音乃木坂図書室 司書
海未、凛、希がリリホワを結成したその頃、とあるカフェで穂乃果、ことり、花陽の3人がくつろいでいた。
だがその様子は明らかに変である。
ことり以外の2人はどこか遠くを見つめるかのような表情をしている。
「うんうん…食べ過ぎた…苦しいよー…」
お腹をさすりながらうめき声を上げる。
その横では同じくお腹をさすりながら花陽もうめいていた。
2人の正面に座ることりは毎度のことなので、特に気にするそぶりもない。
以前は、この2人は本当にアイドルなのかなぁ…?と言う疑問を抱いたこともあったが、考えるだけ無駄だと言うことにいつしか気づいたことりだった。
この3人は、まだ見ぬアキバの名店探し、と言う何やら楽しそうなことをしていた。
要はただ単にお昼ご飯を食べる店を探していただけだが、3人の前に奇跡は訪れたのである。
あてもなく街中を散策していたら、なんと本日レディースデー、ランチブッフェ9 80円と言う店を発見したのだ。
大はしゃぎでその店に入店し、1時間半後の姿が今であった。
昼食後、案の定苦しくて動けないと2人が言うので、そのまますぐ近くのカフェにやってきたのである。
苦しいと言いながら飲み物を片手に、余韻に浸る2人だった。
「いやぁー驚きました。あの値段であんな豪華なブッフェだなんて…ゲップ…苦しい…もっと食べたかったけど制限時間60分なので仕方ないね。ゲップ…しばらく動けません」
「ね、あんなにおいしいものばかり食べれて幸せ。
でも花陽ちゃんの言う通り、90分ならよかったのに。…苦しい…」
苦しいだの動けないだの言いつつ、時間が短いと言う2人を見て、ことりはややひきつった笑みを浮かべて言う。
「あはは…だけど今日はラッキーだったね。あそこのお店、普段はランチでも3500円らしいから。私もスイーツがたくさんあって大満足だよ。でも一応聞くけど、どうして2人はいつも苦しくなるまで食べるの?」
言っても無駄なのは承知で、ことりはいつぞやの海未と同じような質問をした。
「だって食べ放題だから、たくさん食べないともったいないじゃん!」
「それはですね、食べれる時に食べておかないと私の信条なのです!」
以前にも聞いたことのある言葉が返ってくる。
前もそんなこと言ってたっけ、と思い出し笑をすることりだった。
それからしばらくして、苦しいと言っていた花陽が話題を変える。
「話全然変わっちゃうけど、次のPrintempsのライブどうする?」
Printempsの3人は皆音乃木坂に在学中のため、形式上はスクールアイドルと同じ扱いとなっている。
しかしスクールアイドルとは別に活動する目的で、始めたユニットなので、学外での活動をメインに考えているのだ。
学園祭のライブで初お披露目するや、一気に人気と知名度は上がり、元μ's3人によるユニットと言うことで、注目されている。
現にBiBi同様、学園祭の出演等の依頼も届いているのだ。
「そういえばそうだね。ライブやりたいよねー」ことりが言った。
花陽も言う。
「今、何件か秋の学園祭への出演オファーがあって、これは予定が大丈夫ならオーケーにするつもりだよ。
他にもいろいろ考えてるけど、今、スクールアイドル部で定期的にライブできないかって考えてるんだ。
1年生も入って、ユニットも増えたから定期的にライブでアピールできたらいいなと思うの。
次の生徒会の時、真姫ちゃんにも相談してみようかと思ってるんだ」
「花陽ちゃん、それナイスアイディアだよ!それならみんなたくさんアピールできるし、そうすれば音乃木坂ももっと盛り上がるもんね。
うん、やろう!大食いだけが取り柄ってわけじゃなかったね、花陽ちゃん!」
「穂乃果ちゃん、それ私に行っちゃう?少しは自分のお腹見てくださいよ」
すると穂乃果は自分のお腹を見つめる。
「えーっと…へへへっ...」ぽっかり膨らんだお腹。
明らかに食べ過ぎだ。
ちなみに花陽のお腹もぽっかりしている。
2人は互いのお腹を見つめて笑い合っていた。
それを見てことりは思う。
(明日ラブliveアキバドーム大会本番なんだけど…μ'sファイナルライブなんだけど…衣装のサイズ大丈夫かなぁ…)
ライブ前日にして不安になることりであった。
3人はその後もカフェでまったりと談笑を続けていた。
そして時間はあっという間に過ぎ、すでに夕方になっていた。
「もうこんな時間かぁ…明日はライブだし、そろそろ帰ろうか」ことりは2人に言った。
「うん、そうだね。でも帰る前に明日のライブ成功祈って神田明神でお参りして行こうよ」
穂乃果の言葉にことりと花陽はうなずいた。
カフェを出て、そのまま楽しそうにおしゃべりをしながら3人は神田明神へと向かっていった。
「そういえば前にこんなことあったよね。大会前日にみんなでお参りして、そのまま解散したはずなのに、なぜかみんな帰ってなくて、また全員集合しちゃったと言うことが」
穂乃果の言葉に花陽が反応する。
「あぁ、あったね。懐かしいなぁ。確か学年ごとに分かれて帰ったんだよね。
それなのに神田明神の男坂の前の交差点で9人が再開しちゃったんだよね」
それはつい先日のことのように思えるが、気づけばもうずいぶんと前のことであった。
懐かしい記憶が蘇る。
μ'sとして活動してきた日々…全てが最高で毎日が輝いていた。
だがそのμ'sもいよいよ明日のライブを持って、今度こそ本当に活動に終止符を打つ。
最高のフィナーレを迎えるために、最高の仲間たちとやれることは全てやってきた。
そんな思いを穂乃果は抱きつつ、神田明神の男坂の手前までやってきた時、ことりが声を上げた。
「あれ…ちょっと待って…!」
そういったことりは指を指す。
差し向けられた指先に目をやる穂乃果と端様は思わず目を丸くする。
男坂の逆方向にはこっちに向かって歩いてくる絵里とにこと真姫の姿があった。
続く