ちわびたと言わんばかりに腕組みをして仁王立ちする。
ちょっと花陽ちゃん無駄話じゃないよ、打ち合わせするには狭いからどうしようか考えてたんだよ」
しつこく狭いと連呼する穂乃果である。
だが花陽は厳しい口調で言い返す。
「やいのやいの言わないでください。下手の考え休むに似たりですよ。これは部長命令です。静かにしてください!」
「ハナヨちゃん、コワッ…」
思わずつぶやく穂乃果。
完全にアイドルモードになった花陽の一括により、さすがの穂乃果もおとなしく口を閉ざすしかなかった。
ちなみに余談であるが端様には3つのモードがある。
1つはいつものおとなしい通常モード、もう一つは白米に対して異常なまでの執着心を見せる白米モード、そして今現在のアイドルのことになると別人のような姿になるアイドルモードだ。
花陽のこの3形態は頃が良いからと言う理由で、にこにより、花陽アラモードと名付けられていた。
そして実はまだ誰も知らない(凛だけは知っている)裏モードも存在しているらしい。
だがその真相は定かでは無い。
「さてと、少々うるさい邪魔が入りましたが、本題に入ります。今日は重大な発表があるのです!」
先輩を軽く邪魔者扱いする花陽。
アイドルモードの本領発揮である。
全員が花陽に注目する。
「ドゥ…」 言いかけて花陽は言葉を止める。
「ドゥ…?」 穂乃果がやまびこのごとく反復する。
「ドゥ…ドゥ…」 さらに花陽が口先をとがらせる。
「ドゥド?」 ことりが可愛い口調で返す。
「ドゥユーノードゥ…?」 花陽が暴走を始める。
「イエス!ドゥドゥ!」 英語が苦手な人もノリで答える。
「早く言いなさいよ…」 じれた真姫が髪を指先でくるくるしながら言った。
「ドゥームです、ドゥームですよ!ついに決まりました!ドゥドゥドゥームなのです!」
全身を使って喜びを表現する花陽。
その声の大きさのあまり皆が耳を塞いでいた。
「ねぇちゃんと聞いて!ついに決定ですよ!第3回ラブライブ決勝大会…アキバドームでの会祭が決まったのです。思い返せばそれは…」
とてもうれしそうに発表する花陽である。
部員一同からも声が上がるが熱を帯びた花陽はラブライブのドーム開催に至るまでのうんちくを傾け出したのである。
それは20分にもわたる長い演説であった。
「と言う訳なのです、はー…はー…わかったみんな!?はあ、はあ…」
力説のあまり息が切れかかっている花陽。
一年生は皆、真面目に耳を傾けていたが、2・3年生はと言うと…凛はあくびをしながら漫画を読み、真姫はスマホいじり、海未は小説を読み、ことりはお菓子を食べながら雑誌を読み、穂乃果に至っては寝ていた…
「て、全然聞いてないじゃん2・3年生!」 花陽の大声に穂乃果は目を覚まし、大あくびをする。
「あ、終わった?フアー…」
「話長いわよ」 スマホを見つめたままの真姫。
「花陽ちん、それ全部知ってるにゃ」 珍しく凛も突っ込む。
「今日は練習できるのでしょうか…」本を閉じる海未。
「このお菓子おいしい」もはや無関心のことり。
一年生にとってはドーム開催に至るまでと言うことで、μ'sの今までの活動(ラブliveラブlive言う所までとその後の活動)いや、A-RISEとの関係と、知らない裏話も多々あり新鮮であったが、当事者の他の子にはもちろん全て知っていて、また似たような話を花陽は何度もしていたので、2・3年生はだいぶ冷ややかな反応だった。
「もう2・3年生はいいです…続いて、今大会の説明をします…」
テンションが一気に下がる花陽。
「今大会はですね…今までの…の…で…ぼそぼそ…」
明らかに23年生に対して不満を表し、声が小さくなり、しまいにはぼそぼそとつぶやくだけで何を言っているのかわからない始末である。
「あーもう、悪かったよ花陽!話聞いてなくてごめんね。ほら穂乃果たちも謝りなさいよ」
真姫に促され、3年生も花陽に謝る。
ことりは花陽にお菓子を与えた。
少し機嫌を戻す花陽。
穂乃果は定食屋のご飯大盛りサービス券を与えた。
満面の笑みの花陽。
海未と真姫はその様子を眺めて苦笑していた。
「さぁほらみんな!続きを始めるよ!」
単純である。
だがそれも花陽の魅力の1つであろう。
すっかり、お菓子とサービス券で元気とやる気を取り戻した花陽であった。
続く