音乃木坂図書室 司書
「ねぇにこちゃん、何やってるのよ…」
その声にどきっとしてフリーズするにこ。
すぐに声で誰だかわかったにこに対して、更に言葉を続ける少女。
「店員さん困ってるじゃないのよ。まったく…高校卒業しても何も変わってないわね。少しは大人になりなさいよ」
にこはくるりと回り、正面を向いて言い返す。
「うるさいわね! 当然じゃない。私はアイドルなのよ、可愛く写ってない写真なんて置かれている身になりなさいよ!」
やれやれと言う表情を見せるのは西木野真姫であった。
前日は音乃木坂で入れ違いとなり、会っていなかったが、それまでは連日のように顔を合わせていた2人。
特に新鮮さも懐かしさも皆無である。
会うなり早々に言い争いを始める2人である。
本当に仲の良い2人である。
「しょうがないじゃない。にこちゃんは子供っぽいんだから」
「ちょっと誰が子供よ! 真姫、あんたは私の2つ年下のくせにいつも本当に生意気ね!」
「ほら、そういうところが子供っぽいんだよにこちゃんは。私の2つ歳上なら、もう高校生じゃないんだから大人になりなさいよ」
「うるさいわよ、どうでもいいでしょ。ほっといてくれる?」
「まぁいいわ。ところでさぁ、なんでμ'sのコーナーのグッズが全部にこちゃんになってるのよ。これじゃにこちゃんコーナーじゃないのよ」
「あら、本当ね。これはきっと私のファンのいたずらね。たまにこういうことあるのよね、もう、しょうがないわね」
「何言ってんのよ。さっきにこちゃんが忙しく入れ替えてたじゃないの。全部観てたわよ」
「…まぁ、まぁほら、えーっと…気分転換というかなんというか…」
「まぁ別にいいけど…」
「そ、そんなことより真姫が1人でアイドルショップにこるなんて珍しいんじゃないの。ははーん、わかったわ。さてはあんた隠れてこそこそとアイドルショップに通っていたのね?」
「違うわよ、たまたまにこちゃんの姿見かけたから、つけてきたのよ」
「…どこからよ…?」
「にこちゃんが駅の改札出てきたところから」
「全部じゃあないのよ」
「にこちゃん完全に怪しい人だったわね」
「うるさいわよ、だったらもっと早く声かけなさいよ!」
人に見られると恥ずかしくなるような行動を見られていたと思うと、顔から火が出そうになるほど恥ずかしいにこであった。
それもそうであろう。
変装しており、にこは完全に油断していたのである。
すぐ近くで真姫が見ているとは知らずに、レディオ会館でハイテンションではしゃぐ姿や、ガチャガチャで欲しいものが出なくて、文句を言いながら回し続け、イライラして本体を叩いたりした姿、アイドルショップでの行動、ETC… アキバに戻ってからの全てを見られていたのである。
しかもその相手は真姫である。
また1つ真姫に自分の弱みを握られてしまったにこであった。
「色々なにこちゃんの姿が見れて楽しかったわ」
「やめてよ! それ、ストーカーじゃないのよ!」
「だったらあんな行動しなければいいじゃないのよ」
「うっ…それは…その…」
「早く大人になりなさい、にこちゃん」
2歳年下の真姫に、手も足も出ないにこであった。
そうこう言い合いながらアイドルショップを出る2人。
にこは私服で変装しているが、真姫は制服で目立ってしまう。
真姫自身は特に気にしていないのだが、にこが必要以上に意識している。
かと思えばバレたらバレたでうれしいにこである。
いや、むしろ、にこは変装をした上でばれるのを望んでいるぐらいであった。
と言うわけで自分の予備のサングラスを真姫に貸し、制服姿にサングラスを渋る真姫を連れて、人通りの少ないUTX高校2階のオープンテラスへと移動する。
UTX高はかなり大きいビルで、1階は一般用としてカフェや飲食店、スーパーが入っており、地下鉄直結の入り口もあり地下駐車場も完備されている。
2階も駅から続く遊歩道とつながっていて、何かしらの催しの際にはUTX高2階のイベントスペースが一般開放されたりもする。
そして2階のビル周りも開放されており、その裏手側は、アキバ駅を一希できる場所があり、あまり知られていないので人も少ないのであった。
ベンチに2人並んで腰を下ろすにこと真姫。
「そういえばにこちゃん、今日は音乃木坂こなかったわね」
「今日は短大の入学式だったのよ?」
「えっ、にこちゃんて音乃木坂に留年したんじゃなかったの?」
「してないわよ! ちゃんと卒業したでしょうが!」
「冗談よ、そんなに騒がないでよ。入学式おめでと」
「あ、ありがとう…真姫こそ、今日の部活はどうだったどうしたの?」
「日曜は休みよ。ただ、色々とやらなきゃいけないことがあったから、今日集まったのよ。もう新入生が入ってくるからね。それが終わって、私はこの後お茶ノ水の楽器屋さんに行くから先に帰ってきたんだけど、そしたら怪しいにこちゃんを発見したってわけ。そうだ、にこちゃんも暇なら一緒にお茶ノ水行く?」
「そっか。てゆうか暇とは失礼ね。私も用事があって忙しいのよ!?」
「あっそ。ならいいよ、1人で行くから」
「ちょいちょい、待ちなさいって! しょうがないわね。私も忙しいけど、あんたのために一緒に行ってあげるわ」
本当は真姫に誘われてうれしいに子である。
真姫もそれはよくわかっていた。
素直じゃないなぁと思う真姫、だがそれはいつものことである。
「そう、だったら行きましょ」 と言って真姫は立ち上がり歩き出すが、にこはそれを静止するように声をかける。
「真姫、ちょっと待って。もう少しゆっくり歩いてくれない? 今日ヒールだから歩きにくくて…」
「もうしょうがないわね…」
真姫はにこの手を取る。
にこは真姫に連れられる妹のように手をつないで歩いている。
μ'sのメンバーの中でこの2人が付き合っていると言われるのもわかるぐらい仲の良い2人であった。
お茶ノ水は隣町で、歩いて、分ほどで行ける場所だ。
真姫の家もお茶ノ水寄りで父の経営する西木野総合病院もお茶ノ水にあり周辺地理に詳しい真姫である。
真姫の手を握り、線路沿いを歩くにこの姿は、なぜだかとてもうれしそうであった。
続く