パオロ・バチガルピ著 田中一江・金子浩共訳
ヒューゴー賞とネビュラ賞、さらにローカス賞を受賞したトリプルクラウンのSF小説。
2011年翻訳小説最大の話題作と言われる。
近未来のタイ、バンコクが物語の舞台。自然環境破壊による影響で、地球の環境は大きく変わっていた。
海面が上昇し、世界の都市は至る所で水没し、疫病や伝染病が蔓延していた。
化石燃料も枯渇し、世界は縮小時代を迎えていた。そんな中で、遺伝子操作をして作られた生物。
そして人間も新人類と呼ばれる”ねじまき” ( Android )が作られていた。
物語はファラン(西洋人) のアンドアースン。 中国系マレー人でイエローカードと呼ばれる老人、ホク・セン。
検疫取締部隊( 通称: 白シャツ隊) の隊長ジェイディー。 その部下のカニヤ。 そしてねじまき少女エミコ。 この5人の視点により進んで行く。
ある日、市場で「 ガウ」 と言う 謎の果実を手に入れたアンダースンは、その果実を調査していく中で、とあるクラブにて、ねじまき少女のエミコと出会う。
主人に捨てられてしまったエミコは、娼館でまるで奴隷かのごとく働き暮らしていたが、アンダースンとの出会いで運命が大きく変わっていく。
ねじまきが暮らす場所へ行くことを夢見るエミコであったが、現実はそう簡単なことではなかった。
とあることをきっかけに、覚醒してからのエミコ。そして後半で鍵を握る人物のカニヤ。
それぞれの視点から一つの結末へ向かっていくのだった。
この物語は多くの造語が用いられており、一読しただけでは、話が頭の中に入っていきづらいかもしれない。
しかし読み深めるに連れて地球温暖化や、ウイルスの恐怖。環境破壊による問題。
人権問題等々、今現在の世界が抱えている多くの問題を訴えかけているのではないだろうかと感じる。
重々しくて歪んでいる世界で、必死に生きようと戦っている登場人物の姿は、まるで今のこの世の中を映しているかのようである。
これは Android ねじまき少女エミコの冒険の物語というだけではない、奥深さをもった作品だろう。
多くの賞を受賞したのもうなずける作品である。