音乃木坂図書室 司書
それから1時間後。
真姫の買い物を終え、駅近くにあるファーストフード店にて休憩をする2人。
ここは以前にも凛と花陽の3人で来たこともあり、店前がオープンスペースとなっていて、真姫のお気に入りの場所の1つである。
軽食をとりながら話に夢中の2人。
ほぼ毎日のように会っていたにもかかわらず、最近のことであったり、新しい生活のことであったり、お互いのプライベートのことであったりと、話題が尽きる事はなかった。
放っておいたら永遠に喋っているのではないかと言う勢いである。
そしてやはりというか、必然的にアイドルの話になっていた。
「それでにこちゃん、アイドルはどうするの?」
にこは訊かれるであろうなと思っていた。
だからその質問に動揺する事はなかった。
だが、にこが答えようとする前に真姫が続けた。
「もちろん続けるんでしょう…?μ'sは終わって、3人が卒業してバラバラになっちゃったけど、にこちゃんがこんなことでアイドル諦めちゃうわけないよね…?」
真姫の言葉は、にこにアイドルを辞めないで続けてほしいと願っているかのようであった。
それに加えて自分も一緒にアイドルをやりたいと言っているようにすら聞こえる。
「今日、友達にも同じこと言われたばかりよ。もちろんアイドルは続けたいと思っているわ。でも…どうしたらいいかわからなくて…すごい悩んでる…」
真摯な態度でにこは言った。
「だったら続けてよ。にこちゃんからアイドル取っちゃったら、そんなのただのにこちゃんじゃん…」
にこは真姫の言葉に苦笑する。
ただ言いたいことはわかっていた。
「何よそれ、私は私よ。あんた何言ってんのよ」
「私はにこちゃんにアイドルを続けて欲しいって言ってるの」
少し間を置き、一息ついてにこはしゃべりだした。
「私たち9人で決めたことだから、もう揺らぐ事はないと思っていたけど全然だめね…今日、友達にも言われて気づいたの。やはり今も心のどこかでμ'sをやりたいと思っている。新しくアイドル活動をしてしたいと言う以上に、μ'sのみんなでやりたいと思ってしまっている。もう終わりって決めたのにね…」
自分の本音を告げるにこ。
μ'sがやりたい。
μ'sの9人でやりたいと言う素直な気持ちを…
「にこちゃん…そうなんじゃないかって思ってたよ。だって毎日音乃木坂来てたもんね。私も同じ気持ちよ。頭では理解してるけど、認めたくないっていうか…でも残った6人で新しくスクールアイドルをやろうって決めたばかりだから。だけど少し複雑な気持ちも拭えないのよね」
真姫もにこと同じ思いであった。
おそらく2人に限った話ではないだろう。
絵里と希もそうであったように、9人全員が今でも何かしらμ'sに対し思うことがあるとしても不思議ではない。
「そりゃそうよ。μ'sは私たちにとっては特別なもの。あんな素晴らしい時間を皆で共にしてきたんだから。みんなで納得して決めたことだけど、はい終わり、以上!て言うわけにはいかないわよ…」
2人はμ'sに対する思いに耽るかのように沈黙する。
「そうだ、にこちゃん!」
右手人差し指で髪の毛先をくるくる回していた真姫は、沈黙を破り、何かを思い詰めたかのように声を上げた。
「何、どうしたの?」
真姫の言葉を待っていたかのように、にこは反応した。
「考えたんだけど、私たち6人はもちろん音乃木坂でスクールアイドルとして活動するわ。これはみんなで決めたこと。こっちは私からの提案。アイドル活動は何もスクールアイドルに限られたわけじゃない。学校外でのアイドル活動もありだと思うの。だから卒業した3人、にこちゃんに絵里と希、そして私の4人で学校とは関係なしに外でアイドル活動…なんてのはどうかなぁ…?」
真姫の提案に対し黙って耳を傾けるにこ。
その表情からは何を考えているのか読み取ることができない。
腕を組みそのまま目を閉じてしまう。
にこの異変に気づいた真姫は声をかける。
「ねぇ、にこちゃん…黙ってないで何か言ってよ…」
すると、ちょっと目を開き、鋭い目つきで真姫を見つめるにこ。
この顔はアイドルに対して真剣に向き合っているときのにこである。
やや強い口調でにこは言う。
「真姫、あんたそれ本気?本気でそれ言ってるわけ?中途半端な気持ちで言ってるなら許さないわよ!」
学校外で一緒にアイドルをやろうと提案した真姫。
だがそれは真姫にとってスクールアイドルと掛け持ちでと言うことである。
にこにとっては複雑な思いであった。
一緒にアイドルをやろうと言ってくれた真姫の気持ちは心から嬉しいものであった。
しかし真姫は6人で新しくスクールアイドルをやると決めたばかりである。
そんな状態で掛け持ちをした結果、どちらとも中途半端になってしまう可能性だってある。
もし、学校外のアイドル活動をやるなら全力でやりたいし、新しい6人でのユニットも全力でやって欲しい。
そんな想いがにこにはあったのだ。
だが真姫はにこの言葉に強い口調で反発する。
「本気よ。本気に決まってるじゃない!だからこんなこと言ったんだよ!冗談でこんなこと言うわけないじゃない!」
にこも強い口調で返す。
「でもあんたね、それがどれだけ大変かわかってるの!?」
「そんなのわかってるわよ!μ'sの時でさえ大変だった。
それをスクールアイドルと掛け持ちで、学校もバラバラの4人でやろうと言うのが、どういうことかぐらいわかってる。
2つを本気でやるのがどれぐらい大変わかってるわよ!」
真姫の勢いに少したじろぐにこ。
正直ここまで強い口調で返されるとは予想もしていなかった。
真姫の熱い思いに対しそれ以上返すことができなかった。
にこは真姫が冗談でそんなことを言う事はないとわかっていたし、真姫もにこのアイドルに対する思いを知っているからこそ、にこが自分に言った言葉の意味を理解していた。
続く