アンディ・ウィアー 著 小野田和子 訳
人類初の月面都市であるアルテミス。
といっても直径500メートルのドームがトンネルで接続されたもので、このドームに2000人の住民が生活している。
5つのドームには、アポロ計画で月面に降り立った人類最初の5人の名が付けられていた。
アルテミス建設と言う巨大プロジェクトを実現させたのは、ケニアの財務大臣が立ち上げた宇宙産業のKSCと言う組織である。
そんなアルテミスでポーターとして運び屋を営みながら暮らす女性のジャズ。
彼女はただの運び屋ではなく非合法の密輸業を行っていた。
物心ついた時から月で暮らすジャズには、どうしても多額の金を貯める必要があった。
そんなジャズの元に大物実業家であるトロントから仕事の依頼が入る。
トロントはジャズにとってポーターのお得意様であったが、その依頼内容は密輸ではなく、企業買収を目的とした破壊工作であった。
悩むジャズであったがその報酬はアルテミスの通貨で1,000,000スラグと言う大金であり、引き受けることにする。
ジャズに与えられた仕事はサンチェス・アルミニウムの4台の収穫機をを破壊すると言うものだった。
計画実行のため、入念に準備をするジャズであったが、あと少しのところで仕事は失敗に終わってしまう。
だがそれはアルテミスの未来を左右する陰謀へとつながっていたのであった…
火星の次の舞台は月。
と言うことでアンディ・ウィアーの第二長編である。
今作においても前作「火星の人」と同様に、主人公の1人称で物語は進んでいくが、ジャズの強気な性格とユーモアある語りは訳者の腕もあってだろう、とっても楽しく読めるようになっている。
どんな作品でも、特にSFと言う世界においては、その未知の光景が頭の中で再生(イメージ)できるかどうかで、その作品の見え方や楽しみ方は大きく変わってくるが、実際に自分もアルテミスにいるかのように、月面世界を思い描きながら読める作品であろう。
前作に続き、今作も間違いなく傑作である。