音乃木坂図書室 司書
”スクールアイドル部部長小泉さん、校内にいましたら理事長室まで来てください”
校内放送スピーカーより流れたのは理事長の声だった。
「え…なんだろう…」 花陽の脳裏りに一抹の不安が過ぎる。
前回ラブライブにエントリーした際に、理事長より赤点のある人の参加は認めないと言われたのを思い出したのである。
仮にも音乃木坂は歴史ある名門校であり、学業をおろそかにしての部活動参加は容認できないと言うのは、教師としては当然であろう。
その結果、以前にこと穂乃果と凛は勉強に追われることになったのだ。
その際、海未が穂乃果の家に泊まり込みで勉強を教えたのだが、後に穂乃果はあの三日間は地獄だったと語る。
「みんな練習始めてて。ちょっと行ってくるね」
部員にそう告げて花陽は部室を後にして理事長室へと向かう。
だが花陽の指示に従うものは1人もいない。
皆、呼び出しが気になるのだろう。
花陽の後を追うように2・3年生が、そしてさらに一年生が続いていた。
まるで大名行列かのごとく、スクールアイドル部一行は長い列をなしていた。
理事長室前に着いた花陽は後ろを振り向く。
予想通りみんながついてきていることに気づき苦笑いする。
「もう…練習してって言ったのにしょうがないなぁ。みんな静かにして待っててね」
花陽は1人、理事長室へと入室し、バタンと扉を閉める。
その瞬間、2・3年生を中心に一斉に扉の周りに集まる。
特に前回、テストにおける赤点問題の当事者である穂乃果と凛は気が気でない様子である。
2人はそわそわするような仕草で理事長室の扉に耳をピタリとつけて聞き耳を立てている。
同じく海未とことりと真姫も同様にである。
その後では押し合うような形で1年生が囲んでいる。
理事長室では花陽と理事長の話が進んでいた。
「ねぇ凛ちゃん聞こえる?」 穂乃果が凛に尋ねる。
「うーん、よく聞こえないね…」 凛が答える。
「ちょっと穂乃果押さないでよ!」 真姫が言った。
「私じゃないよ、海未ちゃんだよ!」 人のせいにする穂乃果。
「なんで私のせいにするのですか穂乃果!」怒る海未。
「2人ともうるさいよ、静かにして!全然聞こえないよ」 ことりが言った。
花陽に静かに待つように言われたのに、理事長室の扉の前で相変わらずな5人であった。
「なんだかずいぶんと外が賑やかね。と言うわけで小泉さん、大変だと思うけど考えてもらえるかしら」
理事長の言葉に少し間をおいて返事をする花陽。
「はい…分りました…」 はいと頷いた花陽であったが、その声は戸惑いの感情が見て取れる。
それでは失礼しますと花陽が言って、理事長室を出ようと扉の取っ手に手を出した瞬間であった。
扉が勢い良く開いたのと同時に、穂乃果と凛がつんのめるような形で理事長室に倒れながらなだれ込み、その後から海未とことりと真姫が、さらには一年生がどっと流れ込む。
つっかえ棒が取り外されたかのような光景である。
「いててててて…重たいよー、みんなどいて…」
倒れた穂乃果の上に凛が、その上に覆い被さるように海未とことりも倒れていた。 真姫だけはうまいこと躱していた。
「ちょっと!みんな何してんの、もう!」
あきれたように言う花陽を見て、理事長は笑っていた。
「あらまぁ、ふふふ…みんな元気がいいわね」
そういえば前にもこんなことがあったなと思う理事長であった。
そこにすかさずことりが問いかける。
「ねぇお母さん、今回はどういうことなの?」
「もしかしてまた赤点問題ですか…!」
穂乃果はとても不安そうな表情で理事長を見つめる。
なんといっても穂乃果は赤点の常連であり、追試を受けたこともある位だ。
穂乃果の隣では海未も心配そうな面持ちである。
そんなみんなの顔を見て、理事長は面白おかしそうな顔をしていた。
「そうね、確かに赤点はまずいわね。でも違うわよ高坂さん、今日は別の話。うん…みんなにも話しておく必要があるわね」
それを聞いて穂乃果は安堵の表情を浮かべる。
「よかった…あ、でも赤点じゃないとすると…」
「これから説明するわね。悪いんだけど2・3年生以外は外で待っていてくれるかしら」
理事長は2・3年生の6人を部屋に残し扉を閉める。
そして机まで戻り、6人に振り返って言う。
「さて、どうしようかしら。小泉さん私から話しちゃっていい?」
「はい、お願いします」
すでに事情を全て把握している花陽が答えた。
全員が理事長の言葉に耳を傾ける。
「率直に言うわね。μ's復活の話を」
μ'sの復活…その方言葉を聞いた瞬間に全員の心が揺れた。
まさか理事長の口からそんな言葉が出てくるとは…
予想だにしていなかったことに、花陽以外の5人は驚きを隠せないでいた。
「お母さん…その話は…」
ことりの言葉を遮るように理事長は続ける。
「第3回ラブライブの件はみんなもう知っているわよね。実は先ほどね、ラブライブ本部より連絡があってね。
μ'sのニューヨークでのPRライブのおかげで、アキバドーム大会の開催が実現できたことに対して感謝の言葉をいただいたの。
それと同時に、第3回ラブライブアキバドーム大会において、μ'sにスペシャルゲストとして出演してもらいたいと言う依頼があったのよ」
それは予想外のことであった。
まさかのラブライブ本部からμ'sへのゲスト出演の依頼である。
あれだけの人気を誇ったμ'sである。
しばらくして、いずれはそういう話が出てもおかしくないと思っていたメンバーであったが、まだμ'sが終わって数週間しか経っていないのに、こうも早くμ'sに対して復活の依頼があるとは、誰1人として思ってもいなかったのである。
6人全員がお互いの顔を見つめ合う。
皆が戸惑いの表情である。
理事長もそれはわかっていたのだろう、少しの間、理事長室は重たい間に包まれていた。
続く