ボーダーを超えた麻薬との闘い

ザ・ボーダー


ザ・ボーダー 上・下巻

ドン ウィンズロウ 著 田口 俊樹 訳

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ドン ウィンズロウ 著

田口 俊樹 訳

麻薬取締局の捜査官として若い頃からケラーは麻薬組織壊滅のために力を注いでいた。

そこでアラン・バレーラと言う男と運命的な出会いを果たす。

彼の人生は常にベレーザを追い続けるものだった。

麻薬王バレーラをケラーはとらえるが、バレーラは刑務所を脱獄し、メキシコのシナロア・カルテルの王に返り咲く。

ケラーもメキシコに戻り、再びバレーラを追う。

だがその8年後に2人はより凶悪な悪を殲滅するために手を組むことになる。

そしてバレーラは行方不明となり1年後…

バレーダの死体が発見された。それの持つ意味…

大きな混沌の始まりであった。

かつてのシナロア・カルテル3巨頭であるエスパルサ家とタピア家の息子、エスパルサ一派の元警護部隊長ディト・アセンシオン、バレーラの右腕リカルド・ヌニエスの息子でありバレーラの名付け子リックら第3世代による王座をめぐっての争いが勃発した。

それだけではない。服役中の元カルテルのボスであるラファエル・カーロが20年以上のケーキの末、出所し返り咲きを目論み、同じくアメリカ人麻薬商のエディー・ルイスも暗躍し、麻薬をめぐる抗争は日に日に激化していく。

一方で麻薬取締局局長となったケラーはヘロイン流入を止めるため、ニューヨークにて極秘作戦を開始する。

その背景には国とドラッグマネーが関わる腐敗の構図が見え隠れしていた。

全てを敵にすることになったケラー、果たして彼の決断は…

この作品は三部作の完結編である。

と言うのを知らずに、この作品から読んだが、十分に楽しめるし、読後前2作も読もうと思った。

3冊目からと言うことで、最初は登場人物の多さとその関係性を把握するのに、少々時間がかかったが、気づけば上下巻で1500ページ以上あるにも関わらずに一気にのめり込んで読破してしまった。

物語は前作の終わりからスタートして、麻薬界の大物のバレーラが死んで、そこから冒頭のワシントンDCでのシーンに至るまでが描かれている。

メキシコの麻薬をめぐる争い、カルテルの縄張り、ドラッグ売買、大国への大量流入と、日本ではまず計り知れない世界の話だろう。

継父に暴力を受け、殺害した秘密の過去を持つ少女が、成長とともに麻薬に溺れていく姿。

果てのない暴力と貧困から抜け出すために、命がけでアメリカに逃げてきた少年が、その弱さゆえに犯罪に手を染めていく姿、第3世代の抗争とケラーと犯罪組織との戦いを描いたメインテーマだけでなく、麻薬にまつわる暴力や貧困との関係も描かれている。

ケラーの闘いは最終的に国家の腐敗との戦いとなる。

作中では明らかに、トランプ大統領に対しての批判と取れるメッセージも多い。

犯罪や暴力、国の腐敗と言う闇の部分を隠すことなく描き、痛烈な社会批判までを含んだ対策である。

犯罪小説の完成形と言う謳い文句に嘘はない作品であろう。