小野 不由美(著)
虚海を挟んだ北東に位置する戴国。
ここはどこよりも厳しい冬が訪れる場所である。前王が斃れて、登極した泰王の驍宗は国の反乱を鎮めるため赴いたものの、一向として戻って来なかった。
そんな中、泰麒の元には泰王が弑逆されたとの知らせが届き、姿を消してしまう。
気付けば、泰麒は虚海を越えてしまっていた。
王と麒麟が不在となった戴国は荒れに荒れた。しかもそれは王のかつての信頼のおける仲間による謀反によるものだった。
極寒の土地、災厄と妖魔が国を覆い、もはや国民に残された道は少ない。
かつての将軍であった李斎は命からがら慶国・景王の元へと辿りつく。
泰麒は景王・陽子と同じ出自であり、陽子であればきっと助けてくれるだろうという一縷の望みを胸に...
そんな李斎の想いは慶国のみならず、雁国をはじめとする諸国へと伝わる。
各国の王、麒麟が戴国のために、泰王と麒麟救出のために立ち上がる。
戴国の運命はいかに...
今作は基本的に戴国の話であるが、慶国をはじめ、多くの国がかかわってくるので、これまでの作品とは少し違った印象である。
景王に登極してまだ3年足らずの陽子。
自国民もまだまだ貧しいという状況で、他国の民に救いの手を差し出すというのは、十二国の世界においては異例であろう。
しかし、陽子は胎果であり、蓬莱で育ったのだ。
こっちの人間とは異なる考えを持ち、その行動は少しでも国を、この世界を良くしたいと思ってのものなのである。
しかしそんな陽子を快く思わない輩が多いのも事実で、実際に命を狙われたりもする。
だが、そんな陽子に賛同するものも多く、陽子の行動が少しずつ周囲を変えていくのだ。
肝心の戴国がその後どうなったかは描かれていないが、再び歩み始める麒麟と李斎の姿に胸打つものがあるだろう。