グラフィティの聖地を脅かす陰謀とは

オーバーライト ―ブリストルのゴースト


オーバーライト ―ブリストルのゴースト

池田 明季哉 (著), みれあ (イラスト)

イギリスのブリストルに留学している大学生のヨシはある日、突然に自分の信じていた景色が一変してしまう。

それは1つの絵だった。

壁に描かれたライオン。

それほどリアルではないが、その絵には力強さがあり、エネルギーに満ちていた。

ヨシは引き寄せられるように見入ってしまう。

そこに1つの人影が現れるが、ヨシの存在に気づくと、ゴーストのように消え去ってしまった。

ヨシは小さなゲームショップでバイトをしているが、ある日バイト先のガラスに落書きをされてしまう。

描かれていたのは船に乗ったガイコツだった。

それはよくあるグラフィティだった。

グラフィティとはスプレーやペンを用いて、街の壁などに描くアートである。

多くの場合は犯罪行為にあたるが、いつしかグラフィティ・アートと言う芸術としての一面を持つようになり、バンクシーのような有名アーティストを輩出していた。

バイト先の先輩であるブーティーシアことブーと言う女性も、グラフィティーに詳しく、2人は落書きの犯人探しを始める。

犯人の目星をつけ、ヨシはブーとともにベアー・ピットと言う広場に向かう。

そこは数多くのグラフィティで埋め尽くされており、ヨシは圧倒されてしまう。

しかも下手なものは、すぐに上書き(オーバーライト)されてしまうのだ。

そこで2人の前にララと言う少女が現れる。

ララは海賊(キャプテン)と呼ばれる有名ライターであり、そしてブーもかつて幽霊(ゴースト)と呼ばれたライターだったのだ。

落書きの犯人…

そこには街を巻き込む大きな陰謀が渦巻いていた…

英国を舞台にグラフィティ・アートと言う題材を扱った作品である。

日本にはあまりなじみのない文化のグラフィティ。

自分はニューヨークのロウア-イーストサイドの6人の肖像や、LAダウンタウンのアーツ・ディストリクトぐらいしか知らないが、やはり日本人にはあまり親近感がないだろう。

それを自身の体験をもとに、見事にわかりやすく、そして再び立ち上がろうとする若者を描いたアート&青春小説に仕上げている。

知らない専門用語も、親切に作中で解説してくれており、オススメの作品だ。

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