音乃木坂図書室 司書
そして亜里沙が会場に向けて言う。
「聞いてください。Ray-OGで真夏のZero」
亜里沙の掛け声とともに、会場には刻みの良いギターサウンドが流れる。
まるでバンドのようにすぐさまドラムとベースの重低音が加わる。
ロックバンドかのごとく、激しいサウンドはとてもかっこ良い。
そこに3人の激しい振り付けとシャウトに近い歌声が混じり合う。
これは本当にアイドルのライブなのかと疑うくらい。
今までにない曲調のRay-OG。
すでに会場の多くの人が初めて見るRay-OGのパフォーマンスに度肝を抜かれていた。
かっこいいギターのリフに、ズシンと重たくなり響く重低音のベース、見事な梨緒のボーカルに、それを彩るかわいい歌声の亜里沙と雪穂。
曲のクオリティーの高さもさることながら、何よりこの3人のパフォーマンスの素晴らしさ…ライブ前の緊張が嘘だったかのようである。
そしてステージ裏でRay-OGのライブパフォーマンスを見ていた先輩の6人、OGの絵里とにこ、A– RISEのツバサとあんじゅ全員が感じていた。
完成度が高いと。
おそらくは会場の観客の多くの人もそう感じたであろう。
わずか結成2ヶ月足らずだと言うのに、まるでずっと一緒に活動しているかのような3人のパフォーマンスだった。
「絵里…あの子たちすごいことになるかもね…」
ステージ裏で見ていたツバサは、自然とそんな言葉を漏らしていた。
A– RISEとして、プロのアイドルとして最前線で活躍しているツバサの直感であろう。
絵里も思わず同意の声をあげていた。
「えー、そうね…亜里沙、ハラショーだわ…」
μ‘sicforeverの6人もそのパフォーマンスに感嘆の声をあげていた。
特に作曲を担当している真姫は、自分ではまず作ることのないような楽曲に、驚きの声をあげていた。
「あの子たち、やってくれるじゃないの…」
μ‘sとは似てもにつかない曲調であり、それより今までのどのスクールアイドルにも当てはまらないような曲を披露したRay-OGの3人。
一言で言うならば”かっこよくてかわいい”そんな表現がぴったりであった。
そして驚くのは次の曲もであった。
1曲目とはうってかわってラテン調でサンバのリズムを取り入れた曲だったのだ。
これもまた誰もが驚いていた。
ホイッスルの音色とともに踊りだしたくなるようなサウンドで、ステージの3人も会場も皆がノリノリだったこの曲に関しては、梨緒の得意分野だった。
何せ、中学の途中まで南米のブラジルで生活をしていたのだ。
こうしてRay-OGの3人は見る者に強烈なインパクトを与えて、はじめてのライブを終えた。
ステージ裏ではライブを終えたRay-OGの3人と入れ替わるようにμ‘sicforeverの6人が待機していた。
心地よい汗と共に充実した表情のRay-OGの3人。
会場は3人のライブの余韻が残っていた。
そんな3人を見て穂乃果が声をかける。
「お汁粉ガールズのライブ、最高だったよ!」
「ねぇお姉ちゃんてば、おしるこじゃなくてRay-OGだって!いい加減覚えてよ」
言葉ではそういう雪穂であるが、自分たちのライブを姉に褒められて、内心は嬉しいのである。
穂乃果は姉であると同時に憧れていたμ'sの中心人物なのだから。
また冗談交じりにたたえた穂乃果だが、Ray-OGのパフォーマンスには、心底驚かされていた。
いつの間にか自分の妹が、スクールアイドルとしてこれだけ成長していたことが本当に嬉しかったのだ。
そしてライブは残すところμ‘sicforeverのみとなった。
今回のライブの大トリであり、μ‘sの亡き後の新しいユニットとして誰もが期待していた。
「さていよいよね。μ‘sicforeverとしての6人の新しい姿を見せてもらおうか」
ステージ裏で見守っているOGのにこが言った。
それに反応するように絵里も続く。
「そうね、新しい6人でのライブステージ、楽しませてもらいましょう」
[15:00~タイムテーブル6組目]
ステージ裏ではライブを控えるμ‘sicforeverの6人が、いつもと変わらぬ、リラックスした表情で待機している。
そこにふと気づいたと言わんばかりに凛が言う。
「あ…ねぇ穂乃果ちゃん、ライブ前の掛け声はどうするの?」
「そういえば… 何も考えてなかったねぇ」と言って穂乃果は笑う。
さすがの6人である、ライブ直前でも余裕の会話である。
今までμ‘sとして積み上げてきた経験があるからこその今であるが、それ以上に、この6人は本当に心から純粋にライブを楽しみにしているのだ。
「にこがいたら、こんな時はきっと“しょうがないわねぇ“と言って仕切り出すんでしょうね」
海未の言葉に6人全員で声を出して笑う。
そして少し離れた場所にいるにこを皆が見つめる。
もちろんにこにこの会話は聞こえていない。
軽くネタにされているとは知らずに、にこは6人に手を振って、親指をぐっと立ててポーズする。
にこからすればそれは、“あんたたち、ライブ期待してるわよ“と言う意味だったが、そのポーズが6人の会話の内容からすると滑稽であり、さらに笑う6人であった。
「あぁ、おかしい、にこちゃんてばー…ところでさぁ、掛け声は実際にどうするのよ、穂乃果!花陽!」
真姫はリーダーと部長の2人に問う。
「ごめん、私も何も考えていなかった。どうしようか?」
花陽が答えた。その横で穂乃果は腕組みをしている。
そしてうん…と言い、3秒ほど間を置いて喋り出した。
「よし!今考えたんだけど、みんなで肩をくんで円になろう。それで1人一言ずつ言う。
そして最後にみんなで声を揃えてμ‘s 、μ‘sicforeverってので決めた。
はい、これに決定!異議は受け付けません!」
「もう決定なんだね、さすが穂乃果ちゃん」優しい笑みを浮かべてことりが言った。
「オーケー、じゃあそれでいきましょう」真姫が同意し、他の皆もうなずく。
「それじゃあみんな行くよ!」穂乃果の声とともに6人は円になって肩を組む。
そして互いに目を見合わせて言葉はなしに再びうなずく。
「今日、私たち6人の!」雪穂が先陣を切って大きな声を上げた。
「新しいスタートの日に!」かわいい声で続いたのはことりだ。
「みんなを楽しませるために!」最高の笑顔を見せる海未。
「最高のライブを!」凛も満面の笑みで言った。
そして…「全力でやり切ろう!」花陽がうまく締めくくった。
「おーっ!…てねーちょっと…私だけ余っちゃったじゃないのよ!」
思わず1人ノリツッコミをする真姫。
6人はお互いの顔を見合わせて笑っていた。
やはりμ‘sの時と同様に、この6人の結束力はすごかった。
それだけ仲が良く、お互いを信頼しているのだろう。
ひとしきり笑いあった後に、気を取り直して真姫が言う。
「これはμ‘sじゃない。新しい6人でのユニットだよ。でもねμ‘sがあったからこそ今だから…私はこのμ‘sicforeverはμ‘sの第二章だと思っている。
みんなと今こうしてここにいられるのが嬉しいよ。ありがとう、みんな…それじゃあ、μ‘sの物語の続きを始めよう。行くわよ、みんなしっかり私についてきなさいよ!」
真姫は言った。
これはμ‘sではないけれど、μ‘sの物語の続きだと… μ‘sの第二章だと…先輩の3人は卒業して、もう一緒にはいない。
でもいつでも気持ちは… 3人の思いは私たちと一緒だから…
それは真姫の思いと皆への感謝の気持ちであった。
そして6人は声を合わせて言う。
「μ‘s、μ‘sicforever」元μ‘sの6人による新生μ‘sicforeverとして新しい物語が今スタートした。
続く