松村 涼哉 (著)
おぞましい恐喝事件がSNSで話題となる。
高校生が中学生の男女6人から恐喝した。
その被害額は累計で3,023万円。
常軌を逸している金額だが、被害者の1人の少女が、親の遺産を相続していたからだった。
恐喝犯の名は大村音彦。
その男はついに中学生に暴行を加え、重傷を負わせると言う暴挙に出る。
情報は瞬く間に拡散していく。
だが大村にはそれが悪質な嘘だとわかっていた。
大村はある夜、中学時代の後輩から呼び出され指定された場所に行くと、そこには後輩を含む3人の中学生が血を流して倒れていた。
すぐに助けようとし、誰にやられたかを聞く、帰ってきた言葉は「大村音彦」だった。
そんなはずはない。
だって自分が大村音彦なのだから。
そこへ警備員がやってきて、大村は慌てて逃亡する。
SNSで情報を流しているエノキダハルトと言う人物だけが意見の手がかりだった。
大村は友人の女性の力を借りて逃走する。
大村は暴行事件は冤罪だと主張する。
だが裏を返せば恐喝事件については、真実であることが友人たちにばれてしまい、1人でエノキダハルトを探すことに。
しかし、SNSの情報により、次々と大村の行く手を阻むものが現れる。
逃げる大村にエノキダハルト。
やがて2人が対峙する時、すべての真相が明らかになる。
それは一緒に生きて守ると決意した日から始まった幸福な地獄だった。
松村さんの2冊目は、歪んで壊れてしまった少年少女の心理を実にうまく描写していると思う。
主人公の大村とイジメられていた少女の関係、その周囲を取り巻く人間たち、互いに誰かを守ろうとした行動が悪意を蝕んでいき、より悲しい結末をたどってしまう。
自己犠牲や献身が必ずしも全て良い結果を生むとは限らない。
そんな愚かで壊れた世界で戦った少年少女の物語である。