城壁都市『シティ』

世界の終わりの壁際で


世界の終わりの壁際で

吉田エン (著), しおん (イラスト)

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吉田エン (著)

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人類が滅びかねない厄災が予想される近未来の東京。

この街では人類が存続し続けるべく、大きな壁が建設されていた。

高さ数千メートルにもなる巨大な壁は、山手線に沿って建設され、壁の内側は、シティと呼ばれ、限られた富裕層のものや選ばれた者のみにしか居住権は与えられないどころか、中に入ることさえできない。

これは人類のノアの方舟であったのだ。 大半の人間は壁の外で生まれ育ち、死んでいく。

壁の外は治安も秩序もない。

ゴミ溜めみたいな世界であった。

そんな世界で育った少年、片桐音也は、生活のためにフラグメンツと呼ばれる格闘ゲームで賞金を稼ぎ、壁の中に入ることを夢見て、生計を立てていた。

だが内側の人間に比べ、圧倒的に資金が足りず、一定のランク以上に進めずにいたのだが、片桐は友人から金になる話を持ち込まれる。

内容はある金持ちの家にある車を盗むこと。

悩む片桐であったが、報酬の大きさに抗うことはできなかった。

この決断が彼の今後を大きく変えようなどということは知る由もなかった。

結局、車は入手することができず、大破してしまった車から持ち出せたのはブラック・ボックスと呼ばれるデバイスのみであった。 警備ドローンに追われ、命からがら逃げる片桐は逃げた先で不思議な少女と出会う。

彼女の名は雪子。

ほとんど目が見えない代わりに、ものすごい聴力を持っていた。

そして持ち出したブラックボックスは高度な知能を有するAIであることが判明し、後にコーボというこの人工知能デバイスをめぐって、激しい争いが展開されるのであった。

コーボと雪子との出会いにより、少しずつ知られざる壁の内側の真実が明かされていくのであった。

第4回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品である。 近作品、まず本のタイトルに目を惹かれた。

いかにも世界の終末を描いたかのようなタイトルに、SF作品として読む前から面白そうだという第一印象を受けた。

物語はゲームの世界から始まり、AIとの会話があり、早々に近未来の世界感を漂わせスタートする。

壁の外で育ったという環境もあり、何を信じればいいのかと自問自答を繰り返す片桐。

そして自分の信じたものは、最後まで貫き通そうとする姿勢。

小川一水がストーリーの強さが素晴らしいと評価するのも頷ける作品であろう。

巻末に今回ノミネートされた作品の選評があり、厳しい意見もあったりするが、個人的には物語の芯がしっかりとしており十分に面白い作品であると思う。